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01 母の祈り

これは、おそらく私が記憶する中で一番古い不思議な体験です。

小学校に入学した私は順風満帆な毎日を過ごしていました。人見知りをしない性格だったため、すぐに友人もでき、活発で自主的に何でもやれるお手本のような生徒だったので、先生にも好かれていたように思います。

ただ、それをよく思わなかったのか、私が何かしてしまったのか、原因は定かではありませんが、小学校一年生の夏休み明けから、同級生の一人、仮にMちゃんとしますが、彼女から突然嫌がらせを受けるようになりました。

嫌がらせと言っても、小学一年生なので内容は比較的軽いものでした。鬼ごっこで私だけを狙ったり、出し物のダンスの練習で私とのペアを嫌がったり、グループの私にだけお手紙を書かなかったりといったものです。ひどい時には他の友人にコソコソと話をした後、無視されたこともありました。

幸いにも、そうした行為をしてくるのはMちゃんだけでしたが、当時の私には初めて受ける他人からの悪意で、まさに晴天の霹靂でした。深く傷つき、我慢の限界に達した私は母に「学校に行きたくない」と打ち明けました。その晩から三日間、母は寝室にこもり、飲まず食わずで過ごしました。そして、三日目の夜にようやく姿を見せた母は、「もう大丈夫」と私に言いました。

何が大丈夫かわからないまま、なんとか学校を休まずに通い続けていた11月のある日、突然Mちゃんが転校することになりました。正直、ホッとした気持ちになり、家に帰るなり母に「Mちゃん、転校するって」と話すと、母は「だから、大丈夫って言ったでしょ」と静かに言いました。

その時の私は母の言葉の意味がよくわからなかったのですが、しばらくしてからその意味を母に尋ねました。

当時、私の話を聞いた母は気が気でなかったようで、三日三晩、「どんな形でもいいからMちゃんがこの子の前から消えますように」と必死に神様に祈っていたそうです。

Mちゃんの親も、なぜ11月に転校が決まったのか、不思議に思っていたそうです。私立の小学校で受験もあったため、一年未満で転校するとは考えていなかったはずです。

Mちゃんの転校が母の祈りによるものなのか、ただの偶然なのかはわかりませんが、私は母に守られたのだと信じています。

転校後、Mちゃんから遅い年賀状が届きました。その年賀状には私の名前が赤い文字で大きく書かれていました。その赤い文字が今でも鮮明に記憶に残っています。

椿 ちゅん


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