気象予報士と見る『気象庁の人々』#01
Netflixにて配信されている『気象庁の人々:社内恋愛は予測不可能?!』。
今回は第1話 シグナル(Signal)を見ていきたいと思います。
第1話では、雹(ひょう)が降るサインの見逃しと、チン・ハギョンとイ・シウそれぞれのカップルの別れの予兆の見逃しが対比して描かれています。
雹のサインは見逃さないのに、別れのサインには気づけないシウくんがかわいい。
本筋のストーリーの感想・考察は他の方にお任せして、今回も気象予報士的視点で、降雹のサインとは何だったのかについて語っていければと思います。
※私も勉強中の身ですので、解釈や説明に誤りがあれば、バンバン指摘いただければ幸いです。
1.雹(ひょう)が降るのはどんな時?
雹は積乱雲(入道雲)によってもたらされます。雲の中の氷の粒が、落下する間にぶつかり合って大きくなったものが地上に落ちてくる現象です。
雹は、初夏(5~6月)に多いといわれています。積乱雲というと夏のイメージをされている方も多いと思いますが、真夏は気温が高く、氷の粒が落下する間に溶けて雨になってしまうため、真夏は雹になりにくいのです。
ただ、作中で見ていた断熱図が、2022年3月10日のものだったため、雹が降りやすい時期とはまた少し外れるのですが、3月の降雹も例がないわけではありません。このあたりも、見逃しの一因なのかもしれません。
今のところ雹を確実に予測するのは難しく、精度向上のためにレーダーによる雹の直接観測や、AIでの降雹予測等の試みが行われている状態です。
先に書いた通り、雹は積乱雲から落ちてくるため、積乱雲ができやすいシグナルを察知することが重要といえます。そこでポイントとなるのが、「大気の安定度」です。
2.大気の状態が不安定だと、積乱雲ができやすい
「大気の状態が不安定」という言葉をテレビで耳にしたことがあると思います。これは上空に冷たい空気が、地表付近に暖かい空気がある状態で、空気の上下移動が起こりやすい状態のことを指しています。
真夏に地表付近が暖められたり、上空に冷たい空気が流入した時に大気の状態が不安定になりやすいです。
暖かい空気は冷たい空気よりも軽いため、地表付近の暖かい空気は何かのきっかけで上昇すると、そのまま上空へ昇っていきやすくなります。積乱雲は上昇気流とともに発生しますから、大気の状態が不安定な時に積乱雲ができやすく、局地的な雨や雷、雹のような激しい現象が起こりやすくなります。
真夏の夕立は、昼間に地表付近が暖められて大気の状態が不安定になり、積乱雲が発達することで起こるため、夕方に雨になりやすいのです。
3.断熱図に表れていた雹のシグナル
第1話で、気象庁が見逃していた雹のシグナルは、「断熱図」というグラフに表れていました。(断熱図はエマグラムとも呼ばれています。)
断熱図のイメージはこちらです。
断熱図は横軸に気温、縦軸に気圧(または高度)をとったグラフで、ある地点で地表から上空に向かって気温がどのように変化しているかを表すのに利用されます。
上のグラフの赤線がその例で、縦軸は上に行くほど高度が高くなっているので、高度とともに気温が下がっていることがわかります。
さらに、点線は地表の空気が上空に持ち上げられた時にどのような温度変化を辿るかを表したものになっています。(少し不思議かもしれませんがこの点線は赤線とは違う形になります。)
断熱図からは、
・雲の高度、前線の高度
・逆転層について
・大気の安定度
など様々なことが分かります。
第1話のシグナルは、この中の大気の安定度にかかわるものです。赤線と点線に囲まれた部分の大きさがその判断の目安になります。
一般的に黄色の面積が小さいほど、青い面積が大きいほど大気の状態が不安定といえます。第1話で出てきた利川(イチョン)の断熱図がこれにあてはまり、大気の状態が不安定、つまり何かのきっかけで上昇気流が生まれると、積乱雲へ発達しやすい気象条件だったといえます。
まとめ
つまり、雹が降る前というのは、「二人の仲があまり良くなくて、ちょっとしたことがきっかけで大ゲンカに…」みたいな状態だったというわけです。
降雹のシグナル、気になった方はぜひ第1話を見返してみてくださいね!
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