子どもの子守唄
友だちのことを書きますね。
Sさんは、大学時代の友人で、学部が同じで家も近くて、入学してすぐ仲良くなって、朗らかな人に見えました。
けれどもしばらく一緒にいると、色んなところが見えてきて、本当はすごく傷つきやすくて思いやり深い人でした。
ある日の夜更け、Sさんから電話があって、何かをひたすら叫んでて、安否を聞いても答えはなくて、突然電話も切られてしまい、私は寝巻きで飛び起きて、Sさん家の前まで行って、バタンとドアを開け放つと、「ゴキブリでたよ」と笑ってて…
またある日、一緒に授業を受けていて、ふとSさんの方を見ると、その手が真っ赤に染まってて、手首に深い傷があって、慌てて病院へ運んで、手当てが終わってひと息ついて、何があったのか尋ねると、とびきり困った顔をして、「昔の傷が開いちゃって」…
またある日、小さな飲み会が終わって、朝まで電車を待つ間、寝転ぶ私のすぐそばで、薬をいくつも飲みながら、「私これがないと死んじゃうの」…
またある日、夢にSさんが現れて、ぼろぼろ涙を流してて、何度も何度も叫んでて…
「お母さん、お母さん」
学生時代もいつしか終わり、卒業するころ震災があり、Sさんは日本を離れて、私も東京を離れて、お互い連絡も取らずに、流れる月日と風の便りに、Sさんのお母様が亡くなられたことをお聞きしました。
それから更に何年か経って、なぜか東京へ行きたくなって、ふと思いついてSさんに、久しぶりに連絡すると、たまたま日本にいるとのことで、飛行機に乗って電車に乗って、池袋で待ち合わせをしたら、昔のようにただ話して、江古田を懐かしく歩いて、喫茶店で紅茶を飲んで…
少し痩せたけど元気そうで良かった。
またね。
それからまたしばらく経って、ある夜ふと目を覚ましたら、氷のように、冷たくて、でも確かに優しい眼差しで、君は枕元に立っていた。
ありがとう、ありがとう。
またねって言ったからでしょう。
(2020/08/18) ピアノを弾いていたら、なぜかふと、Sさんが今も見守ってくれていることが分かった。何も心配しなくて良いんだ。彼女が見ていてくれるんだから。
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