検察庁法改正問題 さらに何を追及すべきか

〇2020年5月18日午前9時半すぎから民放各局のテレビ画面に、「政府、検察庁法改正案の今国会成立を見送り」のニュース速報が流れました。同法案は新型コロナウイルスの感染拡大の陰で、いわば火事場泥棒的に成立を目指した稀代の悪法。安倍政権は先週中(~5月15日)の衆議院通過を目指していました。
ニュース速報が流れた5月18日の午後から安倍首相と二階自民党幹事長は会談、そのあと二階幹事長は同法案の今国会の成立を諦め、継続審議とすることを確認しました。安倍首相の全面敗北です。

〇私は2020年4月10日からnoteに参加し、これまでに11本投稿しましたが、うち5本がこの問題を論じたものです。ざっとその内容を振り返ると、

1.検察の威信が問われている。威信とは政治家相手でも疑惑があれば徹底的に捜査し、そのことで国民が検察に支持を寄せているかどうかの問題だ(4月16日)。

2.去年の参院選挙(広島)で当選した河井案里議員の選挙違反事件を検察が捜査。秘書が運動員買収の罪で起訴され、案里議員が連座制で議席を失う可能性がある。しかし政権の検察人事への介入が容易になれば、こうした事件の摘発は極めて困難になる(4月26日)。

3.コロナ問題で日本人は政治の役割を改めて自覚し、政治意識が大きく変わった。その端的な現われが、政府が野党の反対を押し切って、検察庁法改正案を審議し始めたことへ、抗議のツイッターが2日で470万件集まったことだ(5月12日)。

4.この問題の報道が過熱する中、朝日新聞に、異例の定年延長で東京高検検事長に居座っている黒川弘務氏について、有能で、人柄も良いとほめる人物紹介の大きな記事が出た(2020年5月13日)。人柄の良い人が、横紙破りの定年延長の話に乗りますか? くだらない記事だ。一方、良い記事だと思ったのは、同じ5月13日の東京新聞の「河井克行前法務大臣立件(起訴すること)へ」の記事。克行氏は案里議員の夫。地方議員らに現金を配った疑いがあることを含め、安里議員の選挙運動を事実上仕切ったとたびたび報じられており、秘書より河井氏を摘発すべきなのではないか、というのは当然の疑問。それに応えて捜査状況を具体的に伝えている(5月14日)。

5.ロッキード事件の捜査検事・堀田力氏が「定年延長を受け入れた黒川東京高検検事長とそれを認めた稲田検事総長は責任を取って辞任せよ」と朝日新聞のインタビューで述べた(2020年5月14日)。筋の通った論だが、私は「無理が通れば道理引っ込む」の政治哲学を持っている疑いのある安倍首相相手では、通用しない戦術だ、と思った(5月17日)。

〇私が、自分の書いた記事の概要をここで改めてまとめたのは、これを読むと今度の問題の抱える問題点がひととおり分かるのではないかと思ったため。また、ここにきての事態の急展開──それは日本人の政治意識の大きな変化です──を実感できると思ったからです。1と2を4月中に書いているときは、果たして国民の関心が集まるか、問題の本質──放っておくと、法治主義を否定する無法な政治の横行を許すことになる──が理解されるか、心配でした。

〇しかし、5月の連休明けから、一気にこの問題に対する国民の関心が高まり、まっとうな批判の声がうねりをもって広がりました。私は、日本の政治が大きく変わっていくきっかけになる、と感じました。

〇今後の問題は、以下の3点です。

△次の検事総長人事がどうするか──もちろん、黒川氏の目は全くありません。稲田検事総長をあと1年続投させるのが現実的でしょう。来年8月の、65歳の定年まで1年以上あるのですから。

△広島選挙違反事件の決着

△法案の始末──継続審議でなく、廃案にせよ。

このうち、選挙違反事件の決着の付け方が重要で、法案の今国会での成立を見送ったこととのバランスで、河井前法相への捜査を緩めるようなことがあってはならない、と思います。誰も言いませんが、今度の事件の背景には、森友学園と加計学園の事件などで、検察がやるべき捜査をやらなかった(やる胆力がなかった)ことで、政権に「なめられた」ことがあると思われますから。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?