05 都会に現れた友人
上京して気づいたのは、田舎よりも霊が多いということでした。特に駅は、気にし始めるときりがありません。私でさえあちらこちらに見えるのですから、霊感が強い人は本当に大変だろうなと思いました。
そんな都会暮らしにも慣れてきた頃、不思議な人影が突然、私の周りに現れるようになりました。顔は見えないのですが、中肉中背で、パーカーにジーンズというラフな格好。特に危害を加えるわけでもなく、ただ現れては消えるだけでした。その時は、「都会には変な霊もいるものだ」と軽く考えていました。
しばらく経ったある日、電車で音楽を聴いていると、思い出の曲が三曲続けて流れました。そのどれもが、友人Sさんとの思い出深い曲。年が一回り上だったSさんとは、カラオケでよくその曲を歌い、楽しい時間を過ごしたものでした。「懐かしいな。最近会ってないけど、元気かな。」と思いを巡らせていた数日後、地元の友人から連絡がありました。
「Sさんが亡くなった」との知らせでした。
一人暮らしのSさんを心配したご両親が、連絡が取れなくなったことを受けてアパートを訪ね、そこで静かに息を引き取っているSさんを発見したとのことでした。すでに死後一週間ほど経っており、葬儀はご家族だけで済ませると聞かされました。
その瞬間、全てが繋がりました。あの謎の人影は、紛れもなくSさんだったのです。背格好もそっくりでした。きっと、早く見つけて欲しかったのではないかと胸が痛みました。
でも、どうして私のところに現れたのでしょう?近くに住む年の近い友人もいたのに、上京してから一年ほど連絡を取っていなかった私の元に来た理由がわかりませんでした。
数ヶ月後、Sさんのご家族から「Sと親しかった友人たちと食事をしたい」と声がかかりました。数名で集まり、Sさんの思い出話に花を咲かせました。話が一段落した頃、私はあの出来事と自分の疑問を打ち明けてみることにしました。
すると、友人たちは笑って「挨拶するにも、俺たちは霊感ゼロだから、気づかないもんな。」と言うのでした。
その言葉に、私は少しだけ心が軽くなった気がしました。Sさんは、もしかしたら私に最後の挨拶をしに来てくれたのかもしれません。そう思うと、不思議とあの思い出の曲が、以前よりもずっと特別に感じられるようになりました。
椿 ちゅん