怒涛の北アルプス裏銀座 ④
やっとパソコンの前に座れた。多分これがこのシリーズ最終回。
一人小さな山小屋で一晩過ごす覚悟を決めた私に、現れたビリーとマナさん!の続き。
彼らのこの日の宿泊予定は、もう3時間先の烏帽子小屋だったのだが、あまりの暴風雨に、この野口五郎小屋に泊めてもらえないかと立ち寄ったとの事。もちろん大丈夫ですよと小屋の人。
ビリーとの再会を喜び、マナさんを紹介してもらう。私と同年代で山の経験が豊富、ビリーと同様気さくで優しい。
まるで小屋の人であるかのように、どうぞどうぞとストーブのついた乾燥室に二人を案内し、温まりながらおしゃべりをする。山の話・ウェアやギアの話・靴を直してあげた彼女の話。明日も一緒に下山しましょうと、二人に言われてとてもとてもほっとする。
晩御飯はまたもカレーだったけど、温かいお味噌汁がつき、なにより人がいて嬉しい。同じカレーでも、3回ともまるで違う状況下では心持ちも味も違うものだなぁとつくづく。
話は止まらないが、消灯時間はやってくる。外は相変わらず暴風雨。トタン屋根にバシャバシャと打ちつけている。私の耳栓と眠剤は、前日泊まった水晶小屋にいる(忘れた)ので(ビリーが10日後くらいにツアーのガイドで水晶小屋に寄るので、ピックアップして送ってくれるという!しかもすぐその場で水晶小屋に電話をし、手筈を整えてくれる!有能ガイドだ!!)、自力で寝なければならない。
ビリーが水を入れるバッグにお湯を入れて簡易湯たんぽを作ってくれたので、お布団はぽかぽか。お腹はいっぱい、くたびれてるしーと寝れないはずはないと布団にもぐる。
が、寝れなかった。全然。いろいろやってみた。体は寝返りを打つくらいしかできない(300回くらいした(感じ))ので、脳内でいろいろ。暖かいもの楽しい事綺麗なものー等なるべくポジティブな事を考える。もちろん羊も柵を一匹ずつ飛ばしてみる。時折パニック発作的なものがやってきて、布団をはねのけ、わーーーーーって叫びたくなったりもした。なんとかそれを押さえつけ、深く落ち着いた呼吸を心がける。
すごいな、こんなに寝れないもんなんだーと寝れない自分が面白くなったりもする。そのうち朝になるのはわかっているので、"横になっているだけでも、体は休める、回復してる"を繰り返し唱えながら、待つ。
やっと朝。わーい。下りで寝ちゃうかもしれないけど、ビリーたちはよく眠れたみたいなので、起こしてもらえるだろう。とりあえず下山だ。おうちに帰るぞ。
外は相変わらず雨風だけど、昨日ほどではない。おにぎり朝ごはん頂いて、すっかり乾いた服や靴を着込んで、出発。小屋のおじさんおばさん、お世話になりました。
ビリーが撮ってくれた一枚。二人は終始私を間に挟んでくれていた。
雷鳥も先行のビリーが発見。撮って!撮って!と騒ぐ私とマナさん。羽の先が少し白くなってるね。
足元をよく見ているせいか、行きには見なかったコマクサの小さな群落がいくつもあった。行きは快晴で山並みばかり見てたからなぁ。このコマクサ達はこれから楽しみねぇとマナさんと話す。
烏帽子小屋までの3時間はあっという間だった。
無事に帰ったよぉぉぉと、心の中で小屋のおじさんとハグ。小屋の前で簡単なお昼ご飯。ビリーがジェットボイルでお湯を沸かし、マナさんがスタバの抹茶ラテの粉をくれる。むーー都会の香りだ・・。うまいわー。
さて最終コーナー。ブナ尾根下り。雨で滑りまくるかと思いきや、そうでもなく、足元は安定している。霧雨で幻想的にけむった森の中を進む。それでもアルプス三大急登なので、下りとはいえ、急で長い長い。眠くはならないけど、疲れからか目がチカチカして、足元が覚束なくなる。二度ほどずるりと滑る。なんとか二人についていく。多分彼ら二人だったら、もっと早く降りられたろうに。
霧雨の森の不思議な綺麗な方々。
永遠に終わらないようにすら思えるくねくねとした下山道も、明けない夜がないようにいつかはちゃんと終わりが来る。先を行くビリーが、"もう着くよー"と声をかけてくれる。最後は手作り感満載のはしご階段。はやる気持ちを抑えて、ゆっくりしっかり降りる。と、そこは登山口。三日前に不安いっぱいで足を踏み入れた登山口だ。
やったやった。無事に帰れた。山で出会ったみんなが助けてくれた。いいオトナの大冒険。最高だった。達成感半端ない。そこらじゅうの人に握手とハグをしたい気分だったが、ダムの入り口にタクシーを待たせているので、さらに急ぎ足でしばらく歩く。タクシー楽ー、お風呂サイコー(七倉山荘の!)、車ちゃんと動いてすごいー、と、なんにでも感動しながら無事帰宅。
三日も山にいれたら楽しいだろうなーとなんとなく計画したものの、その後ホントに大丈夫!??と不安になり、おそるおそる歩き出した裏銀座の旅。
山は美しくて厳しく、出会った人はみな優しかった。
また!行きます!さらに鍛えて!また!!
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