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トムブラウンの漫才から考える「死について」とアート

今年も例年楽しみにしていたM1グランプリを観た。
最高だった。
3時になるまでにお酒と肴を用意し、暖房をつけて敗者復活から
テレビにかぶりつくようにそれはもう。

もちろん1回戦からyoutubeに上がる動画を見て備えているため、
推しのコンビなどもいるのだが、大前提すべての漫才師をリスペクトしている。

今年のM1、全組面白かったが一番笑ったのはトムブラウンだった。
そして自分でもよくわからないため内省のためにこの記事を書いている。


何が面白いと感じるのか?

みちおの「ハゲたいなぁ~」から始まる。
キャーと言って叩く布川だが、ここでまず注目したいのは、
どっちがキャーなのか?だ。

自分なら、ハゲたいなと言ってあんなに全力で叩かれたら
その方がキャーである。
ここでこの漫才が「いかに暴力的か」ということを知らしめているのだ。

そして暴力というのはその物語のフィクション性を表すのに手っ取り早い。
現実ならあり得ないからだ。現代ならなおさらその効果は高い。

さらに暴力的な物語を異常に好みとする層も一定数存在する。
例えばホラー映画を好む人たちだ。

ホラー映画に心を惹かれる人がいる理由(同時に、ホラー映画に心を惹かれない人もいる理由)については多少研究されていて、ホラー映画に夢中になっている人は、ほとばしるアドレナリンの効果と映画が終わった後の安ど感をしばしば好むことが実証されています。

https://www.lifehacker.jp/article/why-i-watch-horror-movies-to-help-with-my-anxiety/#1

そう考えると真空ジェシカの「ピアノがデカいアンジェラ・アキ」のネタも、ホラーやスリルの要素があった。

※余談だが、なぜか思いっきり頭を叩くことなんかよりも「イッキ飲み」のネタって大丈夫なのか、、と心配になってしまったので、脳がアップデートされすぎてしまって悲しい。

トムブラウンのネタは「B級ゾンビ映画」

トムブラウンのネタは、例えるならB級ゾンビ映画に近い。
みちおがなぜ銃を持っているかわからないし、すぐホストを撃ってしまう。
そしてその状況に驚き、踊ってから自分も撃ってしまう。
「なんでそんな状況になるのか」などはどうでもよく、展開だけ気楽に追っていくようなものである。

そして布川はゾンビのように何度も生き返り、殺されていることにはまったく触れない。
普通の漫才なら「殺すなよ」というツッコミが入るが、この漫才の中では「死」が当たり前なのだ。

死をどう扱うか

M1で死について触れるネタはもう一つあった。
バッテリィズの「世界遺産」のネタだ。
確かに世界遺産はお墓が多い。我々が知らず知らずのうちに偉人の墓参りをして死を身近なものとして受け入れていることに気付かされた。

現代は死について非常に触れづらい。
それは当たり前で、もちろん悲しいし切ない。悔やむ人も周りにはいっぱいいる。
しかしながら「死」の話題そのものを敬遠することは果たして良いのだろうか。
例えば故人の話をする際には頭の中に「死」がよぎる。
するとだんだんその人の話をしづらくなるのではないだろうか。

つまり死のテーマを遠ざけることは故人を忘れていくことにつながるのではないかということだ。
世界遺産の墓は故人の偉業などを伝える良い装置になっている。

そして再三話をするがトムブラウンのネタは「死」を当たり前化している。
これは人にとても優しいように思える。
もちろん暴力を肯定しているわけではない。

例えば死後、自分のことを忘れ去られるのではないかといった不安な気持ちになる人達がある意味で安心するようなネタということだ。
ここに「緊張と緩和」の緩和の要素がある。
少なくとも私はもし死ぬとしたら自分のことを周りに笑いながら話してほしいと思っている。

死とアート

意図的かは定かではないが、みちおがダンスをしてから自分を撃つ行動について考える。

西洋美術の歴史の中で、「死の舞踏」と呼ばれるテーマが人気を博す。
中世ヨーロッパにおいて黒死病(ペスト)と呼ばれる病気が流行した、今から1000年前の話である。
その時全世界で1億人が亡くなったと言われている。
(コロナでも現時点で500万人ほどなので、とんでもない数字というのがわかる。)

そんな極限状態で神に祈りの捧げていた人々の中から突然踊り始め、周囲を巻き込みつつ倒れるまで踊り続けるという事例が発生する。
それについて描いたのが始まりである。

後にそこからリバイバルブームなどもあり、「身分の違う人たちもいずれは同じく死に向かう」という意味が込められ描かれるようになる。

みちおのダンスが意味していたことがそうなのかは定かではないが、
アートとは受け手が想像して楽しむものであるので、そういう解釈も面白いのではないかと思ったりするのだ。

最後に

こういう感想ってサブいなと思いつつ、
言語化しとかないと気持ち悪さもあるので書いておきました。

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