アトレティコ・マドリード コケという男
生涯一兵卒
彼はリーグ優勝時のようなアグレッシブな攻撃面での関与は鳴りを潜めたものの中盤のどこでもプレイすることができ、攻守に渡って異常なほどの運動量を90分間見せつけてくる。ブスケのような高精度のパスを前線へ供給する能力、ダーヴィッツのような猟犬がボールを狩る守備、ベッカムのような玄人好みのクロス。これらの特出したスキルは無いが、どんなチームでも適応することが彼の才能である。
もしもペップの下でポゼッションを行えと言えば持ちうる能力を遺憾なく発揮し、新しいスキルを会得するだろう。相手選手を90分間追い掛け回せと言っても同様だ。
より具体的に技術面について解説すると、攻撃面はリーグ優勝時に比べるとサイドからより中央とハーフスペースを利用するパサーに変化。これはカウンターからポジショナルプレーを志向するようになったシメオネ政権グリーズマン期の名残りかもしれない。
時折オーバーラップを見せてゴールすることもある。
特筆すべきは守備面と運動量だろう。前線からのプレスやセカンドボールを掻っ攫うよりも、コースを切る動きとディレイディフェンスは絶妙。その為一見してもコケの守備面での活躍は分かりにくいので、ボール非所持時には6番を常に見ていると分かりやすいだろう。
運動量は毎試合の走行距離を見れば明らかである。無駄走りをしている訳ではなく、カバーリング含めた守備の動きと攻撃時のパスの経由地及びスペース利用をするためのポジション移動が多い。
リーグ優勝時はフリーマンのように逆サイドまで顔を出していたが、頻度は減った。
指揮官から出された命令には忠実に従い、努力を惜しまない。そんな姿勢がチョロシメオネが重用する大きな要因だろう。生涯一兵卒を地で行くのがコケである。
そしてカピタンへ
そんな一兵卒のコケも、齢を重ねて軍曹となる日がやってきた。私はもう少し先の話になると思っていたし、シーズン序盤の振る舞いを見ているとコケ自身ももがき苦しんでいるように感じた。
コケが背中を見てきたCapitánたちはあまりにも偉大すぎた。
ガビは冷静沈着に振る舞い、ここぞという場面ではチョロのような熱さで鼓舞した。
ゴディンはウルグアイ代表で見せるようなリーダーシップと責任感でチームを後ろから支えた。
トーレスは苦しんでいたチームに差す希望の光となってアトレティコを照らしていた。
もちろん彼らと、コケは違う。ガビは番長、ゴディンは生徒会長、トーレスは学校の人気者でアイドルならば、コケは学級委員長という位置付けがしっくりくる。
他の学級委員(オブラク、サウール、ヒメネス)と共にクラスを支える、調和を司るカピタンこそコケなのだ。
家を守る者として
カピタンとなったコケは家長シメオネと共に我が家を守り抜く。帰属意識を大事にするクラブにおいて、コケのように身を持って体現する男は頼り甲斐がある。
人生をアトレティに捧げる姿は、共に戦うファンやサポーターの心を熱くさせ、背中に背負ったNúmero Seisu(6番)を見るだけで愛を感じる。
Muchachosというチャント一節にこうある。
Enamorado del Atléti.No lo puedes entendel.
(アトレティを愛してる。お前には分かるまい)
コケはアトレティコマドリーという我が家を愛し、絶滅危惧種と言われるワンクラブマンの道を歩み続けている。彼ほどの能力があれば、もっといい条件のクラブにだって行けるだろうし、適応も容易だろう。
我が家がどこなのか分かっている選手が少なくなった昨今ではあるが、彼は分かっている。この愛を、他のクラブのお前たちは分かるまいと、コケは毎試合体現する。
その愛を、多くのロヒブランコスが分かっている。