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アジア脱炭素化へのわが国政府や企業の貢献
1・欧米によるカーボンニュートラル(CN)政策やルールへの依存
わが国産業界は、EUによる野心的なカーボンニュートラル政策やルールに従うのに四苦八苦しています。
蓄電池のLCA情報の報告、CBAM(炭素国境調整措置)、廃棄自動車由来のプラスチック使用義務などです。
GHG(温室効果ガス排出量)の算定についても、欧米発のルールに追随しています。サプライチェーン全体のGHG排出量算定ルールのGHGプロトコルに従って、Scope1、Scope2、Scope3を算定するのに苦労しています。
2・欧州主導のCN推進策の減速
こうした依存は、輸出先の海外市場からの要求として受け入れざるを得ない面があるものの、わが国が主導して世界の脱炭素化のためのルールを作ることが必要であるという主張もあります。
最近のEV(電動車)需要の一服に伴い、欧州の自動車メーカーの中には、EV化目標達成時期を遅らせ、HV(ハイブリット車)の販売を強化し、燃料電池車の量産化を目指すところまで出てきています。HVと燃料電池車といえば、わが国メーカーが世界に先駆け開発・販売しているのは周知の事実です。
わが国の現実的なCN対策を世界に広めるチャンスが来ています。
3・アジアにおけるわが国政府によるCN推進の動き
わが国は、10月初旬ラオスでASEAN諸国などとアジアの脱炭素化を目指す首脳会合を開き、今後10年を見据えた脱炭※素行動計画を取りまとめることで合意しました。この計画は、2023年にわが国が提唱したAZEC※(「アジア・ゼロエミッション共同体」)の枠組みを使っています。
わが国は、東南アジアを中心としたアジア諸国と協調し、各国の独自性に配慮しながら、欧州のように、地域全体で脱炭素を進めるリーダーシップを取っていると言えます。
※AZECとは、11ヵ国(豪州、ASEAN加盟国のブルネイ、カンボジア、インドネシア、日本、ラオス、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)のAZECパートナー国が参加し、域内のカーボンニュートラル/ネット・ゼロ排出に向けた協力のための枠組み
AZEC構想の枠組みの中において、日本とAZEC各国における政府、企業、金融機関の間での協力案件は、AZEC首脳会合の際に発表された68件のMOU(協力覚書)を含めて350件以上にのぼります。
こうした実績をもとに、AZEC10ヵ年の行動計画のなかには、わが国の地球温暖化対策推進法(温対法)に基づいたGHGの算定・報告・公表のルールをAZEC加盟国で整備を行うことも含まれています。
この整備が実現すれば、わが国と東南アジアのGHG排出量の世界におけるシェアはそれぞれ、3%と4%で合計7%となり、EU7%と同じになるため、国際社会におけるCNのルール作りにも発言力が強化されます。
4・アジアにおける民間企業のCN推進の動き
ミネベアミツミグループは、市場拡大が見込まれる機械加工部品の製造のために、カンボジアのプルサットに新工場を建設します。この工場は、再生可能エネルギー100%によるCN工場です。カンボジアは、発電設備容量の62%が再生可能エネルギーであり、2050年までにネット・ゼロ・エミッションを達成することを目標としているCN先進国です。 (プレスリリースの記事はこちら)
わが国産業界は、再生可能エネルギーのさらなる普及については多くの壁にぶち当たっており、国内拠点のCNが進まない要因のひとつになっています。
しかし、今後、中国経済とのデカップリングにより、東南アジア進出が加速化することを考えると、東南アジアのCN先進国進出先の製造拠点のCNを進めることで、サプライチェーン全体の脱炭素化に貢献させるという戦略も有効です。
東南アジアに製造拠点のある企業にとっては、わが国政府や先進企業の動きを取り入れることを検討する価値があると考えます。
(執筆者:中産連 主席コンサルタント エネルギー管理士 梶川)
自動車部品製造業・産業機械製造業・廃棄物処理業を中心に、温室効果ガス排出量算定・削減、省エネ診断、環境法令順守コンサルティングを行っています。