#10 調布 外環チャット問題(3)~〝被害者〟への直接謝罪は
#9 “外環被害住民を監視・盗撮”報道(2)~〝監視・盗撮目的なかった〟に反発の声
東京外環道・調布市の陥没・空洞発見現場付近の地盤補修工事をめぐって、鹿島JVが使用するグループチャット内で周辺住民らが不適切な表現で揶揄されたり、プライバシーを侵害されたなどとしている問題。
3月29日(金)と31日(日)の2日、京王つつじヶ丘駅近くにある「相談所」には、この問題に関する問い合わせ窓口が開設された。住民説明会のような形をとらず、あくまで個別の問い合わせに答えるという形式だ。
31日午前中、付近から様子をうかがうと、確認できただけでいずれも顔見知りの2組、計3人が相前後して訪れていた。帰りがけに話を聞いた。
この住民は、チャットでどのように個人の情報がやり取りされていたのか、少なくとも本人には開示するよう求めたが、対応した鹿島JVの担当者は、チャットの内容には企業の内部情報が含まれるため応じられないとの回答に終始したという。また「被害者」に直接謝罪をすべきとも訴えたが、明確な回答はなかったと明かしてくれた。
誹謗中傷やプライバシー侵害とも受け取られかねない今回の一連の問題。「被害者」への直接の謝罪はあったのか。
問題発覚以降、地域の住民に話を聞く中で、Aさん(60代)に行き着いた。高齢の母親など家族4人で暮らすAさんは、報道にあった以下のような内容が「自分や家族のことでは」と思い当たったという。
自宅近くには、地盤補修工事に使う圧送設備などを置く「中継ヤード」と呼ばれる用地があり、自宅裏の川には排泥などを流す管路が這う。Aさんは、この中継ヤードや管路の騒音、監視カメラの位置などについて、現地の鹿島JV担当者にたびたび苦情を伝えてきた。
平日のある日、管路を見に行くと、シューシューと流れる音が聞こえた。白い管は排泥用で、白い塗装は防音効果があると、以前、事業者側がシミュレーションの際に説明していた。Aさんのいう小石の当たるような音はこの日は確認できなかったが、別の住民によれば今も時々聞こえるという。
Aさんの高齢の母親は介護認定を受けている。昼間は家で寝ていることも多く、音や振動に敏感になってイライラして状態が安定せず、手に負えないこともあったという。苦情についてAさんは、事前の説明と異なるための「正当な申し立て」だとしている。
一方で鹿島JVや事業者側は、ヤードや管路の騒音・振動対策を施すほか、Aさん宅の窓を二重窓にするなどの改修も行った。
そうした中で発覚した今回のグループチャット問題。
Aさんは記事の内容が、担当者に話したことと符合すると感じた。
担当者を呼び説明を求めると、頭を下げ続けるばかりで何も答えない。
鹿島建設やNEXCO東日本からのコメントが発表され、レク(説明)も開かれたが、自身が思いあたるやりとりについては「180日以上経過してデータが残っておらず、確認できなかった」という説明だった。
ところが、それから10日ほどたった3月下旬のある日、今度はAさん宅を東日本高速道路(NEXCO東日本)の担当者が訪れ、こう切り出した。
記事にあったチャットの内容が、Aさんに対するものであったことが確認できたとして“特別に謝罪”。このあと入れ替わりで訪れた鹿島JVの3人の担当者に、Aさんはこう質した。
鹿島JV側は、Aさんやその家族への言及があったことを認めた。その一方で。
監視・盗撮目的ではないとしながら〝うちの職業まで言った〟ことや〝うちのばあさんのこと言った〟ことを暗に認めた。
この訪問のあとの国会でのNEXCO東日本幹部の答弁は、Aさんの職業名をあげて「クレームで稼ごうとしている」とチャットでやりとりしたとする記事内容を想起させた。
筆者は鹿島建設に対し、「被害者」を特定しチャットの内容を認め、直接謝罪したケースの有無や、事実確認の方法、さらなる調査結果の開示や関係者の処分の有無について質問したが、同社広報部からは、
「弊社の見解については、3月13日付けで弊社のウェブサイトしたお知らせ『弊社の東京外かく環状道路 本線トンネル(南行)東名北工事に関する報道について』に記載の通りです」
として、具体的な回答はなかった。
最初の陥没から3年半近く。現場付近では毎日多くの技術者や作業者が行き交う。住民が工事情報を尋ねたり、要望を伝える光景も日常的に見られる。住民の多大な犠牲のもと、本来誰も望んでいない地盤補修工事を行うにあたり、現場の事業者やJV、住民は、立場の違いや複雑な思いを抱えつつも、一定の共存を模索してきた。
住民の間からは今回の問題が、ここまで紡いできた関係性に影を落とすのではないかと懸念する声もきかれる。「このひと私のこと見ているの?」「本当はなんて思っているのか」言葉を選んでいたら聞きたいことも聞けず、日常のストレスははかり知れない。
いくつもの課題や懸念に直面する地域で、一日も早く現実的な解決に近づくためには、前述のAさんの例のように〝被害者〟や内容を特定した上での直接謝罪は、曇りを晴らす一丁目一番地だろう。
住民の間からは、今回の事態打開に向けた具体的な提案なども出始めていて、次回はこうした点についてもみていく。
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