ハチドリ舎とのコラボ企画「空き家」第2回 広島市の取り組みをレポート
2023年1月からはじまった「空き家」をテーマとする「ハチドリ舎」と「みんなでつくる中国山地」のコラボレーション企画。今回は、会員の吉田英文が第2回目の開催レポートをお届けいたします。
第1回開催レポートはこちら
今回のゲストは、広島市地域活性推進課の浦川さん、崎本さん。広島市では、市が空き家を借りて、利用希望者に貸し出す「中山間地域空き家バリュー再生・活性化事業」を実施しており、空き家を改修する際には、最大1千万円を補助する仕組みを創設されたとのこと。広島市の本気を感じますね。この制度の概要から背景、ジレンマなど、いくつかの話題に分けて紹介していきます。
1 じつは広島市の6割が中山間地域
広島市といえば、中国地方有数の人口規模を持つ都市。みなさんも広島市と聞いてイメージするのは市街地の様子ではないでしょうか。ただ、お話を聞いてみると、広島市の面積は広く「市の約6割が中山間地域」との説明にハッとさせられます。市全体では人口が多くても、少子高齢化に直面する地区は多く、他の中国山地の地域と同様に空き家の問題に直面していることが伝わってきます。
その広島市では、下の図のように、プラットフォームとして「空き家バリュー再生ステーション」の運営をNPOなどに委託し、空き家所有者と活用希望者のマッチングを行っています。さらにユニークなところは、自治体自身が主体となって「借り上げ転貸」をしていることです。通常、自治体は空き家バンク等で所有者と利用希望者の間に入ってマッチングのみを行い、賃貸借契約は当事者同士で結ぶことが多いのですが、広島市は自治体が賃貸借契約を結ぶ仕組み。この点でも広島市の本気度の高さを感じます。
*事務局長の森田さんに紹介いただいた研究によると全国のいくつかの自治体で「借上げ転貸事業」を実施しているとの情報を得ました。渡邊史郎・角倉英明・田渕貴稔「地方公共団体による空き家の借上げ転貸事業に関する研究」『日本建築学会計画系論文集』第85巻第777号、2020年を参照。https://www.jstage.jst.go.jp/article/aija/85/777/85_2385/_pdf
2 まずは「地域の魅力化」が大切
「中山間地域空き家バリュー再生・活性化事業」では、定住促進のための住居として活用すると最大100万円(補助率1/2)、住居以外の地域の魅力スポットとして活用する場合は最大1000万円(補助率1/2)の補助金が支給されます。「え、1000万円も?」というのが、最初に聞いた時の率直な感想です。全国の自治体で空き家の改修に関する補助が拡充されていることは分かるのですが、桁違いの額です。ちなみに私が住んでいる富山県氷見市の補助上限額を100万円から300万円に拡充した際、300万円という額でも大きな反響がありました。1000万円というのは格段に大きなインパクトがあります。
さらには、住居への改修に対する補助よりも魅力スポットへの補助が手厚い点もユニークです。その理由は、空き家対策以前に「地域の魅力化」が重要との考えが背景にあるようです。たしかに移住者が増え、空き家を有効に活用する人が多い地域には、キーとなる魅力的な店舗や先輩移住者がいることが多くありますね。いきなり不特定多数の移住希望者や空き家活用希望者が増えることはなく、最初はコアで魅力的な「特定少数」のお店や人がきて、次に「特定少数」に賛同した「特定多数」の人がきて、という流れが少しずつ強化されて移住者が増えていきます。そのような流れを生み出すには大胆に予算をかけた施設を作り、地域の魅力をつくるのが大切だ!ということでした。
もちろん、行政がこのような大胆な予算を確保するのは、とてもとても大変。その行政内部の格闘のお話もお聞きできました(笑)
3 いい空き家があっても
広島市から戸山・湯来地区の「空き家バリュー再生ステーション」の運営委託を受けているNPO法人住環境デザイン協会の宮川さんにもお話に加っていただき、浦川さん、崎本さんの3人から空き家の発掘や紹介の実際についてお話をお聞きしました。
市が借り上げる賃借料が固定資産税相当額と廉価で、さらに10年間という契約期間であることから、市の借り上げを希望しない人も一定数いるとのことでした。また、良い空き家があっても、土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)内のものも多いようです。当然、レッドゾーンにある空き家は住宅としての活用は奨められませんので、農業体験の際に活用したり、DIYワークショップの会場とするなどの工夫が考えられます。
他の地域でもそうかもしれませんが、日当たりの良い場所は農地として活用していることも多く、住宅は日当たりが良くないこともままあります。このような不利な情報も隠さず伝えていらっしゃるようで、大切なのは「ありのままを伝えて考えてもらうこと」とのお言葉。このスタンスには頷きます。
まだ7月に始まったばかりで、マッチングが成立した物件はないようですが、問い合わせはあるとのことで、今後が期待されます。
4 行政の働きかけと地域の主体性
広島市の中山間地域でも、移住希望者が多く、たくさんの人が良い空き家が出てくるのを待っている地区もあるようです。行政としては補助制度を拡充してはいますが、主体性を持って取り組んでいる地域については無理に利用を促すことはせず「よければ補助制度を利用してね」「利用できるケースがあれば検討してくださいね」とのスタンスを大切にしているとのお話がありました。
この背景には、地域や空き家所有者の主体性が高まっていないのに、無理に貸し出しをお願いしてうまくマッチングしなかった経験もあるとのこと。地域や空き家所有者の主体性を大切にする行政の心構えの大切さを学びました。
一方で、行政の働きかけがないと動きだせない地域もあるそうで、その辺りのバランスはどの地域でも抱えるジレンマに感じます。広島市も新しい制度は複雑なところがあり、地域への丁寧な説明に加え「一歩踏み出してやってみませんか?」と問い掛けて当事者性を喚起することも大切との声もありました。
5 家は「個人の財産」か「地域の財産か」
後半は質疑や各自の感想を言い合い、様々な意見が飛び交いました。広島市の取り組みは、空き家を個人の財産として尊重しつつも、地域の魅力化のためにも有効活用していこうというものでした。森田事務局長からも、家は「個人の財産」か「地域の財産か」ということについてコンセンサスができておらず、揺れているのではないかという提起があり、深く頷きました。今回の広島市のサブリースの取り組みは、空き家を地域や行政で共有していくという一歩なのかもしれません。空き家という存在は、様々な矛盾を抱えるテーマで、一筋縄で解決はできないものです。今後も、中国山地の新たなチャレンジに学び、ジレンマに向き合っていきたいと、思いをより強く持ちました。
6 次回は、空き家問題解決に動く庄原の不動産屋さん
中国山地の取り組みを学び、語り合うコラボレーション企画は、まだまだ始まったばかり。次回、第3回は庄原市の「ほしぞら不動産」さんの取り組みをお聞きします。不動産業で空き家を取り扱うのは大変なことです。庄原市へ移住した松本さんがどのような思いで立ち上げたのか、どのような切り口で取り組んでおられるのか、お話をお聞きできるのが楽しみです。
<次回のゲスト>松本晋太さん
1975年生まれ。広島県豊田郡安芸津町出身。瀬戸内沿いでのんびり育つ。大学進学で東京へ出るが、全てをお金で得ている都市の暮らしに危うさを覚えるようになり、田舎に可能性を感じるようになる。2008年、田舎を求めて千葉の外房に移住。そこで就職した不動産会社で、地域を元気にし、豊かな暮らしの場の提供をする不動産業の在り方を学ぶ。東日本大震災を体験し、暮らし方や豊かさ、故郷について改めて考え、故郷である広島への移住を考えるようになる。2014年、その景色に惹かれ、移住先に庄原市を選ぶ。地元の不動産屋で働きながら、中山間地域における不動産屋のありかたを模索。 模索ばかりでも仕方ないので、2022年に「ほしぞら不動産」を立ち上げる。千葉と庄原での14年間の不動産屋としての経験を活かし、地に足の着いた、心の充実を得られる、田舎ならではの豊かさを実現できる場の提供と、眠っていた不動産の活用を通して、地域を元気にする不動産屋を目指して奮闘中。(宅地建物取引士/口和自治振興区 地域マネージャー/子ども向けバンドえぷろん♪ ギター/あきやねっと庄原 専門家メンバー)
———イベント詳細————
【日時】3/10(金)19:00〜21:00
【参加費】店内:1,000円+1drink/オンライン:1,200円
【申し込み方法】
店内参加:https://forms.gle/fjVx6f1vM9hBuic28
\アーカイブ視聴可能/
オンライン参加:https://tinyurl.com/25653uar
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【主催】
みんなでつくる中国山地百年会議 × ハチドリ舎
【お問い合わせ】
TEL:082-576-4368
mail:hachidorisha@gmail.com
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