複雑機構なくして、スイス時計産業の復興はなかった?
‘時間を知る’基本機能のほかに機能を持つ時計を複雑時計(コンプリケーション・ウォッチ)と言いますが、その時計に付加された機構を複雑機構(コンプリケーション)と呼びます。
宝飾も使用していないのに、機械のみで数千万円する場合もある時計が紛れもない複雑時計なのです。
クォーツ式時計は回路で機能を増やせるので、現在では多機能があたりまえになっていますが、機械式時計はいまだに機能が一つ増えても有難がられ、値段も高くなります。それは製作に手間がかかるからというのはもちろんですが、精密な部品が噛み合い、複雑な動作を見て触れて振動を体感できることが醍醐味だからなのです。
また機械式時計は‘時を測る制度’を高めるよりも以前から、複雑化を追求しており、機械式時計にとって複雑機構は追加された機能ではなく、むしろ精度より先んじた基本機能でした。クォーツ式に精度面で敗れても、複雑機構の魅力を武器にクォーツショックと言われた時期からも復活することができたのです。
そこで、今回は複雑時計にとって代表的な追加機構についてご紹介してきます。
●時間を「書き記す」 ~クロノグラフ~
時刻表示に加え、時間の経過が測れるのがストップウォッチ機能を持つ「クロノグラフ」機能です。
時間を測る時計になぜ‘書き記す’を意味する「クロノグラフ(時間の書記)」なのかというと、元々は実際に書き記していたからです。フランス国王ルイ18世ご用達の時計師が、競馬の時間記録用に、ボタンを押すとインクを含んだ針が回転する文字盤に触れて経過時間の印を示す置時計を開発し、これを特許申請したところ審査員達にクロノグラフと呼ばれたことが語源のようです。
一般的には「60秒計」「30分計」「12時間計」の積算計が配置されており、リューズの上にあるプッシュボタンでスタート&ストップ時に押し、その目盛りから「◯時◯分◯秒」と計測できます。
また、下記のようにクロノグラフには機能や目盛りが異なる種類があり、各分野で使用されます。
・フライバック
フライバックは、計測中でもリセットボタンを押すことができ、リセットボタンを押すと瞬時に針がゼロに戻り、計測を再開することができます。
連続計測が可能になりパイロットウォッチとして活躍、またレース中のラップタイムを計る場合などに便利です。
・タキメーター
ベゼルや文字盤に刻まれた目盛りによって、平均時速を瞬時に計測できる機能。
例えば歩く速度を計測したい場合は、クロノグラフの針をゼロの位置に設定→スタート→決めた地点に達したら再度プッシュボタンを押してストップし、針が指すタキメーターの目盛りの数字が時速となります。
機能的には日常であまり登場する機会は少なそうですが、そのスポーティーなデザインが男性人気を得られています。
・パルスメーター
医療向けとして、心拍数を測る機能。
クロノグラフのスタートに合わせて脈を測り始め、基準回数の脈拍数に達したらストップ。
そのときに指している数字が、1分間あたりの脈拍数になります。
・テレメーター
光と音の速度差により、音の発生した場所の距離を測定する機能。
例えば、雷が発生→光が見えた瞬間にクロノグラフをスタート→雷の音が聞こえたらストップ。
針が指している目盛りの値から、自分がいる場所と雷が発生している場所との距離を知ることができるのです。
クォーツ式やデジタル機器、スマートフォンなどが昨今広く普及していますが、機械式クロノグラフの換算スケールは誰もが楽しめるギミックへと役割が変化しているのではないでしょうか。
●日送り無用 ~永久カレンダー~
時計の‘カレンダー’とは月・週・曜日・日付の経過を示す機能。
永久カレンダー(パーペチュアルカレンダー)は、基本的には手動で調整する必要がないカレンダーであり、またミニッツリピーター、トゥールビヨンと並ぶ製作が最も困難とされる機構のひとつです。
通常、腕時計の日付表示は31日で構成されており、30日や閏年の月は手動で日付を修正しなくてはなりませんが、永久カレンダーは手動修正が不要な便利な機能です。(100年に1度の手動調整は必要)
そのため、「永久」、「永遠に」を意味するパーペチュアルの名称が付けられています。
普通のカレンダー機構は1か月を31日としており、月の終わりには手動で日送りをしなければなりませんが、この日送りが故障の原因になることもしばしばあるのです。
カレンダー機構を持つ腕時計の多くは、時分針を1日部回さなくても日送りができるようにリューズを1段~2段引き出した状態で時刻送り→日送りに変わる日修正機構をもっていますが、日送り車とは別の歯車で日車を回すタイプは、日送り爪がすでに日車に噛んでいる状態で無理な回転になることがあり、そのまま動かすと歯が欠けてしまい、修理や部品交換になってしまいます。
このため、カレンダー機構を持つ時計の取扱説明書には、日送り爪が日車に噛んで手動修正が危険な状態になる時間が明記されています。
その時計により異なりますが、一般的には表示時刻の夜20時~早朝4時までの間は日送りしないほうがよいとされています。
永久カレンダーは、常に腕時計を稼働させていれば閏年も関係なく自動で日付の調整を行ってくれる仕組みで、複雑な構造のため、ブランドの最上位モデルに採用される場合が多いです。
また、他の代表的な複雑機能としては、18世紀頃に優秀な時計技師たちにより生み出された、ゼンマイを動力として自動で動く「からくり人形((オートマタ)」、そして時計愛好家達が“鳴り物”と呼び、複雑時計でも別格の存在である時計の中に組み込んだゴングをハンマーで叩いて音で時刻を知らせる機能(ミニッツリピーターやソヌリ)については、それぞれ下記の記事を是非ご覧ください。
そして、数ある複雑時計の中でも格の高さで群を抜くのが、天体の運行やそこから読み取れる情報を表示する「天文表示」です。
次回のブログでは、別格といわれる理由などについて記載していきますのでお楽しみに!