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#13 ぶんぶん公園と近田家とサクラ(6)~〝排除〟された思い

6月1日(土)調布市の京王線つつじヶ丘駅近くの小学校では、地盤補修範囲周辺の住民らを対象にした「オープンハウス」(パネルで説明する形式の入退場自由の説明会)と「意見交換会」が開かれた。地盤補修工事の進捗の説明が主な目的で、メディアの取材は不可(閉会後にメディアのみのブリーフィング)。去年の8月に工事が本格的に始まってから初めて、およそ1年ぶりの開催となる。

オープンハウスの会場(写真はメディア公開時)

住民の反応を取材しようと門の前で待ち構えていると、聞き覚えのある声で呼ばれた。去年4月、地盤補修範囲にあった自宅に別れを告げた近田眞代さん(76)だ。

近田眞代さん(76)

マガジン:ぶんぶん公園と近田家とサクラ(1)~(5)

数駅離れた自宅から自転車でやってきた近田さんは、今年2月、被害住民連絡会の活動から身を引いた。東つつじヶ丘をあとにした後も活動に参加していたが、健康面での問題が発覚。子どもから「もう外環はやめて」と強く言われたと聞き、連絡や取材を控えてきた。
4か月ぶりに再会した近田さんは、以前、事業者や行政を追及したはっきりとした口調は相変わらずだったが、身体は目に見えて小さくなっていた。

今回、近田さんは、オープンハウスと意見交換会への参加を希望していた。
東つつじヶ丘を離れるにあたってNEXCO東日本には、移転後も住民説明会などには参加したいので案内を送ってほしいと伝えていた。最初の2,3回は送られてきた。しかし、いつしか担当が代わったのか届かなくなったという。
今回の開催を知って、体調や治療のタイミングを見計らい、参加を申し込んだ。しかし、NEXCO東日本は、近田さんが対象地域に住んでいないとの理由で、意見交換会については参加を拒否した。

近田眞代さん:
「(移転の際に)約束したのに、どうしてこういうことをするんですかってきいたら『興味本位で来られる人がいるから、それは困るんです』っていう言い方をされたんです。でも公共事業でしょ。それこそ北海道から来たっていいわけじゃないですか。興味本位で来られると困るなんて、そんな言い方おかしくないですか。公共事業に興味持つの、誰だっていいわけでしょう?」

離れたとはいえ、60年近く暮らしたこの土地の行く末を案じている。例えば地盤補修工事が地下水に与える影響は小さいとされているが、子や孫の時代になっても本当に大丈夫なのか。事業者は、調布市は、住民は、ここを守っていけるのか。意見を言いたいというより、見届けたいとの思いだ。

近田眞代さん:
「私は自分が被害者だと思っています。被害者である以上、ここの行く末を見る、その中で皆さんどんな考えを持っているのか…」

「実力行使です」
近田さんは門をくぐり、受付テントの下で係員と向き合った。やりとりが聞こえる距離ではないが、あの〝近田節〟で食い下がっているのか。ひとりが近田さんと話し、それを数人が囲む。

そんな状況が15分ほど続いた後、近田さんは認められていた「オープンハウス」のみ入場し、45分ほどで出てきた。「配布資料をなぞった説明だけ」とだけ話し、その場をあとにした。


午後、同じ体育館で開かれた意見交換会。参加者を出待ち取材しようと昼食を済ませて戻ると、受付テントの下に小さな背中が見えた。
近田さんだ。帰っていなかったのか。

意見交換会への参加を拒否され体育館の外で

近田眞代さん:
「わたしだってここまではしたくなかったけれど、誰かが抗議しないと」
「自分たちが正しいことをしていると思っているんだったら何も恥ずかしくないでしょう。意見交換どんどんやって下さい、それが公共事業のありかたであり、国のやることでしょう。それなのにこうやって締め出して、しかも私なんかはあそこを追い出されているわけですよね。それなのに、そういう人にまでなんでそんなことを言わなくちゃいけないのか」

そのころ意見交換会では、出席した13人の住民から、家屋の買い取りや補償などをめぐって質問や意見の表明が続いていた。
近田さんの盟友、住民連絡会のメンバーが声をあげた。

意見交換会はおよそ2時間にわたった

住民連絡会メンバー:
「今日たくさん空席があるが、 被害を受けてこの地から離れた方が、自分が長いこと住んでいた地域のことについて関心を持って来てくださっているのにも関わらず、そういう方をこの席に入れないっていうのはどういうことかと思う。 加害者としての意識があまりにも低すぎる」

NEXCO東日本の担当者:
「他のエリアの方から入りたいというようなご意見もあるが、(地盤補修範囲周辺の)エリアの方を優先ということでお断りをさせていただいた。やり方についてはいろんなご意見もあるので、どういうやり方がいいのか検討していきたい」

住民連絡会メンバー:
「被害者がお願いして、 それでも排除するっていうやり方は非常に誠意がないと思う。 そういう姿勢が先日のチャット問題も起こしたのかもしれない。考えていただきたい」

事業者側:「ご意見は承った」


自宅のあった場所で。
「ここから持って行ったヤマブキの種から苗が伸びたんです」と話し、声をつまらせた。

この日、近田さんはおよそ半年ぶりにかつての自宅周辺を歩いた。
地盤補修範囲では30軒のうち17軒の家屋解体が終わり、地盤補修はこの10カ月で全体の2割ほど進んだ。かつての自宅跡は整地され、お隣が住んでいた敷地と境がなくなり、工事現場に姿を変えた。
当時は極力前を向こうとしたのか、自宅が解体される様子は見なかった。しかしいまは目に焼き付けておけばよかったとの悔いもある。
いつまでもしつこいかもしれないけれど、と前置きして近田さんはいう。

近田眞代さん:
「やっぱり私の気持ちとしては、いま1年たって、病気をして、あそこに帰りたい気持ちがものすごいあるんですよ。あの家を建て直したいという気持ちもあります。同じものをほかのところに建てて、そこまで頑張ればよかった、すごく思いますね。あの時はまあいろんな事情がありましたから出てきましたけれども、いま思うと、ああいう家は自分では二度と建てられない。それを無残に壊された、そういう思いがいま1年たってすごく悔しくて悔しくて」

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