“桜疑惑”で 安倍前首相 国会招致へ 真実解明なるか
○今年、2020年前半の日本では、政権と検察の対立―誰を検事総長にするかが大きな政治の焦点の一つでした。これは皆さん承知の経緯で「政権の守護神」でなく、検察が希望した林真琴氏が新検事総長に就任、検察の勝利でけりがつきました。これでしばらく政権と検察の関係で問題はなかろうと思っていましたら、2020年11月下旬になって、「東京地検、桜疑惑で安倍前首相の秘書ら聴取」とマスコミで報じられて(11月23日、読売、NHK等)びっくり。
○毎年国が開催の桜を見る会の前夜祭が、安倍首相〈当時〉の後援会主催で地元の支持者らを集めて東京のホテルニューオータニなどで行われてきました。地元支持者らの参加費は5,000円ですが、それでは足りず、差額は安倍氏側が負担していると昨年の11月ごろから問題になっています。安倍氏側の負担額について、この11月24日の朝日新聞は数年間で数百万円と報じました。その程度の金額で済むとは思えませんが、正確な金額はまだ表に出ていません。
○金額はともかくとして、この補填が、政治資金収支報告書への記載もないため政治資金規正法違反の疑いがあり、そもそもも公職選挙法が禁じる選挙民に対する寄付行為の疑いも出てくるというのです。
○私を含め国民がびっくりしたのは、安倍氏側が、地元支持者らに宴会で高い中華料理などを食べさせ、会費との差額を補填したという事実が暴露されたことではありません。そんなことは容易に想像できます。そんなことではなく、今まで捜査の気振りも見せなかった検察がなぜ捜査を始めたのか、ということです。新聞等日本のマスコミではその疑問に答える記事があまり見当たりませんが、週刊誌はこの問題を一斉に報じています。その一部を紹介しながら、この問題の持つ意味を考えてみましょう。
〇週刊新潮(12月17日号)は、見出しから簡単明瞭です。曰く、「官邸と検察が手を握って、安部シャンシャン捜査」。つまり、安倍氏の秘書だけを略式起訴し(公判なし)、罰金刑で済ませる条件で、検察の捜査を菅首相が黙認したというのです。なぜそんなことをするかって ? 安倍首相が辞めてもあまりに元気で、3回目の首相登板まで噂されるので、菅首相はうっとうしく思い、いわば嫌がらせをしているというわけです。安倍首相は政界の会合で、「俺なら1月解散だ」とまで公言。菅首相にして見れば「解散は総理大臣の専権事項。総理はおれだ!」と言いたいところでしょう。
○しかし、あまり捜査が進んで、安倍首相に直接及ぶと、自分自身にも跳ね返りが来るので、罪に問うのは秘書まで、と注文を付けた、というのがこの記事の解説です。この記事を紹介すると、菅首相はいかにも悪者めいて来ますが、悪者かどうかはともかく、大変な陰謀家であることは確か。何しろ、自分は派閥を作らず、属さず、しかし派閥を使って首相になる人なんですから。
○週刊文春(12月10日号、17日号)。こちらはにわかに桜疑惑の捜査が動き出した理由をもっぱら「政権の守護神」が失脚したことに求めています。陰謀説に対して政権の検察支配力弱体化説とでも言いましょうか。12月10日号の週刊文春の記事は、検察の桜疑惑捜査のこの1年の動きを詳細に伝えて秀逸です。それによると、東京地検特捜部は桜疑惑の刑事責任を問う民間からの告発を1月と5月、不受理にしていました。ところが全国の弁護士らが5月に改めて出した同趣旨の告発を8月に密かに受理し、今回の捜査につながったのです。この告発の不受理と受理の間に何があったか。そうです。「政権の守護神」こと東京高等検事長〈当時〉の黒川弘務氏がマージャン問題で5月22日、辞任したのです。
○こうたどってくると、安倍前首相が8月末に辞意を表明したこと自体、本人が説明した病苦ではなく、「守護神」の辞任にショックを受け、事件の捜査から逃れようとしたのではないか、という疑いが出てきます。
○捜査に絡む政権、検察、安倍前首相本人の思惑の解説に手間がかかり、大事な問題を後回しにしてしまいました。安倍前首相は去年の11月以来、前夜祭の費用の補填を国会で「後援会として収入支出は一切ない」などと全否定してきました。それが今や虚偽の疑いが極めて濃いわけで、この問題にどう決着をつけるか、です。
○そこへ12月18日朝、東京新聞とNHKが「桜疑惑で安倍氏を国会に招致することで自民党内が調整に入った」と報じました。さらに昼のTVのニュースで、安倍前首相が記者団に対し「検察の捜査で真相が解明された後、国会招致に応じる」と語りました。
○こうなったのは自民党内の思惑がさまざまあるのでしょうが、安倍前首相の国会招致が実現したのは良いことです。どこまで真実が語られるのか、そのためには検察の捜査が重要です。そこで一つ私から提案したい。捜査の結果、安倍前首相を立件できず、秘書を政治資金規正法違反の罪に問うにしても、略式手続でなく、公判請求して、安倍前首相の取り調べ結果などを明らかにできるような工夫をしてもらいたい。今年前半、検察の「独立」をあれだけ応援した国民としてはそのぐらいの期待をしてもいいような気がしますが。##
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