見出し画像

#22 〝謎の水と気泡はリニア工事の影響〟

東京・町田市のリニア中央新幹線大深度地下トンネル掘進現場の直上付近の民家の敷地で、10月22日、水と気泡が噴き出しているのが発見された。掘進を止めて原因を調査していたJR東海は、12月19日、工事の影響で起きた事象であると明らかにした。
「現場付近は複数の条件が重なる通常とは異なる現場状況」で、これに対してシールドマシンが地山を押す圧力の設定が〝やや高かった〟ことが水や気泡の噴出につながったと説明している。

JR東海の資料より。「表層まで遮る層がない 」「地層の境目」 「地下水面が浅い」「水や空気が通る孔などが存在」という4条件を「通常とは異なる」と結論付けた
12月22日 町田市小野路で開かれたオープンハウス形式の説明会(画像は一部加工)

JR東海の担当者
「シールド機前面に気泡材が混じった泥土が多い状態で押していた。その結果、泥土の中に溶け込んでいる気泡剤の一部の空気が地上の方に行った」 「自分たちとしては陥没が起こらないようにできるだけ圧をかけて掘進してきた。その意味ではしっかり管理できていたが、条件が色々重なる中で発生した」

オープンハウスでのJR側の説明

通常とは異なる現場状況」という説明は、4年前、調布の陥没・空洞事故発生時のNEXCO東日本の説明を思い起こさせる。当時、「特殊な地盤条件下」と説明し、住民からは「不可抗力だと言わんばかり」「特殊というならなぜもっと事前に調べなかったのか」などと批判が噴出した。

2020年12月 調布市で行われた住民説明会でのNEXCO東日本の資料より。文字列強調は筆者。

今回、なぜ「通常とは異なる」と限定的な修飾語を加えたのか。
事実関係を説明するのであれば、単に「複数の条件が重なる現場状況」とするのがより科学的ではないか。そもそもJR東海は、調布での事故後「リニアのルート上には外環で問題になったような特殊な地盤はない」と繰り返し説明してきた。

JR東海の担当者
「自分たちとしては、4つの条件が重なったという事実がなかなかレアである、自分たちとしてはそんなになかったっていうところがあり、『通常とは異なる』という表現をしてしまった」

オープンハウスでのJR側の説明

説明を聞いても、このような場所は普通にあるのではないかと思える。地上では住民が普通に暮らしを営み、「通常とは異なる」「レア」「特殊」といった表現は、あくまで掘る側の論理だ。

質問「4条件が重なるところはある程度リストアップできているのか」

JR東海の担当者
「なんとなくは把握はしている。そういうところは注意して施工していこうと考えている」

オープンハウスでのJR側の説明

今後の対策として、JR側は現地の状況に応じて圧力を抑えることや、シールド機の前方の地山に気泡を注入していたのを、後方の隔壁からチャンバー内に注入する方式に変更して漏気しにくくすることをあげている。

JR東海の資料より。上段が「圧力の抑制」、下段が「気泡材の注入方式の見直し」

掘進の再開については、まず、2か月間停止したシールド機内の土砂を入れ替えるための最小限の「保全掘進」を12月下旬以降行い、その後いったん停止。来年1月以降準備ができ次第、住民への周知をしたうえで調査掘進を再開する予定だという。


そもそもなぜ気泡が出てはいけないのか。
#20で記した通り、住民側(リニア中央新幹線を考える町田の会:リニア町田の会)が気体を直接採取して計測したところ、酸素濃度は1.0パーセントだったとしている。

住民側による気体採取(10月 撮影:リニア町田の会)

これに対しJR側は気体を直接採取せず、地上から3段階の高さで酸素濃度を測定した。数値は、
「地上から3cm:18.8% 50cm:19.7% 150cm:19.7%」で、「いずれも安全衛生法の酸素欠乏症等防止規則の基準値(18%)以上だった」としている。

JR東海の担当者
「結果的に地上に出てしまったということは良くないと思っていて、それを抑えて安全に掘削していかなきゃいけないという認識」

オープンハウスでのJR側の説明

気体を直接採取して計測していない理由については。

JR東海の担当者
「水と泡が出たっていうことを住民の方からお聞きし、我々としてまず周りに何か起きてないかというところを調べた。調べている中で、24日に水と泡が止まってしまった。周りの状況を確認しているうちに泡と水が止まった」

質問「もし続けて出ていれば気体を取って調べるということも可能性としてはあった?」

JR東海の担当者
「可能性としては否定はできない」

オープンハウスでのJR側の説明

住民側は、「酸欠空気」が地下室、浴室など建物の気密性が高い空間に、目に見えない形で漏出して充満するリスクを懸念している。この点についての認識を問うと、次のような答えが返ってきた。

JR東海の担当者
「気泡の一部が上がり、地層によっては酸素がなくなるということは、別の場所でも話があるので、地下室の情報など情報収集させてもらいながら丁寧に掘進をしていきたい。心配される方の不安を解消できるように尽力したい」

質問「酸欠空気は、深い土被りを気体が上昇する中で、地層の中の鉄分などと酸素が結びつくことで発生すると理解しているが」

JR東海の担当者
「一般論からいうと、地層によってそういう現象が起こるというのはあり得るとは認識している」

質問「つまり土被りの深い大深度地下特有のリスクとはいえないか」

JR東海の担当者
「それとこれとはちょっと違うかもしれないが、大深度法を活用させていただくというか、使用させていただいてるので、ご迷惑かけないように慎重には、安全にはやりたいと思う」

オープンハウスでのJR側の説明

酸素濃度について基準をクリアしたとする一方で、工事を止め対策を講じるというJR側の対応は矛盾していると言え、ただ住民が騒ぐから泡を出さないようにと動いているようにも見える。
大深度地下での気泡シールド工事に起因する酸欠空気の発生は、ほかに東京外環道における野川での事例がある。事業開始から年数が経る中、住民が懸念する地上での酸欠リスクについて科学的な評価を行い、それに基づいた対策を講じていかなければ、場当たり的な対応に終始するばかりで、真の安心・安全にはつながらないと考える。

・記事は不定期で追加、更新します。
・写真や画像は引用表示・但し書きがない限り筆者の撮影・入手によるものです。
・内容についてご指摘、ご意見、情報などありましたらお問い合わせよりお寄せ頂ければ幸いです。




いいなと思ったら応援しよう!