「花」あれこれ
ブンゲイファイトクラブ3(BFC3)という催しで、本戦ファイターとして出場いたしました。大変栄誉なことです。作品は↓のリンクから読めます。
作品概観
(あくまで一つの読み方として)
教室に飾る花がいつの間にか入れ替わっていく。クラスメイト達が早朝こっそりと花の入れ替えを行っているのだと気づいた主人公の私は、いずれ自分の番が来るのではないかと準備を進める。私は花の入れ替えを「ゲーム」と呼び、特に意味のない余興のようにとらえつつ、心のどこかでは「自分のため」に行うある種の儀式でもあると気づいている。
ついに自分の番がやってきて、買ってあった竜胆の花を生けると、それまでそこにいた秋桜が手に余る。私はあわててそれを鞄に隠し、花の入れ替えの真意を思う。同時に自分の中にあったほのかな後ろめたさを、秘密というシチュエーションそのものの中に溶かしていく。
作中にはなにかしら常から外れた死がほのめかされるが、それがどういったものなのか、事故なのか自殺なのかは、具体的に想定されていない。級友たちにとってそれが「各々にとって継続しがたい事情」であることだけがうかがえる。儀式の効果もあいまいで、彼らがこれからずっと取りつかれたように生きていくのか、次の週には忘れてしまうのかも定かでない。重さのない秋桜の重さを匂いのない竜胆の香りに換えた私の感慨は、救いのようにも、空虚な自己暗示のようにもとれる。
「ある地点を境に作品世界の景色が一変する」ような作品構成は、なかむらあゆみさんの第四回阿波しらさぎ文学賞受賞作品「空気」を参考にした(なかむらさんの作品はめちゃくちゃ勉強になった)。ただ六枚の短さの中で転換を中心に据えるとどうしても不足感が目立ってしまい、結果的に「仕掛け」や「オチ」みたいな扱いになってしまった。「読み解き」の拘束力が強い作品になってしまったので、次作はよりエスノグラフィックな「整理されてなさ」を目指してみたい。
花の種類
花の話は好きなので、たまに調べて書きたくなる。ので「朝顔は花瓶に挿さないんじゃないか」とか「百合と竜胆では季節が違わないか」とか、じぶんでいろいろ気になる所はあった。悩んだ末、季節的な順序や生態の整合性よりも物語的な効果を優先することにした。百合は私とありさの関係性について、白菊は野球部の堀田のイメージとのギャップに関して、それぞれ深読みをしてくれる読者が現れて「何のための花瓶か」から意識をそらすような効果を狙った。花言葉は薔薇にだけ込めた。ひとつとっかかりがあれば「ほかの花は……」と勘ぐってくれる人がいるのではと思ったからだ。花のラインナップにはばらつきを与え、あくまで「各々の事情で」行われる弔いが、結果として疑似的な一体感を帯びている点の受け取り方に期待した。話の構成上、主人公が鞄に忍ばせることになる花はなるべく軽く、脆い印象のものがいいと思って秋桜を選んだ。昨年の大会でイチ押しだった馳平さんへのリスペクトも少し込めた。
私の花を竜胆にすることは初めから決めていた。阿波しらさぎ文学賞の祝賀会の際、俳人のうっかりさんが竜胆を買って飾っているという話をしていて、それを中心に話を作りたいなと思っていたからだ(物語的な効果とは)。
抱負について
奇想系の作品が多かった第一回、第二回をふまえ、一見目立たないが手触りのいい作品が勝ちあがると嬉しいなと思った。ふたを開けてみると今大会は落ち着いた風味のものが多くて、ぎゃあー当てが外れたと思った。抱負の最後に書いた「雅かつ邪悪」は、こい瀬伊音お嬢様からいただいた言葉で、しっくり来たのでよく名乗っている。邪悪お嬢様の会は現在四人。おさんぽしたりあんみつを食べたりする会だと聞き及んでいる。
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