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オニクマムシ物語(2)
$${\textit{Milnesium tardigradum}}$$ Doyère, 1840
動物の種の学名(種名)は、属名+種小名の2語名で書かれ、その後に著者(命名者),発表年が続く。種名は地の文とは書体を変える決まりがあるので、通常は斜体で書かれる(地の文が斜体で種名が正立体ということもあり得る)。
オニクマムシが初めて記載されたのは、1840年で著者はドワイエールDoyère。パリの科学アカデミーで9月14日に発表され、自然科学年報で論文として公開された。論文のタイトル下には発表日が9月4日となっているが、これは間違いで、正しくは9月14日である。科学アカデミーでは毎週月曜日に例会があり、翌週に発行される週報Comptes Rendus Hebdomadaires des Séances de l'Académie des Sciencesにはクマムシに関する記述は見当たらないが、例会直後の木曜日、9月17日付の新聞L'Institut誌上で、14日の例会でクマムシ論文が発表されたことが報道されている。
この論文は本文が93ページに図版が8枚付いた大作である。第1章はクマムシ研究史の非常に詳しい概説。第2章で3つの属、$${\textit{Emydium}}$$、$${\textit{Milnesium}}$$、$${\textit{Macrobiotus}}$$について記載した。
$${\textit{Emydium}}$$はトゲクマムシの仲間で、$${\textit{Emydium testudo}}$$, $${\textit{E. spinulosum}}$$, $${\textit{E. granulatum}}$$の3新種が記載された。しかし、この属の特徴を持つクマムシとしてすでに$${\textit{Echiniscus bellermanni}}$$ Schultze, 1840という種が記載されていたので、上記最初の種は$${\textit{Echiniscus testudo}}$$ (Doyère, 1840)と書かれることになる。原記載から後に属名が変更された場合には、命名者名と発表年は括弧に入れることになっている。
オニクマムシの属名は、ドワイエールが尊敬するミルヌ=エドワールMilne Edwardsに捧げられる形で命名され、種小名の$${\textit{tardigradum}}$$は、前世紀にイタリアのスパランツァーニが研究した "Tardigrado" からとられた。これと同種だと考えたのである。『緩歩動物』という名称はスパランツァーニが命名者ということになる。
論文の第3章では(誤植でChapitre II となっているが)極めて詳細な解剖学的記載と生殖法・発生に関する記述が続く。この研究成果が土台となり、続報としての分類・系統に関する章と、蘇生に関する章が予告されている。これらの集大成として1842年の博士論文が完成することになる。
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