演劇女子部「眠れる森のビヨ」考察①
4/16(金)〜25(日)までこくみん共済coopホール(全労済ホール)で上演中のBEYOOOOONDS主演舞台、演劇女子部「眠れる森のビヨ」(通称森ビヨ)を観劇しました。
物語の中心となる役を最愛の推しが演じることが発表されていたため、事前に複数枚チケットを取っていました。しかし初日公演観劇後、あまりにも衝撃を受けた私は帰りに2公演分のチケットを追加で購入していました。
この舞台は、観たら必ずなんらかの考察を述べたくなる作品だと思います。私も例に漏れず、3回目の観劇を終えたところで頭がグルグルになり、一旦自分の考えを整理しておこうと思い、閲覧用にアカウントを取得していたnoteに初めて投稿してみました。
前置きが長くてすみません。
以下はネタバレしかありませんので、森ビヨを観ていない方は絶対に読まないでください。
また、本当に個人的な解釈をまとめただけなので、皆さんの解釈とは大幅にズレている可能性があります。「ふーん」くらいの感じで読んでいただけるとありがたいです。
セリフ聞き間違い、作中の出来事の認識違い、ここはこうでは?といったご意見などがあれば、コメントでもDMでもいいので教えてください。
では、書きます。
(ところどころ想像上のことを断定的に書いてしまっている部分もありますが、あくまで私の個人的考察内での話ですので悪しからず・・・。)
■この考察内での用語解説
青ヒマリ:ヒカルの夢の中の世界に登場するヒマリ(ヒカルと同学年の青い制服を着ている)
赤ヒマリ:ラストシーンでベンチに座るヒマリ(ヒカルの5学年下の赤い制服を着ている)
現実世界:ヒカル以外の演劇部員は5年前に死亡し、赤ヒマリと車椅子に乗ったヒカルが存在する世界
夢世界:ヒカルが見ている夢。ヒカルは高校生、演劇部員たちが生きている世界
細かく考察したい点はたくさんあるのですが、一気にまとめられる自信がないので、今回は下記の1点だけを掘り下げたいと思います。
Q. ヒカルの夢の中に現れた青ヒマリとは何者だったのか?
これです。結論から書くと、私は下記のように考えています。
A. 青ヒマリとは、赤ヒマリがヒカルの夢世界に介入した存在ではないか。
それでは、考察です。
考察①青ヒマリの出現
この物語は、全国大会を目指す崋山高校演劇部で、次の演目を決める話し合いが行われる日の朝のシーンから始まる。
一度観た方はご存じのとおりこれはヒカルが見ている夢の中のシーンであり、現実世界の時間軸から数えると5年前の出来事である。このあと起きたバス事故で演劇部はヒカルを除き全員死亡し、ヒカルはそれからずっと病院の小さな個室で1人眠り続けている。
バス事故発生から5年もの間、ヒカルは夢の中で「演目決めの初日からブロック大会へ向かうバスが事故に遭う直前まで」の幸せな日々を何度も何度も繰り返していたのではないか、と推測する。
「もういい加減、起きたら?」
脚本を書きながら眠ってしまったヒカルに青ヒマリが声をかける。
青ヒマリは、眠り続けるヒカルを「起こす」ために夢世界にやってきた存在なのである。
「私はね、ヒカル。『願い』なの」
現実世界を生きる赤ヒマリは、ヒカルが目を覚ますことを願い続けていた。そして事故から5年が経過し事故当時のヒカルと同学年になったとき、その強い願いは「青ヒマリ」として具現化し、ヒカルの夢世界へ介入できる存在となったのではないか。
つまり、「眠れる森のビヨ」の物語は、ヒカルが夢の中で何度も何度も繰り返していた夢世界ループのたまたま1回にヒマリが「青ヒマリ」として介入したことにより起きた物語なのではないだろうか。
そして、青ヒマリが夢世界に介入することにより、平和で幸せな夢世界に歪みが生じ始める。
考察②夢世界の歪み
ヒカルは夢世界で「演目決めの初日からブロック大会へ向かうバスが事故に遭う直前まで」をループし続けていた。
そこに青ヒマリが現れ、夢世界が少しずつ歪んでいく。
■ヒカルの意識の歪み
「眠れる森のビヨ」は、ヒカルの次の台詞から始まる。
「僕が今日見た夢はこうだ」
そこから続く夢の内容は下記のとおり。
・演劇部員たちが倒れて動かない
・自分の身体も満足に動せず、意識が薄れる
・幼なじみのヒマリが悲しそうな顔で自分を見つめている
これはつまり現実世界で起きた事象(バス事故、病室で眠り続けるヒカルを見つめる赤ヒマリ)であり、夢世界のヒカルは無意識下(潜在意識)で現実世界の存在を認識し始めたと考えられる。冒頭からずっと鳴っている病院の電子音も、現実世界との境界が曖昧になっていることの象徴ととれる。
ここから、車のクラクションや激しい衝突音、救助ヘリの音など、現実世界での事故当時の出来事がフラッシュバックするようになる。
現実世界での出来事がフラッシュバックするようになったヒカルは、危機が迫る中眠っているヒマリを起こそうと必死に叫ぶ夢を見る。これは、青ヒマリによる夢世界への介入により、ヒカルの意識内に混乱が生じ、現実世界と立場が入れ替わった夢を見たのではないかと考えられる。
「で?結局私は起きたの?」
「いや、そのまま寝てた」
「ふーん。私、寝てたんだ・・・」
このときの青ヒマリの返答には少し含みがあり、寂しそうにも感じられた。ヒカルが夢で見たヒマリが起きなかったということはつまり、このままでは立場が逆の場合にヒカルが起きないことを示唆しているからかもしれない。
また、同級生という現実世界とは異なる関係性で夢世界に登場した青ヒマリと言葉を交わすようになり、ヒカルは夢世界の住人である演劇部員たちから不審な目で見られるようになっていった。
「大丈夫。ちょっと言い合いになっただけ」
「誰と?」
「ヒマリだよ。幼なじみで同級生の」
「ヒマリなんて名前の子、うちの学年にはいないけど・・・」
■ツムギの存在の歪み
「これは・・・夢?」
「夢だ、悪い夢に決まってる!」
「そうか・・・夢なら、じゃあよかった・・・」
演劇部の乗ったバスが事故に遭いヒカルが長い眠りに落ちる直前、最後に言葉を交わしたのはツムギであり、ヒカルが最期の瞬間を目撃したのもツムギのみ。つまり、「ツムギが生きていること」は夢世界の象徴的事象である。
夢世界の象徴的存在であるツムギは青ヒマリの介入をいち早く察知し、青ヒマリを排除しようとする。
ただの男子高校生であるはずのツムギが異分子(青ヒマリ)を排除するためになんらかの能力(劇中劇で王子に使った相手の心臓を凍らせる魔法に似ている)を使うところにも、夢世界の歪みが表れている。
また、その4日前に衣装やセットを破壊したのも、作中でヒカルが指摘していたとおり、ツムギが異分子(青ヒマリ)の存在に気づき、演劇部とヒカルの結びつきを強め、夢世界に留まらせるために起こした歪みのひとつと考えられる。
■演劇部員たちの歪み
夢世界でヒカルと共に幸せな日々を過ごしていた演劇部員たち。ブロック大会へ向かうバスの中でヒカルがツムギに対し真実に触れる発言をした瞬間、表情が一変した。
ここまで異分子(青ヒマリ)に気づいているのは、夢世界の象徴的存在であるツムギだけのように見えた。ヒカルの真実に近づく発言により、ツムギの心情が全員にシンクロしたのだろうか。
仲間だった演劇部員たちが突如として恐ろしい存在に豹変したように見えたのは、自分の遅刻が原因でバス事故が起きたことを知ったヒカルの罪の意識から生じた歪みではないかと考えられる。
考察③分岐点
ヒカルは、最終的に夢世界での「演目決めの初日からブロック大会へ向かうバスが事故に遭う直前まで」のループを断ち切り、赤ヒマリの待つ現実世界に戻る(目を覚ます)選択をした。
分岐点はここだろう。
「事故があったの覚えてない!?」
ヒマリのこの台詞をきっかけに、ヒカルの記憶が呼び覚まされ、そこに分岐が存在する。
分岐1:「もう僕の前に現れないで」
分岐2:「なにが真実かは僕が判断する」
ヒカルは一度分岐1を選び、最後の説得に現れたヒマリを振り切って迎えに来たツムギと共に遅刻せず学校に到着した。
「8時ちょうど。間に合ったな」
「え?」
ヒカルは、自分が集合時間に間に合わなかったことを認識していた。無意識に現実世界で実際に起きた事象との分岐を感じ取っており、事実とは異なる展開に違和感を覚えている。
「行かないで!ヒカル!」
頭の中でヒマリの声が響く。
ヒカルは乗り込んだバスの中で、現実世界で5年前に起きた事実と異なる事象、つまり夢世界の歪みについてツムギに問う。
「ツムギはどうして舞台セットを壊したの•••?」
この時点で今自分がいる世界が現実ではないことを感覚的に理解し始めていることが分かるが、その後、事故当時の記憶がはっきりと蘇る。
ヒカルは真実と向き合うため、今度は分岐2を選択する。
そして、青ヒマリから、ブロック大会に向かうバスが崖から転落し、自分以外の全員が死亡したこと、自分はそれから5年間眠り続けていること、その間ヒマリは自分が目覚めるのを待ち続けていることを告げられる。
「あとは、あなたが決めて。
あなたが選んだ方が、真実。」
そう言って、青ヒマリは姿を消した。
考察④ヒカルの選択
真実を知ったヒカルは、青ヒマリを追って現実世界に戻ろうとする。
すると、ツムギたち演劇部員たちに呼び止められる。演劇部員たちは、涙を流しながらヒカルに呼びかける。
「ヒカル、仲間だったじゃんか•••」
「手を取らなかったら、死んでしまった私たちにはもう会えないんだよ?」
夢世界でしか生きられない演劇部員たちを前に、決意が揺らぎ苦しむヒカル。
「真実の話をしたいわけじゃないんだ僕たちは。
ヒカルにとってなにが幸せなのかを知りたいだけなんだ」
決断の瞬間、ヒカルの側にヒマリが現れる。
それはこれまで夢世界に登場していた青ヒマリではなく、現実世界の赤ヒマリだった。
そして、ヒカルは現実世界へ戻ることを選択した。
考察⑤青ヒマリの正体
冒頭で述べたようにこの考察は「青ヒマリとは、赤ヒマリがヒカルの夢世界に介入した存在である」という方向性で展開してきたが、「青ヒマリはどのように生まれたのか」という疑問が残る。
ラストシーン、ベンチに座る赤ヒマリの元に車椅子姿のヒカルがやってきて、2人はヒカルが見ていた長い夢について話す。
「私がヒカルの夢の中に出てきたって話」
「本当だよ。夢の中でずっと僕を応援してくれてた。しかも、その制服姿で」
「それがすごいよね!夢の中では同級生だったなんて」
「私もその夢の中に行ってみたかったな」
この赤ヒマリの反応から、下記の3パターンが考えられる。
①赤ヒマリはただ願い続けていて、その願いが赤ヒマリの認知外で青ヒマリとなり夢世界に介入しており、赤ヒマリは青ヒマリの存在は認識していない。
②赤ヒマリは意識的に介入していたが、ヒカルに気づかれないよう知らないフリをしている。
③青ヒマリは赤ヒマリの願いに呼応してヒカルが無意識下で作り出した存在で、赤ヒマリの認知外の存在。
これを自分の中で結論づけるため、作中に登場するヒマリの自我について考えてみる。
考察⑥ヒマリの自我
「眠れる森のビヨ」は、終始ヒカル視点で語られる物語である。ヒカルが見たもの、思ったこと、体験したこと、ヒカルが会った人との会話が展開される。
ただし、唯一の例外がヒマリで、ヒマリの登場シーンではヒカルの登場しない場面も存在する。そこではヒマリのモノローグが入ることから、神視点に切り替わっているわけでもなくヒマリ視点のシーンであることが分かる。
夢世界で起きる出来事はすべてヒカルが中心のはずなのに、ヒカルが知らない出来事が起きている。
つまり、ヒマリはヒカルの物語に意識的に介入しているのでは?と考えられる。
「余計なことをしてしまったな、とすぐに後悔した」
ヒカルたち演劇部が全国大会に行けない結末を知っているにも関わらず、ついヒカルを励ましてしまう場面。
「邪魔だな」
ヒカルを迎えに来たツムギに存在を認識されていることが分かる場面。
こういった点からも、青ヒマリには自我があり、自分の使命(ヒカルを現実世界に呼び戻す)を認識して行動しているのではないかと考えられる。
考察⑦目を覚ましたヒカル
現実世界で目を覚ましたヒカルは、病院でリハビリに励んでいる。目覚めてからどのくらい時間が経過したかは定かではないが、再び歩けるようになるために努力していることから、現実世界で前を向いて生きていると分かる。
崋山高校で演劇部に入っている赤ヒマリは、次の舞台で主役を演じるという。
「ヒカル、また明日ね!」
「うん。また明日」
2人は言葉を交わし、手を振り別れる。
1人になったヒカルは静かに歌い始める。
冒頭にも歌われた曲だが、この曲には続きがある。
僕は今生きてる、ひとり、君らの分も•••
そして、ヒカルの独白。
「僕が今日見た夢はこうだ」
これも冒頭に登場した台詞だが、夢の内容が冒頭と反転している。演劇部で過ごした青春の日々。夢世界のことを夢に見ていることから、今ヒカルが存在する世界が現実世界であることが分かる。
現実世界のヒカルは今も、演劇部員たちの夢を見る。ただ、今度はそれが夢だと知っていて、いつか覚めることも知っている。自分だけが現実世界に生きていることを認識しながら、演劇部と過ごした青春の日々の夢を見る。「また明日」と言って別れたヒマリに次に会うまでの間にも、またあの夢を見るのだろう。
ヒマリの「また明日」という言葉は、ブロック大会に向けて出発する前日に演劇部員たちが歌った曲と対比構造になっている。
永遠になればいいな
夜が明けなきゃいいな
「ヒカル、また明日ね!」
この言葉には、今晩またあの頃の夢を見たとしても、夜が明けて夢から目覚め、共に「明日」を迎えたいというヒマリの願いが込められている。
これが、今も夢を見続けているヒカルを現実世界に繋ぎ止める鍵になっているのかもしれない。
生きていれば、いつかは夢から覚める。夢の世界は永遠には続かない。
考察⑧ラストシーン
車椅子からふわりと立ち上がったヒカルを当時の演劇部メンバーと現在のヒマリが囲み全員で歌うラストシーンは、まさにヒカルの願いなのだろう。叶うことのない願い。
ヒカルを取り囲むヒマリと演劇部員たちは綺麗な舞台衣装を着ていて、ヒカルに微笑みかける。
夢の中で続く どこまでも
このラストシーンからは、ヒカルの意識が今も夢世界へ向いているようにも思え、もしもヒカル自身が望めば、いつでも再び落ちてしまうような危うさを孕んでいる。
ヒカルが目を覚ましたのはヒカル自身の選択によるものだが、そこにはヒマリの願いによる導きがあった。ヒマリの願いは成就し、現実世界で目を覚ましたヒカルは演劇部員たちの分も生きることを決意した。
夢の中で続く どこまでも
何度も繰り返されるフレーズ。
ユラユラと揺れるラストシーンを見て、もしかするとヒカルは未だに夢世界にとらわれたままなのでは、と思ったその時、「眠れる森のビヨ」は幕を閉じた。