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「浜の朝日の嘘つきどもと」鑑賞記録(2021/9/10)

福島県南相馬に実在する映画館を舞台に、映画館の存続に奔走する女性の姿を描いたタナダユキ監督のオリジナル脚本を高畑充希主演で映画化。100年近くの間、地元住民の思い出を数多く育んできた福島県の映画館・朝日座。しかし、シネコン全盛の時代の流れには逆らえず、支配人の森田保造はサイレント映画をスクリーンに流しながら、ついに決意を固める。森田が一斗缶に放り込んだ35ミリフィルムに火を着けた瞬間、若い女性がその火に水をかけた。茂木莉子と名乗るその女性は、経営が傾いた朝日座を立て直すため、東京からやってきたという。しかし、朝日座はすでに閉館が決まっており、打つ手がない森田も閉館の意向を変えるつもりはないという。主人公・莉子役を高畑が演じるほか、大久保佳代子、柳家喬太郎らが顔をそろえる。本作と同じタナダユキ監督&高畑充希主演で、福島中央テレビ開局50周年記念作品として2020年10月に放送された同タイトルのテレビドラマ版の前日譚にあたる。

この作品は、福島県南相馬市にある実在の映画館「朝日座」を舞台としている。今年、東日本大震災から10年が経った。被災した人々にも様々なバックグラウンドや立場があり、ひとことで「被災者」について語ることは難しい。その点について、改めて考えさせられた。また「人情」という形のない人間のはたらきが、必ずしも合理的ではなく「割り切れない」からこそ、なお息苦しい現代社会に対する「特効薬」のように思えた。

劇中でも触れられたように、映画こそ人間の内面を豊かにしてくれる(映画を愛する人たちに対して、そんな大袈裟な言い方をする必要はないかもしれない)。それに、ネットフリックスやAmazonプライムビデオといったサブスク動画配信サービスやユーチューブが栄華をきわめ、自宅で一人で映画を楽しむことができるようになった今でも、アカの他人が劇場に集い、共に笑い、涙する経験は(特に「根暗な」人間にとっては)かけがえのないものであり、一定の需要はある(地域差はあれど)。被災地域の「雇用」と「にぎわい」と天秤にかけられ、存続の危機に瀕した朝日座は、映画館を残したいという地域の人々の密かなる「人情」に支えられ、新たな道を切り拓いた。

ハッピーエンドな結末を「安直だ」と批判するコメントがこれから出てこないとも限らないが、この作品は何より「人情」の割り切れなさを見事に描いていると思う。言い換えれば、それは東日本大震災の「被災者」のみならず、コロナ禍においてもがき苦しんできた、あらゆる人々にとっての希望の光である。「明けない夜はない」ことを身をもって表現した主人公・浜野あさひ(またの名を茂木莉子)を演じた高畑充希をはじめ、豪華出演陣の奏でるハーモニーが作品の魅力を高めていることは、もれなく述べておきたい。

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