GX(グリーントランスフォーメーション)によるイノベーションを活用する
再生可能エネルギーの現状
わが国は、2020年のカーボンニュートラル宣言以来、折り返し点の2030年の46%削減(2013年度比)に向けて、計画通り(on track)に、温室効果ガスを削減しています。
2012年度から始まった再生可能エネルギー特措法(FIT【固定価格買取】制度)により、電力会社に再生可能エネルギーを買い取らせる義務を負わせるなどの措置が大きな役割を果たしたのは間違いありません。
実際、わが国の再生可能エネルギーなど非化石エネルギーによる電力の割合は、2021年度で20%を超えています。
しかし、わが国は来年、国連に「2035年度温室効果ガス排出量を2019年度比60%削減する」という目標を提出する可能性があります。これは、2013年度比換算で66%削減となり、上積み20%となります。
このような中、これまで順調に伸びてきた太陽光発電を中心とした再生可能エネルギーによる発電に対しては、以下のようなアゲインストの風が吹いています。
再生可能エネルギー買取制度により、国民が負担することになった賦課金が増え続けている
太陽光発電など買取価格も下がり続け、発電コストも化石燃料による電力より安くなり、買取制度を続ける意義が問われている
現在主流のシリコン製太陽光パネルの寿命は約20年間であり、これからFIT制度により急増した同パネルが老朽化し、大量に廃棄される時代を迎える
太陽光パネル製品のほとんどは中国製であり、製造に使う原材料の多くも中国で調達されている
太陽光パネルを設置する適地が少なくなっている
ペロブスカイト太陽電池の可能性
こうした太陽光パネルの抱える問題に直面し、わが国は GX(グリーントランスフォーメーション)の新しい方針の下、再生可能エネルギーの分野でイノベーションを起こすため、民間企業への支援を開始しています。
カーボンニュートラル宣言で発足した「グリーンイノベーション(GI)基金」により、「次世代型太陽電池の開発」支援が始まっています。
この次世代型太陽電池とは、ペロブスカイト太陽電池であり、以下の特徴があります。
軽量性や壁面等の曲面にも設置可能な柔軟性がある
変換効率は既存のシリコン製太陽電池とほぼ同じである
主な原料(ペロブスカイトという結晶構造の材料)であるヨウ素は、わが国が世界シェアで2位であり、経済安全保障の面から優位である
ペロブスカイトの課題としては、耐久性が10年ほど(シリコン型は20年)と低く、2030年の発電コスト(kWh当たり)は14円(経産省目標)と高い(シリコン型は5.5円(予測))ことが挙げられます。
政府による支援と今後の展望
この課題解決のために、政府による民間企業支援として、以下の実用化事業が2020年より進んでいます。
積水化学工業㈱などの超軽量太陽電池R2R(ロールtoロール)製造技術開発、㈱東芝などのフィルム型ペロブスカイト太陽電池実用化技術 、㈱エネコートテクノロジーズなどの設置自由度の高いペロブスカイト太陽電池の社会実装、㈱アイシンなどの高効率・高耐久モジュールの実用化技術開発、㈱カネカなどの高性能ペロブスカイト太陽電池技術開発、国立研究開発法人産業技術総合研究所の次世代型ペロブスカイト太陽電池の実用化に資する共通基盤技術開発です。
その開発成果を踏まえ、現在は実際の建築物などにペロブスカイト太陽電池を設置し、発電効率、耐久性などのデータを取得し、この技術を一般に普及させることを狙い、民間企業等から次世代型太陽電池実証事業を公募中です。
実際、GI基金により支援を受けた企業は、東京都など地方自治体からの支援を受け、学校や市役所など公共建築物における実証実験を続けています。
さらに、生産拠点整備のためのサプライチェーン構築支援策を実施し、FIT(固定価格買取制度)で、シリコン型などの太陽光発電よりも高く買い取られるよう、政府内で検討中です。
2030年までには、新型電気自動車にこのペロブスカイト太陽電池を搭載する自動車メーカーが出てくるとも予想されています。
わが国のカーボンニュートラル実現の過程で、ペロブスカイト太陽電池のように新しい技術やサービスを生み出されつつあるのです。
企業は、そうした技術やサービスを積極的に活用することによって、CNの実現を図るということが可能です。
(執筆者:中産連 主席コンサルタント エネルギー管理士 梶川)
自動車部品製造業・産業機械製造業・廃棄物処理業を中心に、温室効果ガス排出量算定・削減、省エネ診断、環境法令順守コンサルティングを行っています。