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12 母と子を結ぶ見えない糸

幼少期から「母に隠し事は通用しない」と感じていました。それが実体験に基づくものなのか記憶は曖昧ですが、父から「お母さんには何でも話すように」と言われていたこともあり、私は比較的母に何でも報告する子どもでした。

大学生になり、免許を取得してドライブを楽しむようになりました。ある日、友達と遠出しようと思い立ち、数時間かかる街へ遊びに行くことになりました。

県境に差し掛かった頃、楽しさに夢中で母への連絡を忘れていることに気づきました。実家住まいだったため、遠出する際や夕飯が不要なときは、事前に必ず母に連絡を入れるのが習慣だったのです。「次のサービスエリアで連絡しよう」と思った矢先、「ようこそ⚫︎⚫︎県へ」の看板が目に入りました。その瞬間、県境を越えると同時に母から電話がかかってきたのです。

驚いて電話に出ると、母の第一声は「ねぇ、どこに向かってるの?」でした。まだGPSが普及していなかった時代のことだったので、母からの電話はなおさら不思議に感じました。「友達と⚫︎⚫︎県に向かっているところだから、夜ご飯はいらないよ。でも、どうしてわかったの?」と尋ねると、母は「なんとなく、あなたがどんどん遠ざかっていくような気がしたのよ。運転、気をつけてね!」とだけ言うのでした。

帰宅後、そのことを話すと、母は「実は私も似たような経験を祖母としたことがある」と教えてくれました。

それは、母が高校を卒業して間もなく就職した頃のことです。バイクで通勤していた母は、ある日、帰宅途中に大きく転倒し、全身を強く打ちつけました。幸い、厚手の服を着ていたため流血は免れましたが、相当な痛みだったそうです。なんとか家にたどり着き、玄関を開けた瞬間、祖母が駆け寄り「ねぇ!何があったの?」と声を上げました。

当時は携帯電話もない時代です。もちろん母は祖母に連絡を入れておらず、目撃して連絡するような人もいなかったはずです。母は、心配をかけたくない一心で何も言わないつもりでしたが、祖母は「ご飯を作っていたら全身に衝撃が走ってすごく痛かったの。だから絶対にあなたに何かあったと思ったの!」と言ったそうです。

母と子は、もしかすると見えない何かでつながっているのかもしれません。

椿 ちゅん


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