週刊誌の新聞化 新聞の週刊誌化
〇2020年の前半半年、新型コロナウイルス感染問題と並行してニュースであり続けた、検察官の定年延長問題と、それに実質的に絡む広島県を舞台とした参議院議員選挙違反(買収)事件。これらは現役の国会議員である、前法相夫妻の同時逮捕で山場を越えました。
〇法務大臣経験者の逮捕は戦前戦後を通じて初めてと言われ、またあれほど無理を通せば道理引っ込むつもりでいた、検察官の定年延長問題もとん挫したことで、安倍政権の秋口での終焉までささやかれています(長くやるつもりなら、コロナ禍のもと、誰が国会を閉じたりするもんですか)。
〇しかしマスコミウウォッチャーとしては、2つの事件が週刊誌の事実報道でその成否が左右されたのが、今更ながら衝撃的でした。すなわち選挙違反事件は去年秋、週刊文春が「いわゆる選挙活動のウグイス嬢に、法定の2倍の報酬が支払われた」と伝えたことに検察が着目して捜査を始めたものです。また、検察官定年延長問題は、横紙破りの定年延長の当事者で、政権お気に入りの検事総長候補者、黒川東京高検検事長(当時)の賭けマージャンを同じ週刊文春が報道し(2020年5月20日、ネットで流れた)、その後2日で黒川氏は辞任、検事総長の夢は吹き飛びました。
〇日本の週刊誌はもともと新聞社系が始まりで、「サンデ―毎日」「週刊朝日」の順に古く、昭和20年代後半から30年代(1955年~)にかけて扇谷正造編集長のもと、「週刊朝日」が売れに売れました(徳川夢声の「問答有用」、吉川英治の「新平家物語」!)。そのいわば第1次週刊誌ブームの頃の昭和30年代前半に、雑誌社系の「週刊新潮」や「週刊文春」などが登場。この辺から、週刊誌の性格が変わっていきます。
〇新聞も週刊誌もニュースを取材して伝えるものです。そして、ニュースの取材とは、1.何を 2.いかにして取材し 3.どう表現するか の3要素で分解して考えるというのが私が開発した方法です。この3要素で分解すると、新聞はいかにして取材するかというところに重点があります。それに対して雑誌系週刊誌の場合、どう表現するかに重点がある、というのが私の見方でした。私が経験した、そのことの典型的な例を紹介してみましょう。
〇1963年(昭和38年)の秋、東大で茅誠司総長の後任を選ぶ選挙があり、東大新聞の記者をしていた3年生の私が予想記事を書きました。東大新聞は4ページ建ての週刊新聞。選挙の結果は、有澤広巳前法政大学総長と大河内一男経済学部教授の決選投票となり、大河内教授が当選しましたが、何から何まで私の予想通りの結果でした。
〇総長選の結果が出るとすぐ、雑誌系の週刊誌の記者が東大新聞編集部に飛んで来て、なぜ予想通りの結果になったのかを、私に熱心に聞く。大人の記者に初めて取材されてびっくりしながら、詳しく説明しましたが、それが記事になったのを見てまたびっくり。広告の惹句に「東大総長選挙は大学新聞の言いなりではないか、という声に応えて──(取材した)」とあり、社会科学研究所の若手助教授の言として、「記事の通りに投票したんでしょう」(実は、面倒になって私自身が言った言葉)とまで書かれていました。
予想記事が大当たりだったことで、鼻高々になっているのを暴露されたようで恥ずかしく、しばらく学内を歩けないような気がしました。
〇「東大総長選挙は大学新聞の言いなり」なんて失礼なことは、普通の新聞でも学生新聞でもとても書けない。だけど、こうして読むと面白い。自分の恥ずかしさは別にして、これぞ週刊誌、と当時の私は感心しました。また、総長選のいきさつを東大関係者に聞くのではなく、いわばライバルの立場の私のところへ聞きに来る。これは事実の取材を全く重視していないことを示すもので、これはこれで、表現こそわが本領ということに徹していて凄い、とも思いました。
〇週刊誌に対する印象は、この強烈な体験がぬぐえず、表現のプロとシャッポを脱ぐ一方、取材だけはこっちがプロ、と思っていました。ところが5,6年前から、週刊誌のやり口ががらりと変わり、取材重視、表現より事実重視となって、特に週刊文春が特ダネを連発、「文春砲」とまで言われるようになりました。また、週刊新潮も負けずに特ダネ発掘に力を入れています。毎週木曜日の発売日の2誌の新聞広告は、今週は何が出てくるのかなと、待たれるようになっています。正に第2次週刊誌ブームの到来です。
〇週刊文春2020年6月25日号は、「スクープした本誌だけが書ける」(ごもっともです)として、「『河井捜査を妨害』 安倍VS特捜検察 暗闘230日」、この事件の取材のいきさつを詳述しています。これを読んで驚いたのは、去年秋、最初の特ダネ原稿を文春に載せる直前の日曜の朝9時、13人のウグイス嬢を12人の記者が一斉に当たり、ウグイス嬢をする以前に案里陣営で働いたことがない、という証言を取ってることです。ウグイス嬢業務への法定の2倍の謝礼に対し、日付の違う2枚の領収書を取っているが、そのうちの1枚は労働の実態がないことを明らかにして、ウグイス業務への2枚目の領収書に他ならないことを裏付けているのです。
〇検察の捜査そのもののような調べ方で、どうせ、特捜検事上がりの弁護士にでも知恵をつけられたのでしょうが、ここまで緻密に取材するとは、その熱意とやる気に、ただただ感心するばかり。
○これに対して、新聞はどうやって対抗しようとしているのでしょうか。目につくのは、新聞の方では逆に、表現に力を入れ、面白い読み物を提供しようとしていることです。夕刊の1面トップに突如、長い読み物風の記事が登場するのはこの類です。
○取材に力を入れている週刊誌と、表現に力を入れている新聞──新しいやり方で成果を上げているのは、公平に見て週刊誌です。新聞には、もっと取材に力を入れてほしいと思うのは、私がいまやオールドメディアの放送の出身だからでしょうか。
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