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仮説思考と逆算思考を組み合わせるとストーリーが見えてくる:リーダーに必要な思考のプロセス

逆算思考で仮説を裏側から見る

仮説思考についての記事をいくつか書いてきました。

今回は仮説をストーリー化する際に役立つ「仮説思考と逆算思考を組み合わせた思考法」について解説します。これは私が自然とやるようになった思考法ですので、普遍性があるかどうかはわからないのですが、非常にやりやすく効果的な方法なので紹介したいと思います。

手順は簡単で「まず仮説を考えて、その仮説が想定している将来像から逆算して『起こらなければならない事象(起こるはずの事象)』を考える」というだけです。言い換えるなら、逆算思考によって仮説を「裏側から見る」ということです。

ある将来が起こってしまった状態を想像し、「それが実現しているということは、きっとこういう事象が起こったはずだ」と考えるのです。事象というのは「誰かの行為とその行為の結果」のことを指します。それらの事象が連続的に起こり、最終的な結果(将来像)につながります。

現状から将来につながる事象の連続のことを「ストーリー」と言います。

「ストーリーを描く」と言いますが、ストーリーは事象(出来事)の連なりによって成り立っています。したがって、ストーリーを描くためには「起こるはずの事象(出来事)」をイメージする必要がありますが、逆算思考によって「こういうことが起こらないと、この結果にはならないはず」ということをイメージしやすくなります。

例えば、「会社の収益力を向上させたい」という課題があったとします。そのときに、「とにかく限られた時間で収益力を強化するためには営業力の強化に集中して組織能力を高めるべき(A案)」という仮説と「間接部門までを含め、会社全体で顧客満足を向上させる能力を身につけるべき(B案)」という2つの仮説があったとします。

実際にどちらの案を選択するかは「その選択をした場合の将来像」を考えてみて、そこから逆算してどんな事象のつらなりが想定できるかを考えることでストーリーが見えてくるので、そのストーリーを比較して決めることができます。

上記の例なら、A案を採用した場合、営業部門主導で会社の業績が向上している未来が見えます。営業部門の能力が強力されるためには、営業担当者に厳しいトレーニングや意識改革が行われている必要があります。トレーニングや意識改革のためには研修やワークショップ、業績評価の方法の変更などが実現していないといけません。

想定する将来から逆算してこれらの事象(行動の結果として発生している出来事)をイメージした場合、「果たして営業部門から不満はでないのか」、「他部門の強力なしに営業部門だけの強化が可能なのか」、「営業部門だけが強化されても、他の部門が足を引っ張ることになって、結局は会社全体の能力向上が必要になるのではないか」などのことを考えます。

そうした懸念点や「事象の発生可能性」を考えた上で、その仮説の描く将来が「無理筋」でないなら、その仮説に基づいて行動することには勝算があると考えても良さそうです。

同様に、B案を採用した場合、各部門が等しく能力強化されている状況が実現していないといけませんし、そのためにはたくさんの研修を実施している必要があります。また、たくさんの研修を実施いている状況が実現しているためには、たくさんの研修費用と研修時間を費やしている状況になっているはずです。

それらの事象をイメージして、どこに不都合や問題があるのかを考え、実際に自社の現在の実力でその出来事の1つひとつを実現できるのかを検討します。もし、「できる」ということなら、B案は戦略の最終候補として残りますし、「無理だ」ということなら却下されます。

その戦略は力強く美しいストーリーを描けるか?

仮説思考で考えた戦略とその戦略が実現する将来像を逆算思考で「裏側から(右から)見る」ことで、必然的に起こっていなければいけない事象が見えてきます。それを「チェックポイント」と言ってもいいかもしれません。

どんなに立派な戦略(仮説)も、通過すべきチェックポイントを通過しなければ実現不可能な「絵に描いた餅」です。

関係者(少なくとも主要な関係者)が「この戦略はちゃんと必要なチェックポイントを通過できる」、「自分たちがチェックポイントを通過させることができる」と思える戦略は「力強く、美しいストーリー」です。

組織に属する多くの人が自分たちの成功を願っていますし、自分もその成功に貢献したいと考えています。実現した最終形だけでなく、実現に至るプロセスまでをイメージできる戦略は「力強く、美しいストーリー」として組織メンバーのモチベーションを高めます。

誰もが「せっかくがんばるなら成功したいし、成功の可能性を感じられる活動に従事したい」と考えています。もちろん、例外的な考えの人はいると思いますが、例外的な人は少数だからこそ例外なのであり、多くの組織メンバーは「期待値の大きさとリアリティー」によってがんばれたり、がんばれなかったりします。

期待値が高く、リアリティーのあるストーリーは力強く、美しいストーリーです。美しいというのは、単に表面的にきれいで見栄えのいい言葉を並べているということではありません。ここで言う「美しい」とは「人が動く原動力となる『感動』を与えられる」という意味です。

リーダー、ビジョナリー、ストーリーテリング

リーダーはメンバーを率いる人物のことを言いますが、メンバーを率いるためには大義名分が必要です。大義名分が政治思想だった場合、リーダーは政治家や革命家ということになりますが、企業のリーダーには思想ではなくビジョンが必要です。

「先見の明のある人」、「洞察力のある人」、つまり明確なビジョンを持っている人のことをビジョナリーと言います。優れた企業の多くはビジョナリーでした。スティーブ・ジョブズしかり、ビル・ゲイツしかり、ジェフ・ベゾスしかりです。

世界的経営者を引き合いに出すと気後れする人もいるかもしれませんが、何かしらのビジョンを持って、それをストーリーで語ることが大事だということです。その意味で、ビジョンを考えることが苦手だったとしても、リーダーである以上は部分的にはビジョナリーである必要があるといえます。

もし、本当に将来のことを考えることが苦手なら、そういうことを考えることが得意な人材を参謀として活用すればいいです。リーダーに何の将来構想もないということはないでしょうから、ある程度見えているものを手がかりに参謀と一緒にビジョンを考えれば問題ありません。

むしろ、リーダーにとってより重要なことは、そうやって描いたストーリーを語るということです。要するにストーリーテリングということですが、これは参謀ではなくリーダーがやらないといけません。ストーリーを描くまでは参謀の助けを借りても良いですが、それを語ることはリーダーが自身の責任でやり遂げないといけないことです。

ただ、残念ながらこれをやりたがらないリーダーもいます。リーダーにはリーダーの役割があります。役割とは「演劇などで割り振られた役」のことです。つまり、リーダーには「リーダーの役を演じること」が期待されているわけです。そして、メンバーを鼓舞する「演説(スピーチ、ストーリーテリング)」は誰よりもリーダー役が演じるべきものです。

語りかけに苦手意識を持っているリーダーもいると思いますが、苦手だからこそ「自分自身が納得できるストーリー」を事前に描いておくことが大事になるのです。自分自身が納得していれば、多少たどたどしくても、語りに迫力が出ますし、聞く側も納得しやすいです。

「仮説思考で将来像を考え、逆算思考でチェックしてストーリーを描く」という思考プロセスは多くのビジネスパーソンに求められることですが、とりわけリーダーには必要なことだといえます。


(執筆者:中産連 上席主任コンサルタント 橋本)
民間のシンクタンクおよび技術マネジメントと事業開発を専業とするブティックファームを経て現職。現在は、事業拡大と新規事業開発によって長期的な成長をめざす中堅・中小企業の経営方針・事業戦略の策定と現場への浸透を中心にコンサルティングと人材育成を担当しています。

中部産業連盟では、各種コンサルティングおよび人材育成支援を実施しています。コンサルタントの派遣にご興味のある方は以下の問い合わせ先にご連絡ください。

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