9月26日、広島市西区で道路の陥没事故が発生し、周辺の建物や住宅が傾いたり亀裂が入ったりして、付近の住民24世帯計44人が避難する事態となっている。現場の地下30メートルでは、広島市が発注した直径5メートル(内径)の雨水管を、清水建設などの共同企業体(JV)がシールド工法で施工していた。
広島市の発表によれば、26日の午前8時40分ごろ、掘進中の機内への異常出水が確認され、数分後に道路が陥没。損傷した水道管の水があふれた。建物のひび割れや傾きなどは確認できただけで11棟、漏水や断水も16戸を数える。
現地では復旧作業が続いていて、原因について確定的なことは言えない段階だが、現地に入ったフリージャーナリストの樫田秀樹氏の取材によれば、すでに工事との関連性に踏み込んだ証言も飛び出しているようだ。
シールドトンネル工事が原因で地表面に変状が生じたり、住民生活に影響を及ぼしたりするケースがここ数年頻発している。今回の事故以前の主なものを挙げると以下のようになる。(TN=トンネル)
工事を安全に進めるにはどうしたらいいのか。
実は1か月ほど前の9月上旬、仙台市で土木学会の全国大会が開かれ、シールドトンネルの技術者らが一堂に会して意見を交わしていた。
土木学会では、トンネルの計画から設計、施工の各段階で守るべき事項や基準を定めた「トンネル標準示方書」といういわば〝教科書〟を制定・発刊していて、この改定が再来年2026年に予定されている。学会ではこれと同時期に、実際の施工事例から適切な掘進管理について解説する〝副読本〟「トンネル・ライブラリー」の発刊を予定している。
研究討論会では、改訂や編集の内容・進捗の報告とともに、近年のシールド工事を取り巻く厳しい環境、すなわち、大都市地下の過密により難易度が増す施工、ベテランの退職による経験人材の不足など、現場の「綱渡り感」が伝わる発言が続いた。
会では「トンネル標準示方書」に新たに「異常の兆候の早期感知と迅速な対応」という項目を追加するなど内容の充実を図ることや、「トンネル・ライブラリー」については、掘削地盤の変化を察知するための複眼的な施工管理の経験で得られた教訓や留意点を記載していきたい、経験の浅い技術者の手引きとなるようなものにしたい、などといった方向性が示された。
ゼネコンなど60社あまりでつくる「シールド工法技術協会」によると、近年のシールド工事の用途別件数は、半数以上が上下水道、次いで地下河川や貯留管、ガスと続き、道路と鉄道は合わせて10%程度だ。
東京外環道やリニア中央新幹線といった大型プロジェクトを想起しがちだが、実は暮らしのより身近なところが多くを占めていることがわかる。広島で掘削されていた雨水管にしても、太田川デルタの低地部に位置する市街地の浸水被害の防止を目的に計画された。
技術者たちの思いと裏腹に、度重なる事故やトラブル。
研究討論会の結びは、こんな訴えだった。
※情報は2024年10月2日現在です。
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