霊視的なあれの話④
生家には小さな仏壇があった。
仏壇はリビングの隣の部屋にあり、その部屋は父親が使っていた。とはいえ、飲み歩きあまり家に帰ることもなかった父親がその部屋でする事といえば酔い潰れ寝るだけだったが。
さておき、仏壇には細い引き出しがあり、引き開けてみるとその中には小さな本が一冊収められているのが知れた。
和綴じされたものだった。白い紙に墨絵で描かれたそれは地獄の獄卒が死者を拷問しているもので、ところどころに朱で彩色がなされていた。朱は血を表していたのかもしれないが、妙に生々しい空気が感じられ、わたしはそれを開くたびに恐怖した。
その本に関することを家族に訊ねるわけにはいかなかった。なにしろ勝手に漁っていることが知られたらまたひどく殴られるのだから。ゆえに、その本が何であるのか、なぜそこにあるのかを知ることは出来ないままだった。
長じた後、ふと思い出して仏壇を検めたが、そこに引き出しはついていなかった。仏壇が新しくなったというわけではなかったから、おそらくは最初から引き出しなどついていなかったのだろう。
ならばわたしが幼い頃に繰り返し手にしたあの本は何であったのか。自分もいつかこの場所に行くのだと恐怖した、あの本は。