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#16 陥没から4年(1)~三者協議の今後は

「毎日、地盤工事や解体工事の現場が嫌でも目に入り、心穏やかに住める場所ではないにもかかわらず、固定資産税はまともに払わされている。引っ越したいがどこも高くて諦めている。NEXCOも調布市も住民の我慢に甘えすぎているのではないか」

外環被害住民連絡会・調布のアンケート調査より

陥没の発生から4年となる10月18日を前に、12日、現場周辺の住民らでつくる「外環被害住民連絡会・調布」が集会を開いた。
これまでも、陥没が発生から1年、2年、3年のタイミングで集会を開き、専門家の講演や宣言の採択などを行い、市の内外からも多くの人が参加した。しかしことしは講演などはせず、集まった13人の住民らが「会を今後どうするか」などを話し合った。

10月12日(土)市内の公民館で開かれた集会には13人の住民らが出席

「NEXCOの担当者は次々変わるが、被害者の会員は歳を重ね、いろいろな面で無理が来ている」

外環被害住民連絡会・調布のアンケート調査より

住民の不安や要望の受け皿として活動してきたが、何人ものメンバーが地盤補修範囲やその周辺から移転し、すでに移転が決まった人もいる。この4年で住民もそれだけ歳をとり、さまざまな事情が活動を困難にしている。


「外環被害住民連絡会・調布」は、2020年10月の陥没発生直後に有志で結成された。地域の自治会がなかった東つつじヶ丘2丁目を中心に住民の要望の受け皿となり、事業者・NEXCO東日本や行政に要望をあげ、交渉の場を模索してきた。

陥没から約2か月後、2020年12月27日
会が実施した住民アンケートの結果や、事業者側の説明に対する疑問について会見
住民に配布されたチラシ(2020年12月)※一部を拡大

「集団交渉には応じない」「個別に対応する」「相談内容を口外するな」という事業者。頼みの綱の調布市は「事業者に伝える」としか言わない。それどころか、住民の個人情報を無断で事業者に伝える情報漏洩。それが陥没から2年ほどまでの状況だった。当時、まだ東つつじヶ丘で暮らしていた近田眞代さんは、調布市の担当者を前に声を振り絞った。

近田眞代さん(2022年12月)

近田眞代さん:
「調布市はいつもそう、『伝えています』。伝えるだけじゃ子供だってできますよ。だけどそれを実行させる力、市にはあると思います。市長にもあると思います。私はものすごい怒っています、市に。勝手に漏洩事件まで起こして、むこうの味方をして、ひとりでも私たちの味方をしてくれていますか?ひとことでも私たちの味方になって、寄り添おうとしていますか?そういうことをよくわかって下さい。
私たちがどういう思いであの家を出ていかなくちゃならないのか、どういう思いであの土地をはなれなければならないのか。伝えていますじゃ済まないんですよ。やらせなさいよ。
ただの話し合いもできないような、そんな市はもういいですよ。本当に情けなく思っています。調布の市民であることが情けない」

(2022年10月27日 調布市との協議の場で)

その後まもなく、調布市と連絡会の協議の場が設けられ、そこに事業者を呼ぶ形で事実上の「三者協議」が実現。14回を数える※。
地盤補修工事に伴う騒音や振動、巨大な〝セメントの柱〟を地中に200本以上埋めることによる地下水への影響、入間川沿いの管路の安全性、気泡発生、チャット問題・・・山積する疑問や課題について事業者側を質してきた。

陥没が目の前で起きた家の解体。90代のバイオリン職人のアトリエがあった。(10月17日)
工事関係者を名乗る不審者の情報も。各地で強盗事件が相次ぐ中、注意喚起がされている。


さらに不動産が売れない、トンネル掘削時から続く心身の不調など、具体的に住民が直面した問題についても寄り添った対応を求めるなどしてきた。
すべて満足な結果がもたらされているわけではないが、この場で取り上げられた現場の課題が、改善につながったとみられるケースもある。

「この会の実質的な功績としては三者協議に持ち込んでいったっていうことだと思う。住民の集団での窓口っていう機能を果たしてきていると思う」

集会での発言より

外環被害住民連絡会・調布のアンケート調査

連絡会では今回、メーリングリストに参加している人など85世帯以上を対象にアンケート調査を行い、32世帯の回答を得た。
会の今後について聞いた設問では、「会はこれからも必要だと思うので定例会に参加する」と答えた世帯が18.8%、「定例会には参加できないが、会は今後も必要」と答えた世帯が56.3%。三者協議についてはおよそ9割が継続を求めている。限られたサンプル数の調査だが、連絡会や三者協議は必要との声は強い。

「今後トンネルの工事が再開をされた時に、本当に苦境に立たされた市民の方が、どこをよすがにしていけばいいのっていうところが、ここ(連絡会)ではないかという風に思っています。色々困難なことがあると思いますけれども、そんなに派手にやらなくても、やっぱり継続が大事だという風に思っています」

集会での発言

ただ、積極的にかかわろうという人材が多くないのが実情だ。


「三者協議」については、いま新たな動きがある。
今年6月、事業者側がオープンハウスとともに開いた意見交換会で、一部の出席者から、特定の団体(連絡会)を相手に協議の場をもつことへの反発の声が上がった。それを受け調布市は、前回7月の三者協議の場で「今後のあり方を見直したい」との意向を示した。
これまで連絡会としても活動や協議への参加を広く呼び掛けてきたが、活動の広がりに一定限界があり、「特定の団体」とみなされる一因となったとみられる。
連絡会のメンバーからも、話し合いの中立性や公開性が担保されたうえで市が主催し、会の内外問わず広く参加を呼び掛ける新たな枠組みができるのであれば、これまで会のメンバーが担ってきた負担の軽減につながるなどと肯定的な意見も聞かれる。
ただ、市の意向表明があった7月以降、三者協議はおよそ3か月開かれていない。集会では「解決していない課題もあり、尻切れとんぼは困る」との声が上がった。

重い扉を開けて実現した「三者協議」の枠組み。
一度途切れさせた場合、その復活は容易ではない。トンネルの掘進再開も近い将来あるかもしれず、不測の事態もないとはいえない。
定期的に事業者側が工事の状況や見通しを報告し、些細なことでも住民が気軽に質問できるチャンネルを細くても維持していくべきとの声は強い。

調布市と連絡会の協議としては16回を数えるが、NEXCO東日本は3回目から参加。「三者協議」としては14回となる。

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