オートマタ(からくり時計)~スイス時計のお家芸~
オートマタとは、ギリシャ語で自動機械(特に自動人形)を主に意味し、時計業界ではからくり時計や仕掛けについて、このように呼びます。
オートマタ(からくり時計)について紐解いて行きます。
日本では、東京・有楽町マリオンの壁面に設置されているからくり時計(通称マリオン・クロック)がコンピュータ制御による街頭大型からくり時計の草分け的存在であり、さらには現存する最古のものでもあります。
日本初の屋外型大型からくり時計として、オープン時の1984年より多くの人々の待ち合わせ場所として利用される人気スポットです。
ファンファーレとともに時計の後ろから、かわいい人形たちが毎時現れ、金管を叩いて時を告げ、演奏が終わるとこちら側にお辞儀をして引っ込んでいく楽しい時計です。
この時計がきっかけとなり、当時日本全国にからくり時計ブームが巻き起こりました。
●中国がスイスをオートマタ大国にした?
オートマタは、今ではスイスのお家芸ですが、18世紀ごろはイギリスやフランスに遅れをとっていました。そのような状況から、中国の当時の皇帝等がからくり時計を好んでいたこともあり、スイスは中国に市場を求めました。その結果、スイスは技術を発展させていったのです。
18世紀のスイスの時計師たちが到達した技術は、文章を書く「文筆家」と絵を描く「画家」の機構は体内に収納し、「音楽家」の指の動きなどもダミーではなく実際に小型オルガンの鍵盤を押して曲を演奏するという‘3体の自動人形’に尽きます。いずれもすべての動作はディスクなどに記憶され、これを交換することで書く文章や描く絵、そして曲も変えることができました。
現代でいうと、ロボットに近いこのトリオは、その時代の自動人形の技術をはるかに超えており、人造人間とも讃えられました。
そして各地を巡業し、ルイ16世やマリー・アントワネットにも実演を披露しています。
●時計、オートマタ、オルゴールは三位一体
自動人形のどこに機械式時計の技術が活かされていたかというと、フュージなどゼンマイのトルク変動を補正する定力機構、そして時報に使う数取車が起源の作動カム。
「音楽家」が一定のテンポで演奏できるのは定力機構のおかげです。また、「文筆家」と「画家」が文字や絵を描けるのは、回転する作動ガムの曲線をレバーがなぞって腕に動きを伝えているのです。
この技術は、スイスのもうひとつのお家芸である、オルゴールにも活かされています。
機械式時計とオートマタとオルゴールは、それぞれの技術をフィードバックしながら進化してきたのです。
●腕時計のオートマタは3タイプ
上記のようなスイスの伝統技術は現在の腕時計にどのように活かされているのでしょうか。
オートマタ機構を腕時計に搭載する場合の最大の課題は動力となり、可動部品の数と大きさは動力の消費に直結し、主ゼンマイを使用すれば時計自体のパワーリザーブが犠牲になります。
この為、腕時計に見られるオートマタは主ゼンマイを使わず、①名前に反して手動、②ボタンを押してオートマタ専用のゼンマイ、③リピーター用の動力バネと連動、のいずれかで作動となります。
1.手動
語義に反しますが、手動タイプもオートマタと呼ばれます。
ヨーロッパの時計業界では、シースルーバックに裸の男女が隠されており、リューズを手巻きするたびにその力を利用して「愛の時間」を営ませるなどという、今ではセクハラのような仕掛けが実は懐中時計時代から搭載され続けてきた伝統的な形でした。退廃的で恋愛至上主義のロココ文化と共に機械式時計の技術も燗熟した18世紀のフランスでは‘エスプリの効いた洒脱な時計’として王侯貴族の間で流行っていました。
リピーター連動型の豪華なエロティック・オートマタを限定販売することが、ブランドの格と技術を誇示する伝統芸なのです。
2.ボタン
近年増えているのは、ボタンを押す力でゼンマイを巻き上げるタイプや、あらかじめ巻き上げておいたゼンマイをボタンで開放するタイプなど、ボタンを押して起動するオートマタです。
また、スイス時計のお家芸でもある、ゼンマイでふいごを動かして笛を鳴らして鳥のオートマタを囀らせるという繊細なものもあります。
3.バネ
リピーター用の動力バネと連動タイプは、最も伝統的にして二重に複雑な機構な為、技術力を誇るブランドは定期的にこのタイプのオートマタを発表しています。よって、複雑なミニッツリピーターやソヌリが搭載されており、価格も高くなっています。
●オートマタの神髄は生きているように見えること
腕時計のオートマタには、鳥などのモチーフが多く使用されていますが、機構と彩色の美しさが相まって、鳥のいる情景までもが伝わってきます。
腕時計に収まるほどの小型化した技術もさることながら、動物などが‘生きているように見える’ということが神髄なのではないでしょうか。