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街の中華屋さん「喜楽」の閉店を悲しむ

〇東京・練馬区の西武新宿線沿線の私の住む町の商店街の真ん中に、「喜楽」という街の中華屋さんがあります。いや、最近までありましたが、つい2週間ほど前、閉店しました。ご想像のとおり、コロナ禍での閉店で、飲食店への規制が始まった2021年1月以来、休業していましたが、とうとう耐え切れなくなったものです。

〇「喜楽」はちょっと変わった店で、土日は休み、営業は月曜から金曜ですが、毎日の開店時刻は夜の9時、閉店は日付の変わった午前1時です。1日の労働を終え、帰宅途中の若手から壮年のサラリーマンをお客の中心に据えた店で、それだけにまず、料理の量が多いのが特徴。そして安い。しかし、「安かろう、まずかろう」ということは決してなく、お客の中には、この町の飲食店の経営者や従業員で店を閉めた後やってくる人も多いのはプロも認める味だからだ、という評判です。

〇それだけに人気が高く、夜9時前には毎晩、開店を待つ客が列をなしていました。私がこの店に通うようになったのは、閉まっている店の前で何を待っているのだろう、と思ったのがきっかけで、この2年、マージャンなどの夜遊びの帰りには必ず寄る常連になっていました。

〇メニューはラーメン、チャーハン、野菜炒め、ギョーザなど普通の街の中華屋さんと同じですが、ともかくうまい。特にチャーハンは絶品。私は必ずチャーハンを頼みましたが、1人前を頼むと多すぎて残してしまい、もったいないので、半チャーハン(普通の店の1人前の量)をたのむ。それに、日本酒を1合半、グラスで注文。これだけでおなかが一杯になり、ちょうどよい酔い心地です。それで、その勘定は、なんと、たったの850円!これには感激しましたね。

〇もう一つ、言うのが遅くなりましたが、経営者のご夫婦、特に親父さんの接客態度の良いこと。親父さんはおそらく80代、おかみさんはおそらく60代前半。店はカウンター席だけで、15人ほどの収容力です。料理を作るのはもっぱらおやじさん。おかみさんは勘定や配膳という役どころですが、おかみさんが案外威張っていて、料理をもっと急げとかなんとか注文を付ける。年を取るにつれて、夫婦間で亭主の立場が低下していくことは経験上知っているので、見ていてちょっと同情しました。しかし親父さんは少しも騒がず、おかみさんに怒りもせず、笑みを絶やさず接客。これも仲の良い夫婦のあり方の一つか、と感心しました。

〇2021年9月7日の閣議後会見で、麻生副総理兼財務大臣は、菅首相が9月3日に総裁選挙に出ない、つまり首相を辞めるといったことについて、「コロナ感染は曲がりなりにも収束し、全うしたとの思いがあったのだと思う。尊重すべき判断だ」と述べたということです。しかし、麻生さん、コロナ感染は収束していませんよ。収束しているなら、あんなにお客に愛された「喜楽」が閉店するはずがないではありませんか。

〇麻生大臣の閣議後会見のあったその日、私は喜楽の数軒先の理髪店に行きました。散髪の途中、理容師が突然、「喜楽が閉店しましたね」と話しかけてきました。これをきっかけに、「お店が商店街の中心にあっただけに、家賃が大変だったんだろうなあ」などの話になりました。
最後に理容師が、ポツンと、「コロナ感染をきっかけに、あの店のような、夫婦でやる店が日本中でなくなってしまうのではありませんか」と言いました。
「喜楽」の閉店は、本当に悲しい。##

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