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國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.18
國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.18
國松 淳和 くにまつ じゅんわ
医療法人社団永生会南多摩病院
総合内科・膠原病内科 部長
今回は2020年の12月号の「何読み」です!
今月の内科学会雑誌の特集は、「新時代に求められる臨床検査の理解と適性活用」です。長い。
ああっ、来ましたこのテーマ。タイムリーですね。
きた! PCR! PCR!
......と思われたかた、早計です。
いろいろな分野の検査の話です。内科学会雑誌なのですから。
実際今回の内容は、いい意味で雑誌的で、拾い読みに向いた内容です。
悪く言えば、トピックス間のばらつきはあって、例えば腎臓の評価や肺機能検査に関する記事は全く最新知見のない代わり映えしない内容であった一方、腫瘍マーカーや心機能検査に関するものはかなり最新の情報が記載されていました。
あとは、Covid-19関連凝固異常症や、コロナ検査のレビューなど、Covid-19関連の情報も入っておりました。
腫瘍マーカーは面白かったです。見出しだけ紹介します。
・ 膀胱がん関連遺伝子検査
・ RAS遺伝子変異
・ リキッドバイオプシーによるがん細胞由来ctDNA(circulating tumor DNA)
・ CancerSEEK
・ ctDNAのメチル化パターン
・ 新規胆管がんマーカー WFA(Wisteria floribunda agglutinin)-MUC1
心エコーの新しい技術も面白かったです。
・3次元心エコー図法
・スペックルトラッキング法によるストレイン指標
ストレイン指標は、心筋障害を鋭敏かつ早期に検出できるらしく、心アミロイドーシスの早期診断に期待されているとのこと。
他に、化学療法による心筋障害の早期診断にも使えるため、安全な化学療法の実施に一役買いそうです。
個人的には、糖尿病の患者を長く見ていると、血糖が少しよかったりすると油断して、いつの間にか冠動脈狭窄とか心機能低下とかに進行してしまうことがあるのですが、こういう評価法があると、早期発見・早期介入に役立ちそうです。
さて、
全国の「どこ引き」ファンはお待たせしました。今月も「今月の症例」がありましたので参りましょう!
2例ありました。
あ、
ちなみに「どこ引き」というのは、「今月の症例、どこに線を引きましたか?」の略で、弊note「何読み」の中の名物コーナーになっております(再確認)。
「どこ引き」は、(私の場合)青とピンクの2色の蛍光ペンで、
青:この症例に関する重要点・私が重要と思ったところ
ピンク:この症例とは直接関係ないけれど、一般論として重要な点・別の症例などに役立ちそうなところ
で塗り分けるのでした。
まず1例目です。
■p2539 肺Mycobacterium avium complex(MAC)症の治療経過中に肺ノカルジア症を発症した1例
ではいつものように最初にタイトルをみます。
タイトルだけからは、肺MAC症と肺ノカルジア症の2つしかキーワードがありません。
hintが乏しいですね。こういう時は心眼を使います。
......みえましたか?
あ、みえないんですか。
では説明します。
それは「気管支拡張症」です。
肺MAC症は気管支拡張症になります。MACが認識されていないときは、気管支拡張症を手掛かりにMACを推測することもありますよね。
そして肺ノカルジア症の重要なリスク因子に気管支拡張症があります。
ここまではあまり稀なことを言っているつもりはありませんが、この肺MAC症と肺ノカルジア症の2者が合併するというのは、(論文になるほど)そんなに稀なことのでしょうか。稀じゃなさそうですよね。
さあ、この論文は読んでみないとわかりません。楽しみですね!
読み始めますと、早速イントロダクションのところで、両者の合併を報告した文献は少ないとあります。ちなみに考察のところにもあり、免疫正常に限定すると2例しかありませんでしたとのことでした。
やはり稀だった!!
症例報告論文のポイントはやっぱりタイトルに集約されます。
すると、今回の論文は、「稀さ」がポイントではあるのですが、重要なのはなぜ稀なのかということです。
きっとそれが考察のポイントになっているはずです。
症例は74歳の免疫正常の女性で、肺MAC症を発症して3剤治療中でした。治療は継続していたものの、排菌は停止していました。
しかし2ヶ月の経過で、倦怠感、咳、血痰の悪化があり、この頃から右中肺野と下肺野の浸潤影が悪化してきたということのようです。
当然MACを検索するのですが、わかったのは糸状菌でした(チールニールセン染色で)。
一般細菌検査でもグラム染色で糸状菌がわかり、培養後の質量分析でノカルジア菌が同定されます。
CTだと、右下葉に新たな結節影や淡いすりガラス、コンソリデーションが広範囲に出現していました。
つまりMAC治療中に悪化した肺野異常は、肺ノカルジア症だとわかりました。
治療はST合剤。詳しくは本文で。
では考察ですが、やはり論点は肺MAC症と肺ノカルジア症の合併の件でした。
そういう「症例報告」が少ない理由として、肺MAC症患者の肺ノカルジア症が過小評価されている可能性が挙げられていました。
肺ノカルジア症の肺画像が非常に非特異的かつ「なんでもあり」であることや、ノカルジア菌の発育が遅く要するにうまく培養されないことなどがその背景にあるとの考察でした。
そこでどうすべきかという話なのですが、肺MAC症の治療中に症状や画像所見に悪化があれば、肺ノカルジア症も念頭に置くというものでした。
これは......なんというか盲点でした。私感ですけどね。
ノカルジアって油断してると現れるんですよね。
これは「油断しないように」っていう軽薄なスローガンじゃ防げないんですよ。
それを今回の論文のように「肺MAC症の治療中に」と少しでも条件を設定してくれれば少しマシじゃないですか?
そういう意味でとても堅実なよい症例報告だったと思います。
1例目は以上です!(これ書いてるの年末ですがその割に調子いい)
では2例目に参りたいと思います!!!
■p2545 黒色便を主訴に発見された, 高度肝障害・腎障害を伴うデング出血熱の1例
さて「どこ引き」2例目です。今回もまた、まずタイトルを見てみましょう。
んー、まずこのタイトルはやや「盛り」を感じますね。
「_____を主訴に発見された」という構文が使われるのは、その主訴が全体の診断において意外性を持つときです。
ここで、本当にこのデング熱の症例の主訴が「黒色便だけ」だったのか知りたくなります。もし本当にそうならすごく意外で驚きの症例になります。だって黒色便の人を調べたらデング出血熱ですよ??
そうではなく、「主訴がいくつかあって、その1つが黒色便」ならば、これはちょっとタイトルに偽りありかもしれません。
なお、デング出血熱なら、高度肝障害・腎障害を伴うのは通常です。また、デング出血熱はその名の通り「出血(傾向)」は有名なので、黒色便はまああるかなという感じです。
すると、黒色便とデング出血熱の関係性が意外でなければ、この論文は「えっ」ってことになります。読むの楽しみになってきましたね!!
では読んでいきましょう。
47歳女性。
1月のある日、起床時に高熱、咳、鼻汁に気づいて午前診療所を受診。
迅速検査陰性だったが、流行からインフルエンザとして加療。
しかし夕方から下痢。倦怠感や頭痛が増悪したので、総合病院の救急外来へ受診。肝障害と腎障害あり(AST 207、ALT 123、BUN 22、Cr 1.18)。点滴で帰宅。
その2日後、症状改善しつつあったが、下痢と黒色便と嘔気がみられた。
その3日後、前回の総合病院を再診。
採血で、AST 893、ALT 468、LDH 1153、BUN 58、Cr 1.48、WBC 7600、Hb 17.4、Plt 0.5万であった。
これは......主訴が黒色便だけではないですね。。だけでは。
主たる問題点が黒色便とも思えません。
うーん。タイトル解題時に感じた印象の、悪い方に当たってしまいましたね。
ええ、まあめずらしかったんでしょうねデング熱。
でも、この患者がフィリピン出身であるということが出てくるのが、だいぶ後でした。
それとも上部内視鏡の所見が意外なやつだったのか!?
そうでもないようです。特に考察で触れられていません。
この論文の良いところは、この論文そのものが、デング熱 / デング出血熱に関する良質のミニレビューになっているところです。
この論文をしっかりじっくり読めば、デング熱 / デング出血熱の基礎事項や臨床事項は、効率よくおさえられます。
そうすると、この症例報告というのは、この論文を書いたグループにとっての「記念碑」にしたかったということが推測できます。デング熱診療や黒色便界隈の世に一石を投じる意味ではなく、「こんな面白い症例あったね!」的な。だから、症例の新規性で勝負するのではなく、やや重厚で良質なレビューをすることで考察に
......もうやめましょう。
デング熱の勉強になるんでぜひご一読を(社会性)。
ちなみに今年のこのコロナ禍の文脈を含んで読むと、考察の後半、より一段としみじみしますよ!!
今月は以上です!
コロナのバカがまだ猛威を奮っているようです。
ところでバカなのは一体誰なんでしょうか?
ではこの辺で!