【シーズLP】私は何を求め、返されたか(後編)
思っていたほどは劇的じゃなかったですね、というのは最初に言っておかないと嘘になっちゃうので言っておきますが、間違いなく信じてきた甲斐はありました。
上が前回の記事です(以降、「前編」とします)。前後編みたいなの書いたのは初めてだったんですが、これ評価が楽で結構いいですね。
前編を読まれた方は流石にお気づきかと思うのですが、物語の構造以上に大きな興味関心がにちかに寄っているのはまあ事実でして、だからシナリオに求めたものが本当に返されるのかどうかとても怖くて、先に美琴から読んだんですよね。幸か不幸か、結果として記事的にも書きやすい感じになったんじゃないかなとは思います。ということで、美琴LP→にちかLPの順に振り返っていきます。
美琴LPについて
といっても、美琴LPはぶっちゃけ拍子抜けするぐらいシンプルな構造で、語ることもあんまりないです。論点は2つかなと思ってます。
「自然体」の魅力
ひとつめ、まずはこの「自然体」ですね。プロデューサーのオーダーとしては「パフォーマンスに集中するのではなく自然体で」ということなので、単純な二項対立にするとこうなる訳です。
いや、これって美琴が嫌がってた「物語」で売るってことじゃないの?って思うので(一応断っておくと、プロデューサー的にはWING時点で美琴の普段のキャラを見せていくのはそれに該当しないらしいですが)、それと矛盾しないような構造を考えると、
こうなるか、
こうなるんですかね。わかんね~~
仮に図3の解釈が正しいとすれば、「自然体」-「物語」の軸:「物語性」(とでもいいましょうか)はどこにでも宿り得るという結論になるのかな?いや、そもそも「実力」はともかくとして、「物語」って定量的な軸として設定できないのでは?出来るとして、その公正な評価基準とは?俺バカだから分かんねぇのでこの辺でやめておきます。
でもまあ、これは好意的な解釈のもとの類推であって、LP内で物語と能力の関係がきちんと総括されたとみるのはやっぱり苦しいと思います。ほとんどはセヴンスで解決されていて、それはにちかも大筋では同じなんですが、美琴は流石に捻りがなさすぎたかな~。テーマとしてはやっぱ面白いので、またどこかで続きをやってほしいですね。
君は何故踊るのか
まあそれでも、「踊ることは楽しい、だから踊りたい」という根源的な願いに素直になること、そういう魅力を見つけてほしいというのは良かったと思います。これがふたつめ。この自分の願いに素直になることについては、ほとんどポエムのようなものを書いてもいるのですが、美琴LPで改めて取り上げられるとは思ってなかったかもですね。
要するに「セヴン♯ス」でルカのマネージャーが言っていた「なんでアイドルをやっているのか」を拾いきったということなんだと思いますが、これは別に美琴に限った話ではないですよね。人が幸せを希求する上でアイドルであることは別に必須の要件ではないんですよ。「アイドルじゃないと幸せになれない」なんてバカバカしい話はないですからね。
……というところまで言ってくれると大喜びしたんですが(笑)、こうして憑き物が落ちたような笑顔が見られたのは素直によかったですね。記事も書き出しにしていきなり結末みたいなこと言いますけど、やっぱりシーズはもう大丈夫。
にちかLPについて
ここまで見事に外すといっそ気持ちがいいのはいいんだけど、ビビったね。いや、まあ、そりゃGRADでも「生活」は扱ってましたけども、、、
と、冒頭の動揺を回想した所で、前回記事のまとめを見てみましょうか。
結論から言うと我ながら読み筋としては悪くないんじゃなかったんじゃないかな~と思っているので、この流れに沿って振り返ってみます。
シーズはダンスに秀でたユニットとして成長した(確定)
わざわざ(確定)とつけたように、それ自体は特に議論の必要ない事実だとしていた訳ですが、このカードの使い方が上手い!
この案件を打診する中で自然に以降への流れを作りつつ、
信頼できる基準(Daトレーナー)による評価
指名案件によるアイドル「七草にちか」の価値の肯定
子どもたち(重要!)のファンの存在の示唆
をにちかに与えている。あくまで導入なのでさっさと次の論点に進めてしまいますが、こう、積み方が上手いですよね。
アイドルを構成する特別な要素とは何なのか?
この論点を追う筋として前編では3つ挙げたのですが、実際には4つありましたね(ファンを「特別な誰か」とすれば数は合いますが、千雪GRADを下敷きにしている以上ここはやはり区別すべきかなと思います。)。
前編の流れとは順番を異にしますが、まず取り上げられたのは「特別な誰かによる承認」です。LP中、何度か登場するこの背景はもちろん「セヴン♯ス」におけるビールケースのうえの合一を指しています。
そのほか冒頭でもこのように発言しており、ユニットとしての関係の結実を彼女自身感じていることを裏付けていて、いいですね。美琴の章で触れたことの繰り返しですが、やはりシーズはもう大丈夫です。
一方で、前編で述べた「にちかの中のなみちゃん」は登場しませんでした。これについてはまた後で振り返ろうと思います。
2つめは「ファンによる承認」。先にも述べた通り、前編では取り上げていなかったものですね。まあ一応、過去にはこういうことも言っていたりするのですが、負けでしょう。これまでシーズのコミュは徹底してファンというものが影を(ファン感謝祭編ですら)見せていなかったので、なかなか取り扱われる自信がなかったんでしょうね。
ただ、これが単に「アイドル七草にちか」への需要という意味での承認ではなく憧れの対象になるという意味での承認だということが重要だというのは指摘しておきたいです。かつてにちかが八雲なみに憧れてアイドルになったように、きっと誰かが七草にちかに憧れてアイドルになる……そういう循環性、あるいは連続性もまた、シャニマスの大切にしているテーマですから。
3つめは「自分自身による承認」です。自己愛とか、シャニマスのいう「あい」が意味する代表格のやつとも換言できますね。GRADに至ってはプロデューサーに破滅願望があるとまで言わせるほど、にちかはこれまで彼女自身の価値を肯定することが出来なかったのですが、ついにLPでそれを遂げることに成功しました。
そのアプローチもニクかったですね。「ちょっと上手くない」からこそ努力する自分の姿が誰かを応援できるのだという形で自分を認める。性分というべきか自嘲っぽいところはそのままにすることで、傷の絶えなかったこれまでをも受け入れるような感じがあって、とても好きです。
しかもこれについては、わざわざ「ノー・カラット」の端役を再登板させ彼女の将来性をシビアに疑問視させたうえで、「これまで」の鬱積を晴らすかのような開き直りをみせて後顧の憂いを断つという徹底ぶり。この自己肯定には鋼の……ダイヤの強度があるのだとでも言っておきましょうか(笑)
余談ながら、この新人お笑いにはにちかの写し鏡的な部分があり、彼の目標が家を建てることだというのもその説を補強してくれます。
最後に、プロデューサーからの承認……ではなく(だって、彼はもうとっくに認めていますからね)、彼が感じ取ったものについて。
懸命さと、あと……つづくものはなんなのか。実はというか当然の事実として省略していたのですが、WINGの冒頭、出会いコミュでプロデューサーはこう述べています。
このふたつを支えるものこそが「求める心の強さ」なのだと、私はそういうつもりで書いていた……と言うと、すごく後出しっぽい感じになっちゃってる気がしますが、まあそういうことなんです。
で、解答はどうだったかというと、彼はこのように言っています。
どうでしょう。欲しい、という気持ちの強さ。合っていそうです。もちろん、忍耐力とか、生命力とか、人それぞれ見たいものを見出すことは出来そうです。繰り返し本音を言うと、ここは信仰のキモの部分でもあったのでもっとドラマチックであってほしかったのですが、でもたぶん、合っていたんだと思います。報われた気がしました。
……さて、感傷に浸るのは程々にして次の論点に進みます。
283の論理に対する挑戦
前編で行った整理における最後の論点である、「283の論理」に対する挑戦として残されたもの、すなわち「にちかを守る靴」の結末についてです。なんと、冒頭でいきなり話題に出してくれました。
なるほど、最後のコミュで履くっていう構成ですね分かりました。
………
……
…
おかしいな、さっぱり出てこないままライブ始まって終わったんだけ…
あっ……なるほど!?レッスン室で履くのか!!うわ、天才か????
……
…
~~FIN~~
LPで一番ビビったね。これについては予想と言うか、かんっぜんに規定路線だと思ってたので……なので、ちょっと展開の予想がつかないです。「結局最後まで靴を履かない」みたいなパターン(それこそ例えば「これ履いたらプロデューサーさん調子乗りそう」+「その代わり目を離さないでくださいね」コンボとか)はまぁ無くは無いですが、この精度で論点を回収してくれるだけの誠実さを考えるとあんまり支持したくはないですね。
「まだどこにもいってない」というにちかの発言は「そうだよ」の歌詞を参照したものです。これに基づいて発言を解釈すれば、「自分は『月』に相当する成果を達成していないから靴を履けない」ということになります。
しかし、これには2つの疑問があります。ひとつめ。この発言を裏返せば、にちかが靴を履くときは何かとても大きな目標を達成したときだということになりますが、それは一体何なのか。ふたつめ。歌詞をみれば分かる通り「靴」は本来「月までだって連れていってくれるもの」であって、「月に着いてから履くもの」ではないはずなんです。
ミスの可能性は棄却してよいので、やはりにちかに理由を求めるしかないでしょう。彼女にとって「なみちゃん」と「そうだよ」はあまりにも大きな存在であり、心の拠り所です。今回ついに彼女が自身を認めることができたけれども、それでもなお彼女の原初のアイドル「なみちゃん」の歌をなぞらえるには程遠い……とか?別になにか解き明かした感じしないですね。
いずれにせよこの疑問に八雲なみが深く関係していることは流石に間違いないのでしょうが、今回のLPにおいて八雲なみ本人はもちろん、八雲なみに繋がるモチーフもこの「靴」を除いて他に全く登場しませんでした。にちか達の人生は今後も続いていくにせよ、にちかが彼女の力で着地してみせたこと、ここはしっかり評価すべきなのでしょうね。
家と食事、家族について(カバー対象外)
さて、これが最後にしてある意味で最大の論点であり、前編で取り扱わなかったものです。家、食事、家族。このうち、家と家族が厳密に区分可能かは難しい……というかそれだけで議論を必要としそうなのでこの場では勘弁してください。ていうか誰か書いてくれないかな。私含めてこれも何か皆雰囲気で話してないですか??
ええと、一旦この場では家と家族を同一……同一に……
283プロの皆は、大崎姉妹と七草姉妹を除いて別に血を分けた家族でもなんでもない、ただアイドル事務所に寄り集まった人たちに過ぎなくて、ユニットを跨いでしまえば知らないことの方が多いかもしれないくらいには疎密もある。でも「283の論理」のもとに価値観と経験の一部を確かに共有する集団でもあって、その論理を共有する場所を指す場合には「家」と呼んで、集団を指す場合には「家族」と呼んでいるのかな……
ただし、にちかのシナリオにおける「家族」はそういう特殊な定義とは違う原義どおりの「家族」であって、「ぜんぶがあった頃」という言葉が象徴するように幸福の形そのものでもあって、しかしそれは彼女の父の死とともに失われてしまっています。
プロデューサーはその欠落をなんとか埋めようと無償のあいをにちかに捧げようとしていて、でも家族じゃないからプロデューサーに出来ることはそんなにないし、家族じゃないのにどうしても父親の影がチラついてしまうのがにちかには辛くて、寄り添いたいけど寄り添えない二人が傷つけあいながらなんとか寄り添おうとしてきたのがこれまでの歩みだったと思います。
またシャニマスは、最初期から「食事」という活動を幸福の象徴として大切に取り扱ってきました。
この「家」あるいは「家族」、そして「食事」もシーズのふたりの間の距離を示すものとしても何度も使われましたが、にちかとプロデューサーにおいても同様です。
特に【夜よこノ窓は塗らないデ】で七草家の記憶に紐づく強力な幸福の象徴として登場したすきやき鍋では、ふたりが別々の鍋をつつくことをもって一つにはなれない寂しさを表現していました。
それが今回、ついでという格好ではあるものの、にちかからプロデューサーに対して豆腐のチーズケーキが贈られます。とても大きなブレイクスルーです。
極めつけ、舞い上がるプロデューサーをせっついた後にこの台詞。ふたりの関係がここまで来てもう、落涙です。
それでは果たしてこれで二人の関係が完成したのかというと、やはりこの面でもまだ余白があるんじゃないかと一夜二夜経った今は考えています。「家族」のほうはこの「いってらっしゃい」をもって完結したとすることは出来ると思うのですが、問題は「食事」のほうです。
まだプロデューサーが貰っただけで、にちかは受け取っていない。つまり双方向性がなく、あいの交換が成立していない。
同じケーキを分け合って食べたのではないため、幸福の共有をしていない。
もっともこれは重箱の隅をつくようなもので、「靴」の展開と合わせて展開したら凄いなという程度の妄想です。こちらの正誤については比較的早期に分かりそうな気がするので、それまでは特に真剣に考えず幸福感に浸っていようと思います。
まとめ
最後に、前回同様簡単に整理します。少し見にくくて恐縮ですが、大項目とLPで進展のあった部分を太字、読み筋の当たっていたと思うものを○、間違っていたものを×、読み筋にはなかったものを+として表記しています。
シーズはダンスに秀でたユニットとして成長した
にちかの実力の向上
二人の(特に美琴の)対話能力の向上
物語は能力に勝るのか?
パフォーマンスの追求で需要に応えうることを実証
ただし物語性を伴っていないとは言い切れない
×:この論点は整理されなかった
+:「自然体」というキーワードの登場
アイドルを構成する特別な要素とは何なのか?
自分がそう認めること?
+:踊ることが、アイドルをやることが楽しいからやる
○:自分の価値を自分で認めた
特別な誰かにそう認めてもらうこと?
○:互いが互いをアイドルとして認めた(「セヴン♯ス」にて)
プロデューサーが感じとったもの?
○:「懸命さ」を支える想いの強さ
+:誰かの憧れになること
283の論理に対する挑戦
美琴は少し歩み寄った(軟化)
プロデューサーは選択への関与を強化
にちかはまだアクションを起こしていない
×:靴を履かなかった
+:家と家族、食事について
にちかはプロデューサーのあいに報いた
ただし余白が残されている可能性
終わった~~~。それはそれは待ち望んだシーズLPでしたが、事前の整理の甲斐もあってか読んでみるとかなりスっと入ってきて、そこまで書くこともないかなあと思っていたんですが、結局想像の2倍ぐらいの長さになってしまいました。内容としてはほとんど自己採点であって、前編以上に皆さんの読解の助けになるようなものにならなかったような気がしますが、お盆休みの暇つぶしにでもなれていれば幸いです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。何もなければ年末の記事か、ルビコン3で私と握手しましょう。それでは。
引用
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