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自由帳10頁目「老い」

先日、PCを買い替えた。
自分の落語会をネットで
ライブ配信することになるとは
本当に思ってもいなかった。
こんな状況じゃ仕方ない。
やむなく始めたものでも、
やるとなると欲も出るもんで。

旧PCの挙動は見ていて
可哀想なくらいだった。
電源入れて操作出来るようになるまで
およそ1分。
スリープ状態から元に戻るまでも
大体同じくらいかかる。
まるで年老いた馬に鞭打って
無理やり立たせて荷を運ばせるかのよう。
鞭で打たれると長年の習慣で
馬は閉じていた眼をゆっくり開けて
ヨロヨロ立ち上がり荷を運ぶ。
そんな馬を働かせるなんて鬼か。

という雰囲気が出てた、
前のPCは。
まあそんな牧歌的なものではなく
もう単純にストレス源だし、
ライブ配信中にPCの画面が
突如真っ暗になったら…
その手のトラブルは避けたい。

というわけで、
設備投資の一環として
思い切って買い替えた。
速い。電源入れると
シュッと立ち上がる。
呼ばれてパッとすぐ立つ様は
やる気あふれる新入社員みたいだ。
スリープモードからの戻りは
「あ、すいません寝ちゃいました!」
と大きな声で謝って頭下げてる感じ。
いいよいいよ、この時間眠いよね、
と言いたくなる。
もちろん言わないが。
とにかくハツラツとしている。
私にはまぶしいくらいだ。
あとでディスプレイの明るさ調節しよう。

エネルギッシュな相棒を得たことで
noteに何か書こうという気にもなれた。
最近ご無沙汰だったし。
前に書いたが
私はキーボードを叩いて
文章を書くのが好きだ。

ところが最近の自分ときたら、
洗濯・皿洗い・麦茶作りの他は
娘の風呂とおむつ替えくらいしかしてない。
あまりに単調で刺激が乏しい。
麦茶作りについて書けと言えば書くが
お互い得しないと思う。

刺激と言えば、こんな世の中だからか
あまりインパクトの強いテレビよりも
のんびりとした番組を観る人が
増えているらしい。
確かに我が家もそうなってる。
朝と夕方の子供向け番組以外は
ゆるっとした生活情報番組を
ちょこちょこ観るくらいで
それ以外はそもそも観ない。
みんな疲れてるのよ。

平日のお昼にやってる
ヒルナンデスはそういう意味で
とても優しい。
昼間からおじさん達が怒ってるのを
わざわざ観ようとは思わない。
南原さんはきっと
普段も優しい人なんだろうな。

そんなこんなで家に居れば
大体見ているヒルナンデスで、
先日ものまね芸人が
やたら出てる週があった。
そういう企画だったんだろう。

ものまねという芸は非常に好きで、
またそれを会得している人は
それだけで尊敬できる。
小学生の頃から
ものまね番組はよく観ていた。
まさか自分も芸人になろうとは
思ってなかったが。

で、先日の午後。
ものまねを見ていて
恐ろしい事実に気が付いた。
ものまねをしている芸人さんを知らない、
これはよくある。
みんな初めから有名なわけではない。
そうして露出を増やして
売れっ子になっていくわけで。
それより怖くなったのが、
その知らない芸人さんが
「誰のものまねをしているか分からない」
「ご本人を知らない」

悍ましい気持ちになった。
多分最近売れてるミュージシャンの
ものまねなんだろうけど。
お歌を聴いても分からない。
名前を聴いても分からない。
ニャンニャンニャニャン…
ニャンニャンニャニャン…

今までそんなことなかった。
人のものまねを見ながら
「うわー似てんなあ」
「あーもうぜんっぜん違う」
とか言うのが楽しみだったのに…。

これはもう、取りも直さず
私が年老いたということで。
まだ大丈夫、心は若いと
強がる気にもなれない。
そういやこないだテレビ観てたら、
インタビュー受けてる子が
ため口で答えていたのに
「最近の若い奴らは敬語使えないのか?」
と思わずつぶやいた気がする。
この言い回し、
年寄りそのものじゃないか。

PC買って浮かれてる場合じゃない。
私は年老いた馬の側だった。
こんな形でそれを知るとはね。
あーやだやだ…。
今日の夕食後、それをまた思い出し
リビングで眼をつぶって
ぼんやり座っていたらかみさんが
洗濯しといてねと言って去っていった。
確かに私の仕事かもしれないけどさ…
こんな悲嘆にくれてる夫に言う?

でも言いつけられると長年の習慣、
閉じていた眼をゆっくり開けて
ヨロヨロ立ち上がり洗濯していた。
そんな夫を働かせるなんて鬼か。





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