お仕事日記 4話

 いぶきは、たいちょうと息子さんのことが気になるみたい。でも、父親としては二人とも呼ばれてないらしい。それじゃ、まだ時間が必要かも?しまも、いいとばっちりだね。

 …仕事中に歌うなんて、久しぶりだ。しまは怒ってたけど、喜んでる子たちを見てると、ぼくも嬉しくなるよ。

 いぶきが子供たちにランドセルをあげたのは、人に喜んでもらう、という意味では失敗だったらしい。でも、困ってる人に何かしてあげたいって思う気持ちは、ぼくも分かるな。良いことをしたい人たちはたくさんいるのに、彼らのすることが世界を良くする訳じゃない、ってこと?

 …わ、いきなり止めないでよ、せっかくいい気分で歌ってたのに。人が良いことをするには、それなりに心とお金の余裕ってやつが必要らしい。お金の方の余裕を手に入れるために悪いことをする人がいるこの世界って、不思議だ。ぼくには、ピンと来ない。人じゃないからかな?

 …無線が入ってきた。拳銃による殺人未遂事件の通報があったらしい。二人は、やくざの抗争を疑ってるみたい。まずは、被害者の女性が立ち寄った薬局に向かうことに。

 芝浦署に戻って、今まで分かっている情報を整理することになった。初動捜査は一区切りついたけど、たいちょうが捜査を続ける許可をくれたみたいだ。

 被害者女性の弁護士さんに教えてもらった、彼女の就職先で話を聞くことに。何か分かるかな?

 今、ぼくたちが追ってる事件の被害者の名前は、アオイケトウコ、っていうらしい。生死が懸かったギリギリの瞬間にその人がどんな人か分かる、か。そのうさぎ、ホントにもらってきて良かったの?…まあいいや。それより、今「滅多にない瞬間」を経験してる彼女は、どこに向かってるんだろう?

 アオイケさんの勤務先を張り込むことになった。この感覚、久しぶりだな。ぼく、待つのは得意だよ。しまは彼女の口座を調べてるけど、いぶきは退屈そう。でも、この店の社長を見つけたみたいだ。彼女は会社のお金を横領して、別なことに使おうとしていたらしい。何に使うつもりなんだろう?彼もアオイケさんを追ってるんだから、直接彼女の居場所を聞いても教えてくれるとは思えない。おっと、社長が出てきた。…こんな状況で笑うのは自分でもどうかと思うけど、二人ともごまかすの下手過ぎるんじゃない?しかもそれ、ぼくの話だよね?

 あの社長は彼女の居場所を知ってるらしいので、追いかけることに。…いぶき、これは直接聞いてるうちに入らないよ。とにかく、ラッキーだったね。

 無線が入って、アオイケさんの居場所がやっと分かった。羽田空港を目指してるらしい。やくざの人たちも動き始めたみたいだけど、一番にたどり着くのはぼくたちだよね!とにかく、急ごう!…もう一度無線が入って、彼女が乗ってるバスのナンバーが分かったらしい。これで、見失わずに済むね。

 …あっ、アオイケさんの乗ったバスだ!ナンバーが一致してるから、間違いない。無線でたいちょうと話して、二つのことが分かった。あのバスは、次の出口で高速を下りるらしい。彼女を撃ったやくざの男も乗っていることが分かった。気づかれる前に、犯人を確保することに。不謹慎かもしれないけど、ちょっとワクワクしてきた。テンション上がるのはいいけど、それ、ホントに納得してる?

 彼女が乗ったバスと一緒に高速を降りて、いぶきがバスに乗り込んだ。…え、ここで歌うの!?よーし、思いっきり歌っちゃうよ!

 …ぼくの歌で、上手く犯人の気を逸らせたみたい。これって、お手柄だよね。と思ったら、しまがもう一人やくざが乗ってるのに気づいて、バスに走っていった。二人とも、大丈夫かな?さっきから歌っていられる状況じゃないけど、自分では止められないからしょうがない。でも、二人がぼくの歌を上手く使ってくれたのは嬉しいな。

 …うわっ!もう一人の犯人が、バスの中で銃を発砲した。パンチ一発で犯人を気絶させるなんて、いぶきは強いんだね。さっき確保した犯人を降ろして、気絶したもう一人も二人で降ろしてたら、さっきまで追いかけてた社長が、しまに銃を向けていた。見ているだけで何も出来ないなんて、辛すぎるよ。

 …って、しま!?なんだかいつもの彼じゃない雰囲気を放ってて、すごく怖い。いぶきが助けてなかったら、どうなってたか…。でも、二人とも無事でホントに良かった。

 確保した犯人をじんばさんたちに任せて、しまがバスの中に入ろうとしたら、いぶきがしまに詰め寄った。彼も、さっきのしまがおかしかったことに気づいたみたい。

 …そうだ、アオイケさんを早く見つけないと。彼女は、もう意識がないみたい。それでも、いぶきは必死に呼びかけてる。バスから降りた後も、ずっと彼女に声をかけ続けてた。話したかったことがたくさんあったらしい。一体、どんなことなのかな。その人のことを全く知らなくても、人が死ぬのは、見ているだけで辛くなる。でも、彼女が目を覚ますことはなかった。彼女は死ぬ直前まで、何を考えていたのかな?

 アオイケさんが生前通っていた宝石店に向かうことに。二人は、お金の行き先がここだと思ってるみたいだ。その後、彼女が今日立ち寄った配送請負店でも話を聞いたみたい。彼女は生前、さっきのお店で買った宝石をここに預けた…のかな?二人には分かったみたいだけど、ぼくには、まだよく分からない。やっぱり、人じゃないから?

 いぶきが言うには、ぼくたちも暴力団も、アオイケさんに裏をかかれたらしい。彼女の人生が何だったか、か…ぼくには分からないけど、人の価値って、簡単に決めていいものじゃないと思う。

 人の本性は生死が懸かった瞬間に見える、か。しまの本性は死にたいやつだって、いぶきは言ってる。しまは何でもないってごまかそうとしてるけど、あの時の雰囲気は絶対おかしかったと思う。二人が自分の命を危険に晒すのは、相棒として見たくない。もう一度やったら、ぼくの歌をしばらく聞いてもらうからね。ぼく、目の前で人に死なれるのは絶対嫌だよ!…しまは、一体何を抱えてるんだろう?