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12月の魔法とチャイナポップスへのノスタルジー

 12月に入ると街の空気は変わる。例年、クリスマスの装飾が華やかになり、あちこちからクリスマスソングが流れ出すものだ。しかし、最近は少々様子が違う。ブラックフライデーというセールイベントが11月末に割り込み、クリスマスムード一色になる前に一旦「お買い得感」の波が押し寄せるのだ。このため、12月初旬の街は若干混乱した雰囲気が漂っている。お店側にとっては、ブラックフライデー、クリスマス、お正月と続くイベントの対応で目まぐるしい日々であろう。心から敬意を表したい。

 クリスマスといえば、クリスマスソングが欠かせない。山下達郎の「クリスマス・イブ」が定番だ。街で何度も耳にするたび、冬の到来を感じさせられる。しかし、私にとってこの季節に思い出深い曲はもうひとつある。それが、香港の歌手・張學友(ジャッキー・チョン)の「Merry Christmas I Love You」である。

 この曲との出会いは学生時代に遡る。当時、短期留学で天津を訪れた際、街角で売られていた香港歌手のカセットテープを何気なく手に取った。それがきっかけで、90年代の香港ポップスに魅了されるようになったのである。香港といえば、沢木耕太郎の「深夜特急1」に描かれた香港の姿が私の中で特別な存在だった。大学4回生の時、バックパック1つで旅をする…とはいかなかったが、「地球の歩き方」を携帯し、1週間ほど香港に滞在する機会を得た。

 香港のレコード店では、劉德華(アンディ・ラウ)のコンサートVCDが流れていたのをよく覚えている。VCDは日本では馴染みが薄く、非常に新鮮だった。旅を終えた後、私は中国語ページを閲覧するために「Asia Surf」というアプリをWindows95にインストールし、香港の情報を追いかけるようになった。そして、自然と香港や台湾の音楽にのめり込むようになり、大阪の「中華中心(チャイナセンター)」というお店でCDを買い漁る日々が始まったのである。

 その中で特に心を掴まれたのが、張學友だった。彼の歌は日本の楽曲をカバーしたものも多く、日本人にとってもどこか親しみやすいメロディーだった。「Merry Christmas I Love You」もその一つであり、クリスマスが近づくたびにこの曲が脳裏に浮かぶ。

 就職後、音楽を追いかける熱量は薄れてしまったが、当時購入したCDは今も手元に残っている。最近では、Apple Musicを使って当時の曲を聴き直し、懐かしい気持ちに浸ることもある。張學友をはじめとしたチャイナポップスは、私にとって特別な音楽体験であり、12月になるとその記憶が鮮やかに蘇る。

 ブラックフライデーからクリスマス、そしてお正月へと駆け抜けるこの季節。ふと足を止め、思い出の音楽に耳を傾ける時間も悪くないだろう。

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Siestan
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