中国アニメ事情② 〜中国アニメの歴史〜 日本アニメ界の巨匠も憧れた中国アニメの祖とは
このキャラクター、ご存知でしょうか?
2006年頃、サントリー烏龍茶のCMにも起用されキレのあるダンスを踊っていたので、頭の片隅にそんな記憶がある方もいらっしゃるかもしれません。
もしくは、子供の頃テレビでこのアニメを見たことがあるという方もいるかもしれません。
これは、万籁鸣(ウォン・ライミン)という中国のアニメーターが製作した作品「西遊記」に出てくる孫悟空です。ウォン・ライミン氏は中国アニメのはじまりを切り開いた人物で、歴史を語る上で欠かせない存在です。
今回は、中国アニメ事情②と題して中国発のアニメの歴史について調査します。
改めましてこんにちは。いつもご覧いただきありがとうございます。
前回の中国アニメ事情①は、海外でも人気の日本アニメについてご紹介しました。中国でも日本のアニメが知名度、人気共に高く消費活動も活発にされていることがお分かりいただけたと思います。
では、今回は中国生まれのアニメについて見ていきましょう。
実はアジア初の長編アニメは中国で作られた!
アニメといえば日本というイメージが定着していますが、
実はアジアで初めての長編アニメは中国で作られたのです。
製作したのは冒頭でも紹介した万籁鸣(ウォン・ライミン)と、その双子の兄弟の万古蟾(ウォン・グチャン)です。作品は「西遊記 鉄扇公主の巻」。
この作品は1941年に公開されました。内容は中国の民話である西遊記をベースに作られており、当時としては異例の長さである73分の超大作でした。
中国アニメのはじまりはウォン兄弟
万籁鸣(ウォン・ライミン)と、その双子の兄弟の万古蟾(ウォン・グチャン)、さらにその弟の万超塵(ウォン・チャオチェン)と万滌寰(ウォン・ティーホアン)のウォン兄弟は、中国で初めて専門職としてアニメ製作に携わったアニメーターです。
時は1930年代後半。当時の上海は日本に占領されていました。その最中に、ウォン兄弟はディズニーの「白雪姫」を観たことがきっかけで、白雪姫と同等レベルの長編アニメの制作に乗り出します。
ここで重要なのはその原動力は『国威発揚』であること。
外国へ威光を示すため、力を主張するために長編アニメを作り上げることを決意します。そしてその結果、3年という歳月、237名のスタッフ、日本円にして500万円以上の資金を注ぎ込み、この作品を完成させました。
手塚治虫も影響を受けた
ディズニーの要素が色濃く現れていたとはいえ、中国独自の作風も現れているこの作品の影響は多方面に及びました。
上海での公開の翌年には早くも日本へ輸出されます。この作品はディズニーが公開禁止とされていた戦時下の日本で公開され、大ヒットを記録しています。
日本人はディズニーよりも先に中国のアニメに触れ、盛り上がっていたことがわかります。
手塚治虫も尊敬するアニメーターのひとりにウォン・ライミンを挙げ、作品作りにおいても多大な影響を受けていると言われています。のちに対面を果たし、1979年には、中国のアニメ監督である厳定憲監督も交えて、孫悟空と鉄腕アトムが握手するイラストを制作した記録も残っています。
その後、ウォン兄弟は数々の長編アニメを製作し続けます。
冒頭に紹介した孫悟空が登場するのは「大鬧天宮」(大暴れ孫悟空)という作品で1961年に公開されました。
この作品は海外の映画祭でいくつも賞を受賞しており、作品としても質が高いですが、当時文化大革命の直前である中国国内では、作中で大暴れする孫悟空は毛沢東のメタファーと見なされ、上映が禁止されていました。
のちに公開されるものの、文化大革命によって作品製作は不可能となり、アニメ製作は産業として機能不全に陥ります。当時を振り返り、ウォン・ライミンは”10年を棒に振った”と述べています。
当初これだけの技術があったにも関わらず、歴史的な要因によってその発展が妨げられてしまったという背景があるようです。
では、現在の中国アニメは?
アニメ事情① でもお伝えしたように、現在中国政府は国内アニメ産業へ力を入れています。(以下抜粋)
中国政府は2004年から国産アニメ育成、保護する目的で海外作品のテレビ放映を制限しています。規制はその後強まり、中国で制作された作品がアニメ放送の7割を下回らないように規制されたり、午後5時から9時のゴールデンタイムには海外アニメの放送を禁じるよう政策を打ち出しています。
経済的な発展や、日本で技術を学んだ中国人アニメーターの活躍の出現、さらに政府の後押しもあり、中国生まれのアニメが続々と誕生しています。
例えば、「罗小黑战记(ロシャオヘイセンキ)」
原作者は漫画家のMTJJで、2009年の漫画連載からはじまり、2011年にはWebアニメ公開、さらに2019年には中国国内で映画も公開され大ヒットを記録しました。10年に渡り、原作から映画化まで中国国内で育て上げられた作品です。
中国アニメ事情①でも紹介しましたが、インターネットを利用して動画コンテンツを視聴する習慣が定着したことで、気軽に作品に触れられるようになったことも、評判が広がっていった要因のひとつと考えられます。
更に注目すべき点は、この作品は日本でも上映され徐々に評判が広がっていったことです。はじめは、東京池袋の映画館で細々と上映され、当初は日本に住む中国人にいち早く新作の中国映画を届けることが狙いだったそう。
しかし、そのアニメーション技術の高さや丁寧な作り込み、物語そのものの面白さなどが日本のアニメ・映画ファンの間でも評判を呼びます。
口コミが広がり、2020年にはアニプレックスが共同配給につき、「羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来」として日本語吹き替え版が上映されました。声優には中国でも人気のある花澤香菜さんが起用されたこともあり、日中両国で話題となりました。
上映館数を拡大するもチケット完売が続出し、中国からの輸入アニメ映画としては異例の約一年のロングランヒットを記録しました。
アウト寸前を攻める異端のアニメも登場
もうひとつ面白い作品を紹介します。
繰り返しになりますが、中国ではアニメや映画作品に対して、暴力的な表現の規制が厳しく敷かれています。中国のアニメ会社はもちろんその点を意識して作品制作に取り組むわけですが、その際どいラインを攻めている作品があります。
「大护法」というアニメ映画です。
こちらの作品は原作を持たない完全オリジナルの中国アニメ映画で、2017年に公開されました。公開前は本当に公開できるのかといった声もあったそうですが、その理由は暴力の美学をテーマにしているところ。
暴力的な表現が規制されている中国ではかなり異端な存在です。
中国には映画鑑賞に際して年齢規制を設ける文化や規則はなく、映画=全年齢楽しめるものというイメージですが、この作品は制作側から13歳未満の視聴を控えるよう呼びかけられました。
政治色を色濃く出していたり、登場人物の内面の闇を表出させるような描写もあり、中国アニメ映画としては斬新です。
見る人を選ぶ作品ですが、アニメーションの質も高く、中国の「豆瓣」という映画やドラマや本を評価するウェブサイトでは10点満点中7.8点を記録するなど、高く評価されているようです。
1940年〜60年頃、中国は高い技術を持ちアニメ製作に取り組んでいたこと、そして現在は経済的にも成長し、産業として規模拡大を続けていることがお分かりいただけたでしょうか。
また、アニメ作品そのものだけでなく、映画化やグッズ化も盛んに行われています。
ビリビリ動画には、公式グッズが購入できる仕組みが構築されており、ただ作品を楽しんでもらうだけでなく、アニメ産業全体を盛り上げています。
最後までご覧頂きありがとうございました。
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