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2022年1月の読書

1月は6冊読んだ。『21世紀の資本』は読み切れていない。

中山可穂『娘役』『銀橋』

友人に「中山可穂の宝塚シリーズはいいぞ」と布教されたので『男役』と合わせて年末年始で一気読みしたのだが、たいへん面白かった。

ちなみに私は宝塚については無知である。ヅカに入れ込んでいる人たちはかなり凄いお金の使い方をしているとか、音楽学校の倍率が凄いとか、そういう断片的な知識はあるが、本作を読んだことで「宝塚を見る人はなぜ宝塚を見るのか」という部分を小説の形を通して摂取でき、明瞭になった。

このシリーズは小説の体裁でありながら、推し語りでもある。作者あとがきで「ヅカファンに向けた小説」と書いてはいるが、知らないジャンルでも人が推しを楽しげに語っているところを見るのは楽しい。別ジャンルではあるが『有田と週刊プロレスと』がウケた原因もここにあるだろう。

「人は宝塚に何を見るのか」が分かると、宝塚モチーフの作品を見る目線が変わる。たとえばアニメ化もされた『かげきしょうじょ!』はアニメ放映当初はイマイチ良さが分からなかったのだが、今では良さが分かる。「さらさが男役として大成するには」という物語の線が見えるからである。レヴュースタァライトも今見たら感想が変わりそうだ。

小説の話に戻そう。『娘役』は「宝塚好きの極道」という変化球のキャラクターと娘役という、決して交わることのない二人を描くことで舞台の上と下の明暗差を描き出す一作だ。『男役』では「存在しない架空の性」を持つ生物として造られる男役の翳を描いていたが、男役を「理想」たらしめるのは娘役のいじましい努力である、という宝塚の一面が語られる。

『銀橋』ではプロフェッショナルである専科が描かれる。三作目ともなると作者の宝塚描写もとにかく凄くなっており、あとがきにもあるように変化球なしでの宝塚小説になっている。宝塚ファンのみならずともオススメできるシリーズだ。

Martin Kleppmann『データ指向アプリケーションデザイン』

チームで輪読していたのだが、足かけ4ヶ月くらいかかってようやく読み切れた。分散システムの歴史や研究から実務のレイヤーまで扱うトピックは幅広い。実務経験を積んでいなければ理解することは難しい内容だ。その上で、実務で大規模なデータを取り扱うITエンジニアにとっては有用な指針となるだろう。

スケーラブルで信頼性のあるシステムをどう作れば良いか、という点について絶対の解は存在しない。その上で、どうやって立ち向かっていけば良いかを丁寧に説明してくれる。

中盤、特に5章のレプリケーションと7章のトランザクションについては理解が曖昧だったり足りなかった部分を説明してくれて非常に良い。コードレビューの際にこういった部分を指摘できるようになれたら開発の安全性に寄与するだろう。

秀逸なのが9章で合意が取り扱われることで、8章までの内容を理解しなければ合意アルゴリズムの妙を理解できないということが嫌でも分かる構成になっていることだ。

終盤はRDBやKVSにまつわる問題よりはデータエコシステム全体に関することが説明されるが、モダンなシステムにおいてはやはり考えるべきことであり、学びの多い一冊だった。

ハルバーソン『やり抜く人の9つの習慣』『やる気が上がる8つのスイッチ』

これは同じ著者の『やってのける』を読んでいれば内容はほぼ同じなので読まなくて良いし、役に立つ度合いで言えば『独学大全』『ジェームズ・クリアー式 複利で伸びる1つの習慣』のほうが役に立つ。

『世界初のビジネス書 15世紀イタリア商人 ベネデット・コトルリ15の黄金則』

ビジネス書を論う企画が人気だが、数多ある<ビジネス書>を腐すくらいならこれ一冊読んでおけば良いだろう。要するに、現代とほとんど書いてある内容の根底は変わらないのだ。進化の少ないジャンルなのであれば古典だけ押さえておけば良いと思っている。

本書の主張はありきたりだ。立地を考えろ、苦難に耐えろ、焦るな、偽るな、記帳をしろ。主張の根拠は四体液説やキリスト教道徳に依っていたりはするので非科学的だったりするのだが、主張の内容は至って真っ当なのである。このパターンはセネカを思い出す。セネカの『怒りについて』に描かれる当時のローマ市民の問題点は驚くほど現代の我々に似通っている。実際本書の原著者であるコトルリはセネカの「外的な行為を通して内的な性格が認識される」という格言を引用しているので、当時においてもセネカの言葉は世の中で通用するものだったようだ。

複式簿記の萌芽が見られたり、歴史的な背景も込みで楽しめるのだから、数多あるビジネス書を読むよりはやっぱりこっちを読んだ方が楽しめるだろう。少なくとも私は楽しめた。

来月読みたいもの

いい加減『21世紀の資本』を読み切りたいのだが、きちんとメモしながら精読しなければならないのでなかなか進んでいない。2月は既に脇道に逸れて冲方丁『麒麟児』や田島木綿子『海獣学者、クジラを解剖する。』を読み切ってしまった。読まなければならない本ほど時間がかかり、読まなくても良い本ばかり読み進めてしまう。

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