わが国カーボンニュートラル目標の進捗と今後の見通し
2024年 カーボンニュートラルの現状
2024年の今年も連続真夏日を更新し続ける酷暑でした。外出するのも危険な暑さになり、さらに気温が上がると生活するのも困難になるのではと心配になるほどでした。
わが国が2020年10月26日にカーボンニュートラル宣言をしてから、本年11月でもうすぐ4年となります。2013年度比で2030年度に46%削減、2050年度にはカーボンニュートラル(以下、CN)という目標の達成状況はどうなのでしょうか。
中産連の会員企業の多くを占める製造業、とりわけ自動車部品製造業の中では、削減目標達成どころかCO₂は増加しているのではと肌感覚で考える向きがあります。これは足元好調な生産活動による自社のCO₂が増加しているためと考えられます。
一方、2020年1月からコロナ禍が始まり、人の動きが抑制されるなど経済活動が停滞したために、削減目標は順調に進んでいると考える向きもあります。
はたして、どちらの考えが実態に近いのでしょうか。
達成状況と環境省の評価
環境省の発表(下図)によると、目標達成状況は後者の考えに軍配が上がっています。2022年度の温室効果ガス排出量・吸収量(排出量から吸収量を控除した量)は、約10億8500万トン(CO₂換算)で過去最低値となり、2013年度比22・9%減少(▲約3億2210万トン)した。これは、前年の2021年度よりも2・3%減少(▲約2510万トン)ということです。
こうした進捗状況について、環境省はオントラック、つまり2050年CNに向けて順調に減少傾向であると評しています。これは、環境先進国といわれるEU諸国など、目標以上に多くの温室効果ガスを排出した国と対照的です。2023年の第28回国連気候変動枠組み条約(COP28)で行われた、CN進捗検証(グローバル・ストックテイク【GST】)でその現状が明らかになっています。
削減目標の見直し
一方、2023年度から中間地点である2030年度の削減への道のりは厳しいという声もあります。
まず、そもそもの削減目標が上積みされる可能性が高まっているのです。
2023年のG7広島サミットで「2035年度に温室効果ガス排出量は2019年度比、60%削減」が共同声明に盛り込まれました。これを受け入れることは、2013年度比換算で66%削減(上積み20%)を意味します。
わが国も来年2025年11月のCOP30で、この66%削減を正式に発表するかどうか注目されています。
この上積み目標をもとに2024年度中に第七次エネルギー基本計画が策定される予定です。この策定はとても困難と思われます。
現行の第六次計画では、「2030年度に再エネなど非化石電源比率を59%前後にする」となっており、この比率を法律(エネルギー供給高度化法)で義務づけるべきであるのに、現在でも「2030年度に非化石電源比率を44%以上にする」とされており、59%比率とは不整合です。
この状況は、わが国政府が59%が見通せないことを認めていることになり、新しい削減目標値66%は野心的どころか空想的なものになりかねないのではないかと危惧されています。
GXによるイノベーションと政策の展望
悲観的な見解を申しあげましたが、政府も手をこまねいているだけではありません。
愛知県田原市・豊橋市沖などにおける浮体式洋上風力実証事業では、2030年度までに商用化技術を確立しようとしています。
さらに、次世代太陽光発電であるペロブスカイトの実証事業へ財政支援を行ったり、再エネ需給バランスをめざした広域送電線整備へも支援するなど、これまでにない大胆な政策を打ち出しています。
CNは困難であるからこそ、このようなGX(グリーントランスフォーメーション)によるイノベーションが進みつつあると言えます。
(執筆者:中産連 主席コンサルタント エネルギー管理士 梶川)
自動車部品製造業・産業機械製造業・廃棄物処理業を中心に、温室効果ガス排出量算定・削減、省エネ診断、環境法令順守コンサルティングを行っています。