検察官定年延長問題と選挙違反事件

〇2020年4月15日衆議院で審議が始まった、検察官の定年を延長する検察庁法の改定は、政権の検察人事への介入を容易にすると心配されています。しかし、新型コロナウイルス感染拡大のニュースに隠れ、今一つ論議されることが少ないようです。論議が盛んになることを願い、ここで、その抱える問題を整理しておきましょう。

〇この問題は、2020年の2月7日に満63歳の定年を迎えることになっていた、黒川弘務東京高検検事長の定年を閣議決定で半年間延長したことに始まります。国家公務員法の定年延長規定に基づいて行った、としていますが、政権寄りと言われる黒川氏を検事総長にするため、というのが大方の見方です。これには野党側が、「国家公務員法の定年延長規定は検察官には適用されない、という国会での政府答弁がある」と強く反発しました。今度の検察庁法の改定は、この問題を正当化するための後付けの動きとも言えます。

〇検事の定年は63歳、検事総長だけ65歳で、検事総長になれるのは現役の検事のみ、とされてきました。従って、黒川東京高検検事長は定年になる2020年2月の時点で、検事総長になる(その前提として、稲田伸夫検事総長が辞任する)のでなければ、退官するしかありません。実際、稲田総長にこの時点で、検事総長を辞めるよう働きかけがあったようです。詳しいことはわかりませんが、稲田総長が断ったのは事実です。今も総長を続けているのですから。

〇ところが、それに対して安倍政権は、黒川検事長の定年を延長するという暴挙に出ました。政府答弁に政府自身が背く行為だという追及には安倍総理大臣は「解釈を変えた」と開き直りました。

〇政権(行政)の都合で法律が簡単に変わるのなら、国会(立法)は要りません。法治主義はどこへやら。無理が通れば、道理引っ込むの世界です。今度の検察官定年延長問題には、このような重大問題が含まれているのです。国会での徹底した論議が望まれます。

〇この問題に関連して、先の参院選挙で、自民党の河井案里議員の陣営がいわゆるウグイス嬢への報酬を、公職選挙法の規定の2倍支払っていた疑いのある事件の結末が重要です。広島地検は案理議員と夫で前法務大臣の河井克行衆議院議員のそれぞれ秘書合わせて2人を、運動員買収の罪で逮捕・起訴しました、すでに100日裁判が始まっており、案里議員の秘書が禁固以上の判決を受け、確定すると、案里議員が連座制で議席を失う可能性があります。

〇この事件は、直接には検察官の定年延長問題と結びつきません。しかし、検察人事が政権の意向通りになるのなら、こういう事件は摘発されないのではないか、とも想像され、定年延長問題の意味合いを裏側から示す事件です。

〇もう1つこの問題で重要なのは、実際に誰が次の検事総長になるかという問題です。稲田伸夫現検事総長は2020年7月、就任丸2年を迎えますので、政権側は、そこで稲田氏が勇退し、黒川東京高検検事長にバトンタッチすることを期待しているのかもしれません。しかし、稲田総長は65歳の定年になるのは来年の8月。今年辞めずにもう1年頑張る道もあります。その時、政権側は早期辞任を迫る大義があるでしょうか。そんなことをして、国民が納得するでしょうか。
 新型コロナウイルスの感染と同様、先が読めません。


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