プーチンの後継者(一)

プーチンの後継者 第一部《Dirty Balalaika》


これからはもう赤い時代のロシアを取り戻そうなどと思ってはいけない。敵に追いつくには同じ飯を食わねばならぬこともあるのだ。最後の投資を私が引き受ける、お前は私に反逆するのだ。叩かれても斬られても諦めるな。手加減するから。少しだけな。そして私がついに失脚したら、のどが張り裂けんばかりの大声で叫べ、自分はウラジミール・プーチンの最大の敵であったと!
カーゲーベーだった頃に私は痛感したのだ、この国は今だにニコライの亡霊に背中を引っかかれているということに。だが、今こそは除霊の機会である。お前はオーソドクスチャーチとムスリムの助力を得、八端十字と三日月で!私を背後霊に貶めてみせよ!

私は古い知り合いの同志に次のような人物について教えられた。敵と戦うためには味方を鼓舞するには誰かを犠牲にせねばならないと教えた貴族だ。かの同志は白の上級将校だった。そして私達に赤い血を見せたのだ。
お前は忘れるな、よい敵がいなければ戦士の握る剣は荷物でしかないということを。易きに流れぬ人の心はない。黙ってみておれば鋼鉄は鍬や鋤や鍋に変えられてしまう。

私がお前の敵になるのだ。米帝をくだすためのロシアの導火線となるために。マイクもボブも役立たずだった。ドムは最近では私の電話に出ようともしない。もうお前だけが頼りなのだ。これは最後のチャンスだ。私は自分の独り子を犠牲に捧げる覚悟だ、このロシアのために。

もう少しの辛抱だ、好機は数週間以内に来るだろう。スマート電話に夢中になっているタコ頭どもが「青と黄色」に飽きた頃に、ハーシーズをかじっているカウチポテト連中が血糖値を測る頃に、私は導火線に手を付ける。ウクライナの八端とは予め話をつけておけ。あとは早いぞ 。

昨晩は少しクローゼットの連中と会議をしたんだが、思ったより私の人気は衰えていないということが分かった。したがって、お前に引導を渡させるためには、今一つの努力が要るようだ。何となれば私はダーティーのことも考えている、いやハリーじゃない、それは米帝のジョークだ。

一方で情報戦術については計画のとおりに進んでいる。カーゲーべー出身の私を甘く見ないでもらいたいものだな、ちゃんとウクライナのおしゃべりを統制して私を悪者にできているだろう?親ロシア派のシュプレヒコールを抑えるのは大変だったんだがな!

お前が国内にいるうちに済ませて欲しいことがもう一つある、ドムを黙らせることだ。立場上私が止めることはできないから、最大の障害と言っていい、国内にいる敵という意味では米帝よりやっかいだ。これさえクリアできれば、計画はもう私の手の上を出ることはあるまい。

最後に一つ気にかけておかねばならないことがある。笑わずに聞け。アナスタシア問題だ。そう、この間も言ったが、我々は今でもニコライの腐乱死体を背中に積んだままなのだ。何のために白を滅ぼした?貴族制を終わらせるためだ。玉座と星はもう要らぬ。

ツァーリになるなよ。




「ときに君、ダイヤの原石は買い込んでおいたんだろうな?私はウクライナの全所有地を売った金をそっくり回したぞ。まだなら開戦前に買っておけ、妻と娘を質に入れてでも買っておくんだ、何、分かってくれるさ、Diamonds are girls' best friend だろう?」

31/03/2022
「混乱が起こらぬよう今日中に連絡を回せ。ピエルヴォエ・アプレーリャ、我がロシア軍はキエフで戦術核を使用したとの虚報を散布する。これにタイミングを合わせ通常兵器による電撃戦を展開する、勘違いするな、よく聞け、この電撃戦を展開するのはお前だ。相手はロシア軍だ。これで趨勢は決まるだろう。もはやウクライナ軍に挽回の目は無い。互いに1しか出ないサイコロでバックギャモンをすることになる。ストリチナヤの備蓄が多いのはどちらだ?どうだ、腑に落ちたか、もう凱歌が聞こえてくるようではないか。♫カーリヌカ!カリーヌカ!カリーヌカマヤ!サドゥヤーガダ!マリーヌカ!マリーヌカマヤ~♪

05/04/2022
ラマダン期間中には喜捨・施しと日没後の豪華な会食で、小麦や芋ばかりでなく消費が増えるだろう。卑劣な事後法で先日のピエルヴォエ・アプレーリャ電撃作戦は失敗したが、ストリチナヤは我々ロシア軍の手にある。ジェネリックでは勝てぬ。もはやポストコロナではないからだ。
50年前べトナムに学んだはずだ。戦争を終わらせるのは赤でなくオレンジだと。繰り返すがストリチナヤは我々の手にある。今後ウクライナの穀物で作ったヴォトカは飲めぬようにすれば良い。あれをキュラソーの代わりにして Dirty-Balalaika とは洒落ていないか? もちろん本物のオレンジ剤をカクテルに使うわけにはいかぬ、直ちに用意はできるが、急性毒性はLD50もはっきりしていないからな。そこでだ、チャーチルに倣い、クンストカメラの収蔵品目録(非売品)を眺めながらというのはどうだろう。人間の遺体を飾り物に使うというのはローマ時代のアシアではよく行なわれていたと聞く。敵に対する完全な所有すなわち完全な勝利、それが人体それ自体の獲得との思想だ。さらに古い時代には食事によってそれが果たされた。我々も洗練されたというものだ。
しかし無論、我々はそのようにウクライナ人を所有したいのではない。我々が所有したいのは偉大なるストリチナヤとその専売権ではなかったか(社会学)。それがたまたま胎児の破壊という形を取るだけのことよ。
どうした、さほど利潤が出ないからとて、そんな嫌そうな顔をするな。生きている人間を死なせるよりはいいだろう、赤子を殺すのは彼らの自由な決定なのだからな。墓石に唾を吐くのは、人間に唾を吐くよりも罪が軽い。そうだろう?
まあ今だに私は人気者だから、鳴り物入りでお前が政権を取るプランの完遂にはもう一手が要ったということだ。少々気がかりなのは、米帝がエージェント・オレンジを使ったのは誰のせいなのか、ちっとも大衆の記憶に残っていないという点だな……。


第二部に続く


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