おとうさん ピアノを買ってくれてありがとう
おとうさん
「ピアノを買ってくれてありがとう」
今 そんな言葉が素直に出てきた。
小学生の頃、ピアノは憧れだった。
幼稚園からならっていたオルガンでは鍵盤がたりないなぁと感じていた。
ピアノで弾いてみたかった。
でもそんなこと言い出せなかった。
ある夜、少し酔っぱらった父がほとんど寝ようとしている二段ベッドの上段で横になっている私にいった。
私は小さい頃から寝付きが悪く、床に入ってもすぐに眠れないたちだった。
父は言った。
「なんか欲しいものはあるか?」
常日頃から厳格である父は、そんなことを普段言う人では、なかったので私は、これはチャンスだと思った!
父が酔っているのも、なんとなくわかっていた。
おーし!いっちゃえ!
父が怖かった私はビクビクしながらも
勇気を振り絞っていった。
「ピアノを買ってください。。。」
消え入りそうな小さなこえで布団をかぶりながら言った。
それを聞いて父はショックだったそうだ。
一気に酔いが覚めたらしい。
と言うことを
つい先日90歳を迎える父から初めて聞いた。
こんなに時が経ってから知る真実。
そんな高価なもの、無理だ。。。
と父は青ざめたらしい。
しかし、現実には、我が家にアップライトピアノが届く日が
やってきたのだ。
わたしは、宝物というものはこうゆうものなんだ!
と天にも昇る心地だった。
一生懸命練習した。
でもなかなか上手になれなくて、
レコードで聞くような曲は
ピアノピースを買っても、全然指が動かなくて
私は自分の下手さに絶望した。
名曲のピアノピースばかりが溜まって行った。
ピアノの発表会では毎回カチコチにあがってしまい
途中で止まってしまって、どうにも指が動かず
先生が苦笑いをして楽譜を届けてくれたり
鍵盤が指から出る汗でぬるぬるしてすべったり
まっしろになったり
とにかく、発表会にはいい思い出はない。
ピアノは大学生までつづけたけど、自分で満足できることはなかった。
そして、残念ながら私はピアニストにはなれなかった。
それでもあのアコースティックな音色は大好き。
そのピアノは、保育士をしている妹が嫁ぐときに持って行って
今でも大事にしている。
今日 ピプノのワークをしていたら
急に小学生の私が出てきて
おとうさんにちゃんと嬉しかった気持ちを伝えたかなぁ?
と言う思いがでてきた。
多分当時お礼は言ったんだと思う。こわごわ。
何を言うのも、父と話す時は緊張をしていて
うまく話せる事はなかった。
でも、今のわたしなら素直に言えそう。
おとうさん、ピアノを買ってくれてありがとう。
ずいぶん無理させたんやね。
ありがとう。本当嬉しかったよ。
今度あったら、ちゃんと言おう。
最近父の記憶が怪しくなってきている。
まだちゃんと私の言葉が届く間に
つ た え よ う。
なんだろう、さっきから涙がポロポロと流れるよ・・・
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