『マイ・ディア・ミスター 〜私のおじさん』
2018年・韓国(tvN)
演出:キム・ウォンソク
脚本:パク・ヘヨン
出演:イ・ソンギュン、IU、コ・ドゥシム、パク・ホサン、イ・ジア、キム・ヨンミン、パク・ギヨン
「理不尽な世の中に翻弄され、報われない日々を生きる若い女と中年男。ふとしたことから知り合ったふたりは心を通わせ、肩を寄せ合いながら互いに心を癒されてゆく」というNetflixの紹介文から、ふわっとしたハートウォーミングな話を想像して、つまらなかったら途中でやめよう、と思いつつ観てみました。
中年男パク・ドンフン部長は、社長になった後輩のト・ジュニョンに不本意な部署に左遷され、生気のない日々を送っています。その部署で派遣社員として働く若い女イ・ジヨンは「理不尽な世の中に翻弄され」と一言で片付けるにはあまりにヘビーな過去を持っていて、社内の誰とも交流しようとしません。ある日ドンフンに5000万ウォンの商品券が届いたところから話が始まります。
ドンフンの元に届いた商品券は賄賂目的で、しかも宛先が間違っていたのですが、これは社内人事をめぐる抗争の一端でした。そこにジヨンも絡んで行き… という会社を舞台にしたドラマを本筋に、ドンフンを巡る人々のサイドストーリーを織り交ぜながら、ドンフンとジヨンという人物を描き出して行くヒューマンドラマです。
第3話くらいまでは観ていてもイライラするような状況が描き出されます。暗いし、残酷です(と言ってもグロテスクなシーンがあるとかではないです)。観続けようかちょっと迷いましたが、この段階でやめるとこの苛立つような状況がそのまま自分の中に留まりそうで、観続けることにしました。
第4話から第6話くらいで少し動きが出て、第7話から第9話くらいでさらに話が展開します。
大筋の部分では、ジヨンが社内抗争の裏でどう振る舞って行くのか、それによってドンフンがどうなるのか、じわじわと気になるような展開で、なんていうか、そう、地味なお話です。ドラマにおける社内抗争、なんていうと、社内の「大名行列」みたいなシーンとか派手なやり合いとかを想像してしまいますが、ドンフンの性格を象徴するかのように静かに進みます。
もちろんですが、本作にも韓国ドラマには欠かせない家族問題は出てきます。ドンフンの兄サンフンと弟ギフンは共に仕事で失敗し、実家に出戻っていて、何かと騒がしく、高齢の母親は兄弟の世話を焼いている。一方ドンフン自身の家族は、弁護士の妻は自分の後輩と浮気、子どもは留学中で、家の中は寒々としている。
兄弟の序列の問題、母親の存在の大きさ、葬式に供花がずらっと並ぶことの重要性や親しい人にこそ知られたくない自分の恥(ともに韓国における体面の問題)、家族や仲間の重要性(ドンフンの妻、カン・ユンヒが感じたように、外の者からすれば排他的でもある)などなど、韓国社会の一端を知ることができます。
ジヨンに至っては親兄弟もいない上に、寝たきりの祖母がいて、施設の費用が払えないために自分のところへ引き取って世話をしています。祖母を施設から連れ出すくだりは胸が痛みます。そして二人の間の愛が沁みてきます。
個人的に「ひどい目にあった子ども」の話は観ていてつらくて嫌で、さらにそれがお涙頂戴的な演出だと腹が立ってくるのですが、この作品はそういうところがありませんでした。
人生の多くの部分は、誰と(どんな人物と)巡り会うかに大きく左右されるのだと改めて感じさせられるようなドラマです。