京都とロカビリー
我社では、福利厚生として某リゾートクラブに加盟している。
会社で高い会費を払っているだけに、実際に使用する社員は非常に安価で結構キレイなホテルに泊まれる。
例えば、
『今週末、3連休だけど熱海の温泉でもいくか~』
っと思いたち
『熱海のホテル空いてな~い?』
っと総務に連絡すれば、総務からリゾートクラブ側に仲介をして空室の確認、予約まで取ってくれる。
ちょっとしたコンシェルジュ状態。気分は大富豪。
まぁまぁ、悪くない福利厚生である。
また、コチラから確認するばかりでなく、逆に総務側からも
『人気宿の空室が出ました!一組限定ですがいかがでしょうか?』
的な全社一斉メールがきたりする。
今朝もそうだ。
『社員各位
9月の3連休初日、9/23(祝)の〇〇のスイートルームに空きがでました。
(通常、秋の3連休で京都は予約困難となっております)
ご希望の方、限定1組宿泊できます。(1組大人5名まで宿泊可能)
京都駅からすぐ近くの便利な場所にあります。
先着順でお受けいたしますので、ご希望の方はご連絡ください。』
なんと、1部屋¥30,000弱。
マックス5名で行ったとして、30,000÷5=6,000!
ほぉ~~、一人¥6,000か~。
こりゃ、安い。早速、予約しちゃうかな~。
っと返信メールを打とうと思った瞬間、脳裏によぎる違和感.....(;´Д`)
う~~ん。なんだ?完全になにかが抜けてる気が.......。
その時、ふと大学時代のことが甦った。
大学時代に所属していた音楽サークルにリーゼントにボウリングシャツ、ギターはグレッチ。
という、あからさまにロカビリーな先輩がいた。
もちろん、グレッチのボリュームノブは白黒のサイコロだ。
あたり前田のクラッカーである。
バリバリのロカビリーたるもの、そうでなくてはならない。
ロカビリーとはスタイルだ。そのスタイルを崩してはならないのだ。
一度、部屋に招かれる機会があり、期待に胸を膨らませドキドキしながら部屋を訪れたことがある。
『当然、床は白黒のブロックチェックだろう......』
部屋に通され、その部屋の扉が『襖(ふすま)』だった。
その段階でその期待はもろくも打ち崩され、その襖を開け、目の前に真新しいキレイな緑色の畳が広がっているのを見た瞬間、『ハタチそこそこの貧乏学生の限界』を感じ、そのあまりのギャップに笑撃を受け、その場で悶絶したわけだが.....
ロカビリーの部屋が畳って(笑)
ともあれ、『できる範囲』でスタイルを突き通してこそのロカビリーである。
ある日、皆の集まるラウンジで談笑していると、そのロカビリー先輩がすっくと立ち上がった。
(別の先輩)『おう?ど~した?帰んのか?』
(ロカビリー先輩)『おう。ちょっと原宿行ってくるわ~』
(別の先輩)『原宿~?原宿のどこ?』
(ロカビリー先輩)『クリーム・ソーダ』
(別の先輩)『クリーム・ソーダ?なんだクリーム・ソーダって?んで、そのクリーム・ソーダに何しにいくんだ?』
(ロカビリー先輩)『クシ買いに。』
クリーム・ソーダ.....。
ご存知無い方のために補足しておくが、クリーム・ソーダとは当時原宿にあったロカビリーの聖地(メッカ)の1つである。
ココのクシというのは、ロカビリーのマストアイテムだった。
(先輩)『マヂかよ~~!お前!いくらのクシ買うつもりだよ!!ココから原宿行くのに往復で¥760だぞ!電車賃足したら、この辺でメチャメチャいいクシ買えんぞ!!(爆笑)』
(ロカビリー先輩)『........((((;゚Д゚))))))) 』
何度も言うが、ロカビリーとはスタイルである。
この後、この先輩同士が掴みあいのケンカになり、その場にいた皆が割って止めに入ったことは言うまでもない。
当時、中央線吉祥寺の向こう側に住んでいた我々が、原宿に出るためには、たしかに往復で¥760の電車賃を支払わなくてはならなかった。
その先輩の言い分は正しい。
近くの店で買ったほうが、良いクシが買えたに違いない。
だが、何度も言うが、ロカビリーとはスタイルである。
ロカビリーが軟弱なクシで美しいダックテールを作れるわけがないのである。
その辺を考えると、その先輩はタブーに触れたことになる。
まぁ、長くなったが冒頭の宿の話に戻すと。
オレは宿代だけを見て、その他の諸費用を完全に忘れていた。
特に運賃。
東京駅から京都まで新幹線を使うと片道で¥14,000くらいかかる。
往復で¥28,000だ。
一人で¥28,000の運賃。
これに食事代が上乗せだ。
ちょっと前だったら、ヘタしたら韓国か台湾あたりに旅行できる。
つまり、いくらホテル代が安いからといって、東京から京都は気楽に行けるような距離じゃないってことだ。
『行きたい!!絶対に行きたい!』
と思って初めて行ける距離なのだ。
総務のプレミアム感たっぷりのトラップに、危うく足元をすくわれる所だった......
まさか、ロカビリー先輩のクシに助けられるとは.…
書いてる本人も予想もしない着地点。
まぁ、正直ど~でもいいことですけどねぇ......
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