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2025年、カーボンニュートラル(CN)の実行力が問われる
2025年は、各企業にとってCN実現のための実行力が問われる年になるでしょう。その理由は次のとおりです。
① わが国の温室効果ガス排出量について新しい目標値が決まる
② わが国の電源構成を決めるエネルギー基本計画が改定される
③ わが国は、脱炭素のイノベーションを実現するためのGX戦略を策定し、具体的支援が始まる
④ 年間10万トン以上のCO₂排出量の企業に対して、2026年4月より削減義務が生じ、排出量取引が正式に始まる
⑤ 米国でトランプ政権が発足し、脱炭素の支援が大幅に削減される見込みである
⑥ 昨年11月に開かれたCOP29で、先進国による途上国の支援規模が決まり、途上国への脱炭素支援によるクレジットの仕組みも決定
では、これらを具体的に説明し、最後に企業のCN戦略に対して、影響を与える可能性のある要素を示します。
CN戦略に与える国内外要因
国連に提出するわが国の温室効果ガス排出量の目標値(NDC)が、2035年度は2013年比60%となる見込みです。
現状のNDCは、2030年度に2013年度比46%削減なので、削減量の大幅増となります。2022年度の削減実績量は、環境省の発表では、ほぼ計画通り(2013年度比22・9%削減)で、この削減比率から推計すると2050年度のカーボンニュートラル実質ゼロが実現できると予想されています。
しかし、政府の発表によると、わが国の人口減による電力使用量削減というこれまでの見込みに反して、生成AIの普及によるデータセンターの増加などの要因により、2033年度まで電力使用量およびそれに伴うCO₂排出量が増加するとされています。
そのため、今年度改定されるエネルギー基本計画では、再生可能エネルギーは電力の最大電源(全体の4割から5割)と位置づけられ、新設を含めた原子力発電も最大限活用することが示されています。
その再生可能エネルギーを使って、新製品・新サービスを開発することで、企業の付加価値を上げ、産業構造の転換を図るのが、GX(グリーントランスフォーメーション)というわが国の産業政策です。
中心となるのが、薄型で壁などに貼ることのできるペロブスカイト太陽電池と海に囲まれたわが国の地形を活かした洋上風力発電です。前者は、2025年度より企業による量産化が計画されており、後者は2029年度より試験運用が予定されています。
このために、政府は20兆円の国費を投入し、民間投資の呼び水にする計画です。同時に、政府は、CO₂排出量が年間10万トン以上の企業に対し、2026年4月より削減義務を課し、排出量取引を始めることになりました。
一方、米国ではトランプ政権が発足し、脱炭素の支援が大幅に削減される見込みです。海外に多くの製造拠点を置くグローバル企業にとって不安定要因のひとつになるでしょう。たとえば、電動車で出遅れたわが国の自動車産業にとって、追い風となるのか、向かい風になるのか、予測がつきにくくなっています。
また、昨年11月に開かれたCOP29で、先進国による途上国への支援は、2035年度までに年間45兆円となりました。さらに、先進国による途上国への脱炭素支援によるクレジットの仕組みが決まり、各国がクレジットの国際取引を承認する方法、クレジットを記録・管理するための登録簿に関して合意が得られています。
内外の要因が企業に与える影響
以上の要因により、各企業のCN戦略は実行力が問われ、そのCN戦略の見直しのために、次の要素を検討する必要があります。
① わが国の目標の見直しにもとづいて、自社の削減目標値や達成年度を見直すかどうか
② 再エネなどの非化石燃料が最大電源になることが決まったため、その調達をどうするか
③ GX戦略により、省エネによるコストダウンではなく、脱炭素製品やサービスを開発するチャンスが増えるが、それをCN戦略に取り込むかどうか
④ 排出量削減が義務化される企業は、義務履行のために排出量取引を行うことも必要になるが、削減のためのクレジットをどう調達するか
⑤ グローバル企業で対米依存の大きい企業は、米国拠点の工場のCN化を見直すかどうか
⑥ 少なくとも日本国内では、再生可能エネルギーの導入にしたがって電力のCO₂排出係数が下がるのに伴い、自社の売電分のCO₂排出量をどれくらい見込むのか
⑦ 途上国のCN支援を行うことでクレジットを創出し、それを国内の排出量削減に利用するかどうか
以上の要素を考慮しながら、各企業は、これまで開示することに重点があったCN戦略を本物の取り組みにするために、実行力のあるものにすることが問われています。
(執筆者:中産連 主席コンサルタント エネルギー管理士 梶川)
自動車部品製造業・産業機械製造業・廃棄物処理業を中心に、温室効果ガス排出量算定・削減、省エネ診断、環境法令順守コンサルティングを行っています。