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19 『死霊館』に誘われた夜
これは、新宿のラブホテルで体験した話です。
旅行先でホテルを事前予約するのが面倒だった私は、当日飛び込みでラブホテルを利用することがよくありました。しかし、この出来事をきっかけに、それをやめることにしました。
その日は夜勤明けの友人と遊んでいました。友人はかなり疲れていたようで、「早くお風呂に入って寝たい」とホテルに着くなり、シャワーを浴び始めました。一方、私はまだ眠る気分にはなれず、映画でも観ながらダラダラ過ごそうと決めました。当時はまだネットフリックスが主流ではなかった気がしますが、そのラブホテルの部屋には自由に映画を視聴できるサービスがついていました。画面をスクロールしながら何を観ようか迷っていると、映画館で見逃していたホラー映画『死霊館』シリーズの作品を見つけました。ホラー好きの私は、迷うことなくその映画を選んだのです。
ほどなくして、友人はお風呂からカラスの行水のような速さで上がり、ドライヤーで髪を乾かしていました。一方で私は映画を観るのを一旦中断し、入浴の準備を始めました。友人は髪を乾かし終えるとすぐにベッドに潜り込み、寝息を立て始めました。
一方の私は、広い浴槽にテンションが上がりながら、時間を忘れてゆっくりとお風呂を楽しんでいました。当時の都内では、ビジネスホテルよりもラブホテルの方が安価で広く、部屋も綺麗だった印象があります。そんなことを思いながら疲れを癒し、お風呂から上がって脱衣所でドライヤーを使っていると、突然、壁をノックするような音が聞こえました。
「友人が洗面台を使いたいのかな?」と思い、ドライヤーを止めてドアを開けましたが、友人はベッドでぐっすり寝ています。
「気のせいかな…」と思いながら、再びドライヤーを使い始めました。すると、また同じ音が聞こえてきたのです。ドライヤーのコードが壁に当たっているのかと思い、手を止めて確認しましたが、何も当たっている様子はありません。それでも気を取り直し、もう一度ドライヤーを使い始めた矢先──。
トントントン。トントントン。
その音は、どう考えてもノック音でした。壁が薄いため、隣の部屋の住人が「ドライヤーがうるさい」と文句を言いたいのだろうと考えました。髪はまだ乾ききっていませんでしたが、隣人の睡眠を妨害するのは申し訳ないので、ドライヤーを置き、ベッドルームに戻ろうとしたその瞬間――。
トントントン。
今度は、ドライヤーの音がない静寂の中ではっきりと聞こえました。脱衣所のドア、つまりベッドルームに続くドアの向こう側から、間違いなくノック音が響いてきたのです。シンとした室内に不気味な音がこだまし、全身が凍りつくような感覚に襲われました。意を決してドアを開けましたが、そこには――誰もいませんでした。
恐怖に駆られた私は、ダッシュで友人のいるベッドに潜り込みました。怖さのあまり部屋中の電気もそのままに、ただ目を瞑って朝が来るのを待ちました。
翌朝、友人に昨晩の話をしましたが、「なんで起こさなかったの?」と呆れられてしまいました。ですが、あれほど熟睡している友人を起こすのも気が引けましたし、深夜に別のホテルを見つけられるかも分からなかったので、結局そのまま朝まで耐えたのです。
それからしばらくして、私は何気なく『死霊館』シリーズの映画を観ていました。その時、「あの日ラブホテルで途中まで観た映画だ」と気づきました。タイトルは『死霊館 エンフィールド事件』でした。映画を観進めるうちに、ポルターガイスト現象の一つとして“ノック”が登場します。そして、主人公の心霊研究家エドがこう言うのです。
「3回たたく?」
「三位一体を侮辱している、父と子と精霊を。」
そう、3回ノックは三位一体を侮辱する悪魔の仕業だと言うのです。
トントントン。
あの日私が聞いたノック音は、間違いなく3回でした。
また別の日のこと――私は映画館で『死霊館』シリーズの別作品を観ていました。どの作品か記憶が定かではありませんが、『死霊館のシスター』だったように思います。映画を観終わった後、二の腕が異常に痛むことに気づきました。何気なく腕を見ると、身に覚えのない大きなアザができていたのです。
『死霊館』シリーズは実話をベースにしていると言いますから、何が起きても不思議ではないのかもしれません。このシリーズに関連して、私には2回も怪現象が起きました。そのせいか、私はこの映画の大ファンになってしまいました。
ちなみに、2025年9月にはシリーズ完結編が公開されるそうですね。2013年から観続けているシリーズの最終作、今からとても楽しみです。また何か不思議な出来事が起きたら、ここでご報告しますね。
椿 ちゅん