「コロナ」か「検察」か 問われる首相の進退
〇政府は2020年5月25日、東京など5都道府県で続いていた緊急事態宣言を解除すると決め、これにより一時全国に広がっていた緊急事態宣言はすべて解除されました。
安倍首相は会見で「わずか1ヵ月半で今回の流行をほぼ収束させることができた」と誇り、緊急事態宣言解除の理由としています。安倍首相としては、アベノコロナ策(安倍政権のコロナ対策)よろしきを得て、流行収束に向っていると言いたいようです。
〇2020年5月26日の朝日新聞よりますと、確かに、5月23日における10万人当たりの日本の感染者数は13.2人で、G7(主要7カ国)で最も少なくなっています。一方、検査数も最小の212.8件で、最多のイタリアの約4%でした。また、世界208ヵ国・地域のうち日本は100万人当たりの感染者数が多い順から136番目、死者数は94番目でした。こうした日本の状況を海外のメディアは驚きをもって伝えています。
〇同朝日新聞によりますと、オーストラリアの公共放送ABCは、公共交通機関の混雑ぶりや高齢者人口の多さ、罰則を伴わない緊急事態宣言を「大惨事を招くためのレシピのようだった」(!)と表現しました。海外ではこれまで日本のPCR検査数の少なさを疑問視する報道が相次いでいます。東京医大の浜田篤郎教授は、日本のPCR検査が少なかったのは「やらなかったのではなく、できなかった」「第2波が来る前にまでに患者の収容体制を整え、検査数を増やせるよう準備しておく必要がある」としています。
〇なぜ、日本は感染者数が欧米に比べ少ないという幸運に恵まれたのか。今後の展開を待たないと真実のところがわかりません。ただ安倍首相が、アベノコロナ策で何か急所を突いた良い政策を推進したからだ、などと思い込まない方が良いと思います。安倍首相はこの間、黒川東京高検検事長の不要不急の違法の定年延長問題にかまけて、それどころではなかったのですから。
〇さて、その黒川氏の問題、検事長と記者の賭けマージャンを伝える5月22日の週刊文春電子版の報道で黒川氏が観念、早々と辞表を提出、報道3日目には正式辞職となりました。しかし、安倍政権の場合は、こういう時も素直に決着とはいかず(負けっぷりが良くない=横綱相撲が取れない)、無理無理黒川氏に対する処分を、退職金の減額が大きくならない訓告にする、という小細工をしました。賭け麻雀は刑事罰の対象でもあり、検事長の麻雀が表に出た以上、懲戒処分(退職金は大きく減額)が相当とする法務・検察にたいし、内閣側(つまり、安倍首相)が訓告にするよう指示した、というのが真相らしいのですが、それをまた、「法務・検察がそういってきたので了承」と安倍首相は自分の意志でないような言い方をしました。
〇安部首相は、嘘が混じらなければ政治ではない、と思い込んでいるのでしょうか(嘘は高度な政治テクニックである、というつもりか。馬鹿馬鹿しい!)。そうとでも考えないと、この政権では大事なところで、必ず嘘が出てくる理由がわかりません。またそもそも、退職金をあまり減らすと、黒川氏が暴露本を書いて、定年延長を巡り安倍政権との「密な」関係をばらすのを心配しているのでしょうか。
〇黒川氏辞任後、毎日新聞と朝日新聞が、相次いで世論調査を実施しました(毎日が2020年5月23日、朝日が23日と24日)。その結果は毎日が安倍内閣支持率が急落し27%(5月6日の前回調査40%)不支持率64%(前回45%)。朝日も同様の結果で、支持率29%(5月16,17日前回調査33%)不支持率52%(前回47%)でした。
〇この内閣支持率急低下の原因は、コロナ政策と検察官定年延長問題にあることは明らかです。新型コロナウイルスの問題での安倍内閣の対応を評価するかどうかについて、毎日は評価する20%・評価しない59%。朝日は評価する30%・評価しない57%となっています。黒川問題については、毎日は、黒川検事長の定年延長の責任は安倍首相にある28%・森法相にある3%・両方にある47%。朝日新聞は、黒川定年延長の安倍首相の責任は大きいか──大きい68%。
〇こうしてみると、未曽有のコロナ禍の中で、コロナ問題と直接関係のない検察問題がより強く国民の怒りの心に訴え、政治を大きく動かそうとしていることに、今更ながら驚きます。そして理不尽さを感じます。こうした事態を正していくためにも、安倍晋三首相の進退こそ、問われねばならないでしょう。