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舞台「メイジ・ザ・キャッツアイ」感想

 毎年のことながら2月は短い。気が付いたら3月。そして、大抵忙殺されていてあんまり記憶がない。春になって振り返ると「なんかすごい忙しかったかもしれない」みたいな感じになる。鮮明に覚えておくにはストレスが多いんでしょうね、2月。忘れることも大事です。どうせ来年また思い出すし。
 
 そんな感じでもう3月だけど、この1ヶ月くらいはメイジ・ザ・キャッツアイを定期的に観に行っていた。染谷さんのお芝居観てみよう企画もあと2ヶ月くらいで2年になるみたい。流石に2年続けると慣れて来たなって思う。わたしは何かを素直に楽しみにすることが得意じゃ無いし、ものすごいモチベーション高くチケット取ることって実はあんまりなくて、その場のテンションでチケットを得たので一旦観ますね的な作品が多いけど、染谷さんのお芝居に関してはどんな気持ちで取ったチケットでも観劇の日が近付いてくると「また知らないお芝居を観られるの楽しみだな」って思える、少し特殊な存在です。
 あと、染谷さんのお芝居は観た後にこうやって作品についての感想というか、何か言葉を残したくなる。貰った分書けるというか。貰える情報量がやたらめったら多い俳優。あくまでわたしにとってではあるけど。これは俳優の練度にも左右されるし、客と俳優の間に相性がある話だと個人的には思っているんだけど、数多の俳優の中で「目線や指先でどんなことを表現しているか」が他の俳優よりもずっと興味深く、理解したいと思える、あるいは「分かる」と思って観ることが出来る役者っているな~って思う。上手い下手もあるし、表現の方向性にも寄りそう。これはわたしにとっては突出してそれを感じるのは染谷さんだけど、誰かにとっては別の俳優で、また別の誰かにとってはその人の推しかもしれないし、そうじゃないかもしれない。推しとかそうじゃないとかじゃなく、思考や表現の作り方の波長なんだろうなと思います。もちろん推してる人だから分かりたい、分かるって人もいっぱいいるだろうし。観る芝居の好みとかもあると思う。

 とんでもなく話が逸れたけど、メイジ・ザ・キャッツアイは、超シュールコメディだった。それこそ年末に帝劇でやっていたルパンが全国行脚して先月長野で大千秋楽を迎えていたけど、あれを明治座ナイズドしたらこうなりました、みたいな感じがある。
 そもそも「悪行が目的ではない泥棒」が主役っていうテーマが似ていて、そうそうたるキャストが名を連ね、出てくるキャラもそこはかとなく知名度があり(ルパンにはホームズが居たし、キャッツアイには鼠小僧が居ました)、お祭りのように派手な演出と会場の装置と選りすぐりの人員を使い、今の日本の演劇が「痛快なもの」を作ろうとすると全部こうなるのかも、と思わされる程度には観劇中の体感が近かった。古川雄太も藤原紀香もゴンドラで飛ぶと思わないじゃん。飛んでた。明治座ってゴンドラ飛ばせるんだ、というはじめての体験でした。
 日本人は勧善懲悪よりも、最後はみんなに未来がある話がたぶん好きで、だからルパンもキャッツアイもそれぞれ登場人物の物語の先が見える終わり方をして、でも悪っぽい物はみんな成敗されもう不安はない、という本当にあまりにも「THE大団円」の形をしている2つの物語。ミュージカルかストプレ(歌っていたけど…)かの違いだったな。ものすごくざっくり括るとだけど。一応書いておきますがストーリーも登場人物も全く違います。戦隊物とプリキュアって似てるよね、くらいのテンションだと思って下さい。ただ、それぞれの老舗の代表みたいな顔で梅芸と明治座が出してきたのがこれらだったため、2作品が近しい雰囲気をしていることは興味深かったです。脚本家や演出家、もっと言えば客の年齢層や価値観なんかにも左右されていそうではある。ルパンもキャッツアイもZ世代にこの話は作れないと思う……作らないと思うし……そもそもZ世代はたぶんキャッツアイ知らんよね。わたしも主題歌くらいしか知らないよ。

 岩崎う大さんの脚本は2年前に「スルメが丘は花の匂い」で見たことがあったので、テレビドラマでよく見るようなベテランの俳優陣があの独特なテンポのコメディをするのは、それだけでパワーがあった。スルメの主演は吉岡里帆さんでしたが若手には若手の、ベテランにはベテランの良さがある。わたしはコメディは自分から選んで観るジャンルじゃないけど、コメディ劇って何が起きても面白くなれるから良い。こういう時、作家買いみたいに、脚本家買いとか演出家買いとかしたら、面白いんだろうなと思う。
 演出はかなり派手。というよりも、150周年記念事業の一環と言うこともあるのか、明治座という劇場のポテンシャルを全部使ったんじゃないかってくらい、次々に色んなものが出てきた。上手に花道があって、メインステージは2階構成を含む4面(3面かな?)のセットが回転盤の上に組まれていて、プロジェクションマッピングがあって、フライングと奈落があって客降りがあって……ってすべてを見せてくれる。勿論殺陣的なものもあり、アクションもある。笑える台詞があり、グッと来る場面となんじゃそりゃのターンが入り乱れているし、歌もラブシーンもある。もうめちゃくちゃ。でも流石に3回観たら、あの不思議なテンションにも慣れる。行く度に思ったのは、客がどんどん慣れて盛り上げに加担するようになって新しいシーンになっていくのがおもしろいなってこと。コメディだからこそというか、客席に紛れ込んでいる多ステの人や演劇玄人、あとたぶんスタッフさんが「ここだ!」ってところで先陣を切って拍手をしたりしている。最初の頃はシュールすぎてみんなが呆気に取られていたシーンも、そのシュールを笑って良いシーンにどんどん生まれ変わった。30公演以上ある演劇の醍醐味みたいなものにも感じられてその変化はすごく興味深かった。今回の座組の人たちはみんな「お客様のパワーが本当にありがたくて」みたいな話をしょっちゅうしていたけど、客席でも感じるくらい一体感というか、客も舞台装置の1つみたいで演劇って面白い。別に指示された訳じゃないのに「ここ、拍手しといた方が盛り上がるよね」みたいな共通言語が無言で交わされてる感じ、なんだろうね。不思議だ。

 あと、演劇っておもしろいなって思ったのは、キャッツアイってそもそも原作だと泪姉、瞳ちゃん、愛ちゃん含めてたぶん20代~30代くらいの登場人物だと思うんだけど、今回キャストの平均年齢がかなり高かったと思う。特に瞳ちゃん(藤原紀香さん/52歳)と俊夫(染谷俊之さん/36歳)が手も繋いだことない、今時の中学生より断然遅れていそうなぴゅあっぴゅあの交際をしているシーンが、最初正直「これビジュアルと内容の解離がすごくてちょっとキツいな…」って過ってしまった。でも、例えば女性しか居ない宝塚歌劇団や、女性キャスト縛り演劇みたいな感じで「そういう演劇です」って思い込むとそれはそれで結構面白いというか、よくよく考えたら35歳が高校生の役をやっている演劇だってあるわけで、2回目からはこの演劇はこういうものなんだなーって楽しく観ることが出来ました。アニメや漫画のキャッツアイの2.5だと思うと全然気持ちが付いていけないんだけど、これはこれとして納得したらちゃんと楽しい。原作通りの若い俳優で観てみたい気もするけど、若かったら取っ掛かりがなくてつまらないかもしれない。高島礼子さんが発する「年功序列よ!(バーン)」が世界一面白いじゃんね。藤原紀香さんがあのグラマラスボディに地味めのワンピース着ているのが初っぽくて良いというか。これは性癖に関わる部分な気もしますけども。
 高島礼子さんと言えば、泪姉は本当に可愛くて無邪気だった。色気があって大人の品があって、そしてちょっとずれててめちゃめちゃ可愛い。藤原紀香さんにも剛力彩芽さんにも言えることだけど、今後の人生でこの人をこんなに可愛いという感情で見守る日々は来ないかもしれないって毎公演中考えてた。生で見る機会が無さすぎる。でもとにかく高島さんが可愛くて日に日に好きになった。外側の情報をさらうタイプだからつい年齢のこととか言ってしまうけど、年齢や性別問わずキャストはみんな可愛い感じで、平和なのもよかった。心打たれる凄まじいお芝居って感じじゃないけど、家族みんなで楽しく見られるあったかい物語。
 脚本はびっくり展開が何回かあったけど、セットも照明も音効も奇をてらったものがなくて割と観やすかったな。演出面で言えばやや保守的というか、堅実と言えるかもしれない。わくわくするものが沢山ある中で、大外しすることはないというイメージ。演出の河原雅彦さんは調べたら「ピカ☆ンチ」シリーズとかをやっていた人だったので、ははーんとなった。脚本も演出もそっち方面の人だったのか。どうりでクスッとした笑いに溢れていたわけです。

 明治座という場所柄か、出演者の層の厚さの影響か、普段行っている作品とは客層が全然違っていて、結構年上の御夫婦が沢山いるのもよかったな。1人で観るのも友達と観るのも楽しいけど、夫婦で観劇するってなんか素敵だなって思った。どちらが誘ったか分からないし、お互いが好きなのかもしれないけど、夫婦で同じものを観に行くっていいな。物語の中にも外にも色んな人生があるなぁって感じた1つの理由でもあった気がする。色んな笑い声が響いて、お祭りみたいだったね。ちょっと独特の雰囲気あったけど、本来はあれが普通で、いつもの観客が女性ばっかりなのが独特なのかもしれません。井の中の蛙大海を知らず……。

 そして染谷さんという役者は演じ分けが華麗だなと今回改めて思いましたね。求められている芝居の温度に適応するのが上手すぎる。シリアスな展開でも、これがコメディであることを忘れさせないというか。もっと小さな芝居が出来る人なのにすべてが大振りで声を張って俊夫という役を演じつつ、スポットが外れた瞬間に細かい芝居をめちゃめちゃ入れてきて、相変わらず観てて飽きない役者だなぁと感心した。何回観ても俊夫は新鮮に瞳ちゃんに恋をして、プロポーズしようとかキャッツを捕まえようとかジタバタしていて、可愛かった。俊夫という不甲斐ない男に客席が「しっかりしろよ…!」って空気を醸し出すあの感じ、まさに生物。それは初日よりもずっと後の公演になればなるほど肌で感じました。

 上手くまとまらなくなってきたけど、お祭り騒ぎで豪華でめちゃくちゃのハッピーコメディ、全34公演。本当にお疲れさまでした。演劇って本当になんでもありで愉快だなと思える作品に出会えてうれしかったです。ありがとう、またいつか。

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