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國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.22
國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.22
國松 淳和 くにまつ じゅんわ
医療法人社団永生会南多摩病院
総合内科・膠原病内科 部長
今回は2021年の4月号の「何読み」です!
今回の内科学会雑誌の特集は「糖尿病患者の併発症の診かた」です。
前にも言いましたが、私、毎号必ず「Editorial」をしっかり読むようにしています。
今号はアタリでございます。非常に良いです。今回はEditorial必読です。
冒頭に, “本特集は、いわゆる糖尿病合併症ではなく, 「併発症」を扱ったものであり,今までほとんどなかった特集である.” と書いてあります。
確かに切り口の鋭い特集だなあと思いました。
繰り返しますが今回のEditorialは印象的でした。
ぜひご一読下さい。
では、「今月の症例、どこに線を引きましたか?(どこ引き)」に参りましょうか!!
ちなみにどこ引きというのは、「今月の症例、どこに線を引きましたか?」の略で、「何読み」の中のメインコーナーになっております。
「どこ引き」は、(私の場合)青とピンクの2色の蛍光ペンで、
青:この症例に関する重要点・私が重要と思ったところ
ピンク:この症例とは直接関係ないけれど、一般論として重要な点・別の症例などに役立ちそうなところ
で塗り分けるのでした。
今月号は3例ありました。
では、1例ずつ見て参りますね。
■p794 免疫チェックポイント阻害薬ペムブロリズマブに起因したACTH単独欠損症の1例
いつものように最初にタイトルをみますがこれは、さすがにこれは「このまんま」です。
というか、ついに出ました。
明らかにテーマは「免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象」(以下、これをすべて略してirAE)ですね。
感慨深いです。このタイトルを見て、「あぁ、irAEだ」を思えること自体が時代の進歩です。
そしてもっと年数が経てば、このケースが、このようなケースレポートになることすらなくなる時代が来るのでしょう。
irAEとは......とここで説明したいところなのですが、つい先日、令和3年4月、この領域の“快著”が出ました。
金芳堂の「免疫関連有害事象irAEマネジメント 膠原病科医の視点から 峯村 信嘉(著)」です!
正直もうほぼコレです。
臨床現場で免疫チェックポイント阻害薬が使われ始めた当初から、この領域のマネジメントは課題になっていました。
私も思いますが、irAEは膠原病科医・免疫内科医がマネジするのが一番だと思います。その流れを確かなものにする本だと思います。
irAEを知っていると、今回の症例が「典型的なケース」だろうということがタイトルから推察でき、つまりこの論文の意図は「啓発」にあるだろうということもわかります。
そしてそれを、内科学会会員が読むこの雑誌に掲載されたことは大きいです。
はっきり言ってしまえばirAEは「副作用」なわけですよ。
副作用を“込み”で治療していくというのは、患者さんは理解し難いかもしれません。臨床医がこの病態を認識して初めて、患者さんは「治療は副作用とともにある」ということを学ぶのだろうと思います。
一般の内科医、あるいは免疫チェックポイント阻害薬を自身では処方しない非専門医がこのirAEを知っておく意味があるだろうかという話ですが、それは大いにあると私は思っています。
では本文を読んでいきます。
71歳の男性が、肺扁平上皮癌にペムブロリズマブを4回投与され、初回投与4ヶ月後に全身倦怠感と嘔気が出現しました。
これがirAEとしての副腎不全だったわけですが、この非特異的症状を、非専門医が拾わないといけないわけです。
救急外来にやってくるかもしれません。
軽い胃腸炎、として終わらせるととんでもないことになります。
その後の精査で、下垂体ホルモンの基礎値はACTHだけが低下しており、ACTH単独欠損症と診断。ホルモン補充で改善した、というケースでした。
Na、コルチゾール/ACTH、好酸球を治療前後でモニターしましょう......という予想しやすいメッセージで終わっていますが、免疫チェックポイント阻害薬使用中の患者の、軽微あるいは非特異的症状を見逃さないということが重要だと個人的には思っています。
内科医は、このケース、一読すべきです。
1例目は以上です!
では2例目に参りたいと思います!!!
■p802 ST上昇型心筋梗塞を疑われたアニサキスアレルギーによるKounis症候群の1例
さて「どこ引き」2例目です。
今回もまた、まずタイトルを見てみましょう。
Kounis症候群とあります。
Kounis症候群は、強いアレルギー反応に際し、急性冠症候群(ACS)が起きることを言います。
そうすると、「ST上昇型心筋梗塞を疑われた」の部分はKounis症候群なら当然のことです。定義みたいなものですから。
そうではなく「アニサキス」がこのケースの特徴なのだと思いました。
アニサキスといえば、小腸アニサキスのようにアレルギー疾患という表現になることもありますが、普通は胃の中でバタバタとアニちゃんが動いて患者は七転八倒するアレですよね。
アニサキスも心窩部痛、ACSも心窩部痛、わー! 鑑別に困った! みたいな症例なのかもしれません。
症候学的に興味深いケースの記述である可能性があります。
楽しみですね!
では本文を見て参りましょう。
あれ。
病歴が。
イカとサバを食べた後のアナフィラキシー。身体中の膨疹と胸部絞扼感。
ドクターヘリ内でアナフィラキシーの加療開始。
ヘリ内の心電図でST上昇。病着時には改善。
でもCAGへ。左前下降枝近位部の90%狭窄を認め、アナフィラキシーの経過にACSを伴い、Kounis症候群が考えられたという経過でした。
アレルゲンの検索で、アニサキス特異的IgE抗体価が高くなっており、アニサキスアレルギーによるものと確定されたという症例でした。
さて、私がつい思ってしまったように、アニサキスといえばアレ、というのが少し間違いでした。
1990年Kasuyaらの発表(PMID: 1969043)以来、アニサキスがアレルゲンになりうることがわかり、以後、海産魚摂取後に生じる蕁麻疹やアナフィラキシーの大部分はアニサキスアレルギーによるものであるという考えが主流になった、という記述があります。
(中略)......つまり、腹痛がなくてもアニサキスはアレルギーの原因として注意する必要があると考えられるということです。
まんまと論文の記述に(私が)注意されてしまいました。
このケースは、蕁麻疹がなかったとしても、結局は胸部症状に注意を払うことになるので、ACS疑いとしての初療になるかとは思われますが、アレルギー臨床に役立つ一例だと思いました。
以上です!
では最後、3例目に参りたいと思います!!!
■p810 両側声帯麻痺を合併した未治療2型糖尿病の1症例
さて「どこ引き」、3例目のケースです。
これは......経験はないですが、多分わかりました。
糖尿病って、動眼神経麻痺になるんですよね。
きれ〜〜〜〜な症例を初期研修の頃みたことがあって、印象的で、よく覚えています。
ちなみに学生時代に(つまり医学部学生だった時に)病院実習で受け持たせていただいた患者さんたちの疾患のことも、今でも明瞭に1例1例覚えています。20年以上前のことです。
糖尿病では脳神経の単麻痺が起こるんだってことを事例で学んだことがあるっていうだけではあるのですが、私の脳は実例というのを(ある程度)抽象的に理解して記憶できるのだと思います。
だから、今回の「両側声帯麻痺を合併した」糖尿病の一例というのが素直に受け入れられるわけです。声帯麻痺って、反回神経麻痺でしょ?
では本文を見てみましょう!
76歳女性が、嗄声を主訴に受診。
両側の声帯麻痺がわかり、その原因検索に際してHbA1c 16.2%のDMがわかり、おそらく主治医チームとしてはこの声帯麻痺も、糖尿病性単神経障害と予想して診療していたようでした。
このほかの鑑別疾患として一般に、
• 外傷
• 頚部・縦隔の悪性腫瘍
• 気管内挿管
• 神経・筋疾患(Parkinson病、多発性硬化症、多系統萎縮症、ギランバレー症候群、脳血管障害など)
• 水痘・帯状疱疹ウイルス感染症
• 膠原病
• 放射線治療
などがあるそうです。丁寧な除外診断がなされた上で糖尿病性単神経障害としての反回神経麻痺と診断されました。
この病態の特徴は、DMの罹病期間やコントロール状況によらず発症しうるという点と、ほとんどはDMコントロールを適正にしているうち数ヶ月で自然治癒する予後良好な病態だという点です。
ただこの論文を読んで分かったのは、私冒頭で「よくある」風に書いてしまいましたが、実際には糖尿病性単神経障害で一番多いのは動眼神経で、次いで外転、顔面、滑車神経の順に多く、まれに反回神経麻痺の報告もあるという程度の頻度だったようです。
考察では、その同じ反回神経麻痺の症例がレビューされていました。
総じて、症例報告のお手本のような記述でした。
糖尿病性単神経障害は、予後が悪くないだけに見過ごされているかもしれません。軽微な声帯麻痺は誤嚥の原因にもなるでしょうし、いつでも病態の成因にこだわる姿勢は大事だと思いました。
今月は......以上です!
ありがとうございました。
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