リコール署名偽造事件、問われる警察の力量
〇愛知県の大村秀章知事のリコール(解職請求)をめぐる署名偽造事件の県警による強制捜査は、名古屋市長選明け(4月25日投開票)まで動きが止まっていると前回の中庸時評でお伝えしました。ところがこのところ、リコール活動団体の事務局の元幹部らが、署名偽造への関与を認めた証言の報道が相次ぎ、事件の捜査が煮詰まっていることを示しています。
〇この報道の中心は東京新聞(取材は、東京新聞と経営が一体の中日新聞でしょうが)で、2021年4月16日の紙面によると、証言の中心になっているのはリコール活動団体の
事務局幹部だった山田豪・愛知県常滑市議。山田氏は、リコール活動団体の田中孝博事務局長の指示で、昨年10月末から11月上旬の二日間、押印のない500枚の署名に指印を押す作業をしたといっています。山田氏は自分が指印を押した署名について、「田中事務局長から、『九州から運んできた』と言われた。佐賀市内でバイトが偽造した署名だと思う」としています。
〇リコール活動団体の田中事務局長は、中日新聞の取材に対し、「山田氏の証言が正しいかどうか答えられない。どんな方法でも(署名を)集めなければいけないという気持ちがあったのは事実だ」と話しているということです。山田氏の証言を否定しておらず、署名偽造事件へのリコール活動団体の関与を事実上認めた証言と言えます。
〇さらに翌4月17日の東京新聞によると、山田氏が明らかにしたところでは、田中事務局長は「リコールが成立しなければ署名はただの紙切れ」とし、「署名数がリコールの住民投票を求める法定数に達しなければ選管は数を数えるだけ。署名用紙が戻ってくるので、心配はいらない」などと言って周囲に不正をもちかけていたということです。
これについて田中事務局長は「山田氏らにそういう発言を日ごろから言っていたのは事実だが、あくまで一般論として言っていた。不正を進める意図はなかった」と述べているそうです。そんな言い方の言い訳、通用しませんよね。
〇今度の署名大量偽造事件では、署名の偽造の仕方が驚くしかないほど杜撰だったので、選管はリコールの署名を厳密に審査するものであり、もし大量の不正があればすぐ発覚する・・・リコールの仕組みを知らないものが偽造した・・・という見方もありました(4月9日朝日新聞「オピニオンフォーラム欄「リコールと民主主義」)。しかし、事実は、リコールの実際を知っているからこそ、高をくくって好い加減な作業をした、ということが実際の取材の中で明らかにされたわけです。
〇この「ただの紙切れ発言」を報じる記事には、リコールを仕掛けた河村たかし名古屋市長と仕掛けられた大村愛知県知事のインタビューが載っています。河村市長は「山田氏は勇気を出して真相をしゃべった。田中事務局長も話をしないといけない」と述べました。
〇一方、大村知事は山田氏が指示されて偽造に関与したと明かしたことに「この方だけが罪に問われると、トカゲのしっぽ切りだ」と指摘し、「河村氏はひとごとのように言っている場合ではない」と主張しました。
〇この事件はわざわざ九州佐賀に行って大量の偽造の署名を作成し、押印の体裁をととのえる指印を押すのにリコール活動団体のメンバーがかかわったことまで明らかになりました。捜査の外堀は埋まった、と言えます。あとは内堀をさらって、リコール署名偽造を発案し、指揮した人物らを明らかにする作業が残っているだけです。愛知県警がどこまでその作業をやり遂げ、国民の(県民の、じゃあありませんよ)期待にこたえられるか、その力量が問われます##
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