#17 陥没から4年(2)~〝止められなかった、一生の悔い〟
調布市東つつじヶ丘に住む上口房子さん(79)が、家の中で不気味な振動を感じた4年前の夏。外に出ると、近所の人たちも、同じように外に出ていた。
事業者に電話で苦情を伝えても、答えは「しばらく我慢してください」。
有識者委員会の報告書によれば、2020年8月20日と21日に、のちに陥没や空洞の要因になるカッターの回転不良が、上口さんの自宅から直線で80メートルほどの場所で初めて発生した。シールドマシンを朝起動する際に礫=石を含んだ重い土がマシンの下部で固着し、カッターが回せなくなるという不具合だ。
報告書で示された掘削土のデータによれば、上口さん宅の近くで回転不良を起こした時の礫率は20パーセントほどだったが、その後徐々に増え、最大で30パーセントを超える。硬い礫層を掘る振動が、その後も苦情を増加させたとみられている。
回転不良はいったん収まるが、9月8日に再び発生。10月12日まであわせて16回を数え、再起動の過程で地盤を緩ませ、陥没や空洞を発生させた。
結果として工事を止められなかったことを、一住民が「一生の悔い」と表現したことに、胸が痛んだ。
陥没や空洞が発生した周辺では、地盤補修工事のために一軒、また一軒と家が壊され更地となった。住民の調べでは、これまでにトンネル直上と周辺で、あわせて40軒以上が移転したとみられている。この地に50年近く暮らす上口さんの顔なじみの人たちも次々と街をあとにし、その中には、移転後に病気を発症した人もいる。
上口さんがいま懸念するのは、事故を起こしたトンネルと並行する、「2本目」と呼ばれる北行き本線トンネルだ。NEXCO中日本が建設するこのトンネルは、自宅から50メートルほどの傾斜地の下を通る。現在、仮処分決定で掘進は停止しているが、再開後に何か起きた場合、山側の地盤が谷方向に引き込まれるなどの形で影響が出ないかと心配している。
ちなみに「2本目」が通る場所で3年前に事業者が行った2か所のボーリング調査の柱状図から、専門家の指導のもと筆者が計算してみたところ、掘削断面の礫率は25~26%で、細粒分と呼ばれる粘土質が少ないとみられるなど、「1本目」が陥没や空洞を発生させた「特殊な地盤条件」と、特徴が似通っていることが見て取れた。
去年8月に本格的に始まった地盤補修工事は、1年2か月あまりで全体の4分の1ほど進捗し、最近の肌感覚としてはスピードアップも感じられる。
トンネルの掘進再開は依然見通せないが、次なる「悔い」を残さないために何が必要か、この4年間に起きたことからのさらなる学びが必要だ。
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