コロナ感染 政府の対策の中間評価

〇一律10万円給付など、コロナウイルス感染の緊急経済対策を盛り込んだ補正予算案が、2020年4月30日に参院本会議で可決、成立しました。また、5月6日までが期限の全国を対象とした緊急事態宣言が、感染拡大の終息の見通しがたたないとして、5月7日以降も1ヵ月程度延長される見通しとなりました。日本におけるコロナ感染問題の序盤の区切りを迎えたこのタイミングで、政府のコロナ問題対応の、中間評価を試みてみます。

〇まず、コロナ感染対策そのものの問題ですが、日本の対策は決してうまくいっているとは思えません。自分自身でコロナ感染を疑って検査を申し出ても、簡単には検査してもらえない。病気になって(病気を疑って)、病気かどうか調べてもらえない先進国なんてあるでしょうか。私自身は感染していない(と、思っている)ので、正直、ピンときませんが、感染を心配する当事者にとり、これほど不安で腹立たしいことはありません。

〇もうひとつ、これは腹立たしいというより不思議なことですが、こんなに対策がうまくいっていない日本が、欧米に比べ、際立って感染者が少ないのはなぜか、という問題です。
2020年5月1日の朝日新聞によると、4月30日現在までの日本の感染者は1万4088人、死者は415人で死亡率2.9%。
同時点までのアメリカの感染者は104万488人、死者6万99人で死亡率5.8%とくらぶべくもないですが、コロナ対策の優等生と報じられているドイツでも日本の10倍以上の16万1539人の感染者、死者6467人で死亡率4.0%です。

〇このように日本とアメリカ、ドイツとで感染者数にけた違いの開きがあるのはなぜか。にもかかわらず、死亡率はこの三国でそれほど違いがないのはなぜなのか──ズバリ言いましょう。それは、検査数の魔術です。

〇日本は検査数が少ないので、感染者(陽性者)の発見が少なくなるのです。また検査する人を絞れば、結果として検査対象中の重症者は増えるので、死亡率はむしろ実態より高くなる傾向にあります。ではなぜ、検査数が少ないのでしょうか。
日本における検査の仕方は、感染症の専門的な問題だとして、政府の専門家会議の意向が強く反映することは容易に想像されます。専門家が決めているのに、なぜおかしなことになるのでしょうか。

〇これをめぐって、面白い、というか鋭い指摘が2020年4月30日のジャーナリスト・津田大介氏による朝日論壇時評にありました。これはコロナ問題で新聞・雑誌等に載った論考を綿密に読んで紹介し、短評を加えたものですが、極めて的確。これを読んだだけで日本のコロナ問題の状況が分かる、日本コロナ問題白書のような論評です。その中で、危機管理学者の福田充氏が「政府の専門家会議の人選が感染症対策の専門家ばかりで、公共政策学や危機管理の専門家がほぼおらず、社会政策の観点がおろそかにされていることへ異を唱えている」(Voice5月号/PHP研究所)ことを紹介していました。

〇検査のひずみは専門家会議のひずみの結果でしょう。感染の実態を徹底してつかむのは、感染対策の第一歩です。しかし専門家会議はこうした感染を幅広く調べる方法を提案できませんでした。というより、その必要も認識していなかったわけです。
 なぜこうした専門家会議のメンバーのひずみが生まれたのでしょうか。人選の詳しいいきさつはもちろん分かりませんが、容易に想像できることがあります。安倍政権では、端から感染症学者以外の専門家など必要がない、と考えていたのです。質は問わずにマスクを1所帯2枚配れば国民は泣いて喜ぶ、と進言する、何でもできる、知恵のある官僚及び官僚OBを多数抱えているのですから。むしろ余計な専門家を抱えたのでは、官僚の邪魔になります。

〇しかし、コロナウイルス感染は100年に一度といわれる国難です。国民の叡知を結集して、事に当たるべきです。
安倍首相! 専門家会議のメンバーの入れ換えから始めないと、感染対策は進まないのではありませんか?

〇次に、一律10万円給付の緊急経済対策について。これについては、2020年4月29日の朝日新聞オピニオン欄で、マクロ経済学の泰斗・大阪大学名誉教授の小野善康氏が「政府は全国民への一様なばらまき(一律10万円給付)や、不要不急産業への中途半端な支払い猶予や融資ではなく、(不要不急産業従事者への)所得補償を直ちに行うべきだ」とズバリ提言しています。

〇勉強になる論考なので、直接読んでいただきたいのですが、小野氏は、
1. 自粛で消費できない状況にしながら、お金を広くばらまいても効果は薄い(「需要が増えて景気浮揚」などの効果はない、ということ)。
2. 現実に需要減が不要不急品に集中し、その産業従事者の所得や収入だけが減って、生活の危機に直面している。外食、文化、スポーツ、観光、アパレル産業など。これらは今は不要不急産業でも平時には需要があったし、生産能力を維持できればコロナ感染終息後、経済はすぐ回復できる。
と言っています。

〇今更一律10万円給付はやめられませんが、安倍政権の経済政策はポリシーがない。だから、減収所帯へ30万円支給から、全国民一律10万円支給にあっさり変わってしまったのです。30万円支給案は、配られる全体のお金が少なすぎたのがネックでした。また、一律10万円支給が受け入れられたのは、支給対象を選別しなくて済み、素早く支給できる、と考えられたためでした。

〇しかし、ここで考えていただきたいのは、この経済対策は、今回1回こっきりで終わり、というのではないことです。最低1年、場合によっては2年も3年も続くコロナ感染に立ち向かう経済対策でなければなりません。だから、筋の通った政策である必要があります。
「なるほど、こうお金は出さなければならない。こういう出し方(お金の作り方)なら持続可能で、日本国も倒産せずに何とかやっていけるな」というものでなければなりません。

〇直ちに理想的なシステムができるとは思いませんが、そうした道に進むと思わせる所がなければなりません。そのためには、必要のない人には金を出さない、必要な人にはみんな出す、最低、それが求められるのではないでしょうか。一律10万円支給が愚策だと私が考えるゆえんです。

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