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気象予報士と見る『気象庁の人々』#04

Netflixにて配信されている『気象庁の人々:社内恋愛は予測不可能?!』。今回は第4話 視程 を見ていきたいと思います。

第4話
職場の人たちの前で、シウに対して特に厳しい態度をとるハギョン。一方チェ・ユジンが書いた気象庁の対応を批判する記事が新聞に掲載され…。

Netflixより引用

第4話ではタイトルの通り、視程をテーマに、人によって見えるものが違う様が描かれていましたね。見ているこちらも騙されていたとは…な展開でした。

本筋のストーリーの感想・考察は他の方にお任せして、今回は視程や霧について語っていければと思います。

1.視程とは~霧ともやのちがい~

第4話のタイトルにもなっている「視程」。視程とは水平方向で見通せる距離のことをいいます。観測地点から最も見通しが悪い方位を探し、どの程度の距離まで肉眼で見えているかを観測します。

実際には観測値点を中心として、代表的な目標物(ビルや鉄塔、山など)までの距離を測っておいて、その目標物が見えるかどうかを見ます。人の目による観測というのが、アナログで好きです。

この視程によって、霧ともや(靄)は区別されます。

ウェザーニュース記事より引用しました。霧は視程が1km未満、もやは視程1km~10km未満と定められています。反対に、快晴の日に遠くまで澄みわたった空だと、視程が40kmとか50kmになることもあります。こちらもウェザーニュースより引用。

視程は見るだけなので、自宅からでも簡単に観測できます。毎日見ていると同じ晴れの日でも、遠くまで見通せる日と少しかすんで見える日もあったりと、気づきがあるかもしれませんよ。

2.陸上でできる霧のメカニズム

第4話で発生していた霧。幻想的ともいえますが、都心で濃霧となれば交通事故等の引き金にもなる厄介な存在です。霧にはいろいろな種類がありますが、陸上でよく見られる放射霧を解説します。

これは2015/11/27に都心で観測された霧の動画です。

都内などの陸上では冷え込んだ明け方に霧が発生し、気温の上昇と共に解消することが多いです。このタイプの霧は放射霧とよばれています。

霧の中では、雲と同じように空気中の水蒸気が冷えて水滴になって漂っています。つまり霧ができるためには、水蒸気とそれが冷える原因が必要になるということです。

放射冷却という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
地球は昼でも夜でも熱(=赤外線)を発し続けています。昼間は太陽が出ているので受け取る熱もあるのですが、夜は熱が出ていくばかりの状態になります。それによって夜間に気温が下がることを放射冷却といいます。

晴れた日や風のない日は、明け方日の出前にかけて、放射冷却によって特に地表付近の気温が下がりやすくなります。その時に空気中の水蒸気量が多いと、気温の低下で水蒸気が水滴になり、霧が発生するのです。これが放射霧の仕組みです。

3.濃霧に警報がない理由

第4話では、ユジンが書いた記事を発端に、韓国に濃霧特報がない理由について語られていました。振り返ってみましょう。

①地形について

「韓国には2つの山脈が東側を走っていて、東側の傾斜が激しく、西側が緩やかで、ソウルから元山(ウォンサン)にかけては、深い地溝帯が南北に走っている」

Netflixより引用

韓国はハギョンのセリフの通り、東側は山脈、西側は平地、東西は浸食によってできた谷がいくつも走っている地形をしています。

Google mapより

山や谷が多いと、それだけ空気の流れが複雑になり、予測が難しくなります。気象予測の流れの中には、各地の気象観測結果や過去の予測値をもとに、スーパーコンピュータが将来の予測を行う過程があるのですが、スパコンによるシミュレーションのベースとなる地形データが、現実の地形よりも大雑把なため、山地などで地形の凹凸が大きい地域は予測の誤差が大きくなる傾向があります。

②地理的要因について

「国土の7割が山、三方が海、主要な河川が11本、ダムが1206か所ある韓国は、気象学者の間で気象観測が最も難しい国とされている。」

Netflixより引用

一般的に中緯度の地域は暖気と寒気が混ざり合う地域であることから、気象予測の難易度が高いといわれています。韓国は中緯度地域に属していることに加え、三方を海に囲まれています。陸上と海上では空気の挙動も異なることから、さらに予測が難しくなるというわけです。

③予算について

「韓国気象庁の予算が4000億ウォンと少ない。濃霧特報を出している英国は1兆6000億ウォンである。」

Netflixより引用

予算は予報精度に影響すると考えられます。予算が増えれば気象観測の地点を増やしたり、スパコンや研究開発に投資したり、人を増やしたりすることができるからです。
韓国気象庁の予算4000億ウォンは、1ウォン=0.1円とすると日本円で400億円です。ちなみに日本の気象庁の予算は530億円です。イギリスも加えて比較してみると以下の表のとおりです。

確かにイギリスと比べると圧倒的に差がありますが、日本と比べると国土1㎡あたりや人口1人あたりでは韓国の方が予算額は高くなりました。

ちなみに日本の気象庁予算は、「コーヒー予算」(1人あたり年間コーヒー1杯分程度の値段で天気予報を見られる)などと呼ばれています。韓国は770円なので、さしずめ「フラペチーノ予算」といったところでしょうかね。

以上の理由とともに、韓国において濃霧は超局地的な現象で実効性がないと説明がなされていました。つまり濃霧はごく狭い範囲で起こる現象のため、技術的にピンポイントで予報ができない。予報できたとしても広い範囲に対してしか発表することができず、そうなると予報の信頼性が保てない。ということなのだろうと思います。

4.まとめ

シウとハギョンが徹夜でまとめ上げた報告書を読みたい。そんな第4話でした。

今回、韓国の予測モデルや予報精度について調べてみると、韓国気象庁の予報が全然当たらないといった主旨のブログや記事がいくつか出てきました。韓国語の記事はGoogle翻訳を通して読むしかないため、本当のところどうなのかはわからないのですが、作中の韓国気象庁の描かれ方は実際の評判と近しいのかもしれないと思いました。

また、韓国は気象予測が難しい国として説明されていましたが、日本も四方を海に囲まれ、かつ国土の7割は山地であるため、韓国と地理的要件はかなり似ています。日本は民間の気象会社も多く、天気予報は個人的に結構当たっていると感じているのですが、そう考えると日本は少ない予算で健闘しているといえそうです。※正確には天気予報の精度は適中率や捕捉率といった数値で比較できるのですがそれはまた機会があれば記事にします。

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